SPAC「グスコーブドリの伝記」

◎さまよう目がたどりつく「グスコーブドリ」
 廣澤梓

「グスコーブドリの伝記」公演チラシ その上演は遠く、焦点が定まらずに目がふらふらして輪郭がぼやける。つまりは、よく「見えない」。視界を遮るものはなかったし、見るのに遠すぎたわけでもない。SPAC『グスコーブドリの伝記』を鑑賞したのちに残ったこの感覚は、観劇において見えるということがどういうことなのかを教えてくれる。見ることとは、はっきりと近くに全体を通して、ということだ。近くに、というのは物理的な距離だけでなく、心理的な隔たりでもある。また見えなさは目に宿る、見たいという欲望にも気づかせてくれる。満たされることなくさまよい続ける目は、わたしを「考え続ける」ことへと導く。
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べドラム・シアター「聖ジョーン」

◎1+3=1+23
 辻佐保子

 資料調査のためにマサチューセッツ州ケンブリッジに一週間滞在することが決まった時、真っ先に “Cambridge theater” とキーワードを打ち込んで検索をかけた。当地の演劇事情には明るくないものの、行くからには何かしら演劇作品を見たかった。結局2作品のチケットを予約した。
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ワンダーランドサイト休止のお知らせ

◎4月からサイトとセミナーを休みます

ワンダーランドは今年2015年4月からしばらく、劇評サイトを休止します。劇評を書くセミナーの新年度の予定もありません。サイトは2004年にスタートして10年余り。セミナーは2008年に始まって7年たちました。ともに年末まで休みを取り、あらためて積み残しの課題に取り組めるのか、取り組むならどうするかなどを検討することにしました。活動はほぼ3月いっぱいが区切り。これまで支えていただいた読者、執筆者のほか、観客や劇場、演劇関係者の方々の厚意に感謝します。温かい支援に応えられなかったことを残念に思います。

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ほりぶん「とらわれた夏」

◎傍若無人なつむじ風―振り切る演劇
 大泉尚子

ほりぶん公演チラシ 竜巻はその約八割がアメリカで起き、勢力も圧倒的に強いのだそうだ。近年、日本でも竜巻のニュースを時折耳にする。竜巻がなぜ発生するのか、そのメカニズムについてはまだまだ未解明の部分もあるらしい。ところで劇場でも突風に出っくわすことがある。たとえばナカゴー。ほんの些細なきっかけや動機で登場人物たちの感情が突如荒れ狂い、暴走に暴走を重ねる。牛や自転車や家までも空に巻き上げた「オズの魔法使い」の竜巻さながら、ヤダヤダという間もなく観客はその渦に巻き込まれてしまう。

  そのナカゴーを主宰する鎌田順也が墨井鯨子、川上友里(はえぎわ)と、去年の12月に「ほりぶん」というユニットを立ち上げた。初舞台というが、一体何が飛び出すのだろう。
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鳥公園「空白の色はなにいろか?」

◎主人公の空虚と呼応する男性の危機
 水牛健太郎

鳥公園公演チラシ 今回の公演「空白の色はなにいろか?」製作の途中の工程にあたるショーイング公演については昨年、劇評(なにものかへの別れのあいさつ――鳥公園「空白の色はなにいろか?」)を書いた。ショーイング公演は大阪の造船所跡地(クリエイティブセンター大阪)で行われており、広大な敷地を生かした演出が印象的だった。今回は打って変わってSTスポットという、小劇場の中でもかなり小さめのスペースなので、違う作品になることは十分予想できた。 “鳥公園「空白の色はなにいろか?」” の続きを読む