◎「マッチ売りの少女/象-別役実戯曲集」(三一書房、絶版)
松田正隆
戯曲というものを知ったのはこの本があったからだろうし、今でも、私にとってきわめて重要な戯曲である。「マッチ売りの少女」の場合、舞台に老夫婦が現れて、そのあと、姉弟が入ってきたときに、内にいる人と外から来る人の違いが出るのだということが、ものすごいことに思えてならなかった。ひとまず、そのことがこの戯曲の最大の奇妙さである、と思った。舞台で戯曲を上演するということはこれほどまでの虚構を成立させることができる。そこにそれまで住んでいた人とそこにやって来る人の「差」がたちどころに出現し、なにかがなに食わぬ顔で始まるのである。そのことになによりも驚いたのだった。「家の中の人」も「外からの人」も同じように「舞台のそで」から現れているにもかかわらず、である。
“忘れられない1冊、伝えたい1冊 第5回” の続きを読む