文学座アトリエの会「信じる機械-The Faith Machine-」

◎人間はどのような機械なのか。
 北野雅弘

「信じる機械」公演チラシ
「信じる機械」公演チラシ

 『信じる機械』の作者アレクシ・ケイ・キャンベルはゲイであることをオープンにしている劇作家で、TPTが2011年に上演したデビュー作の『プライド』も、現在と50年前を対比することで、社会的偏見がどれほどゲイのアイデンティティを歪め苦しめていたのかを描いていた。今回は、ゲイ排斥を確認したイギリス聖公会のランベス主教会議が話題に出てくるし、魅力的なゲイが描かれるのだけれど、この作品の「人間とは何か?」というテーマは社会的というよりはむしろ哲学的だ。

 冒頭の場面は2001年9月11日のニューヨーク。911の直前の設定である。床一面に雑誌などのページが隙間なくまき散らされ、奥には戸口を塞ぐようにうずたかく積み上げられた舞台(美術:乗峯雅寛)が印象的だ。場面が変わってもこの印刷物のセットは変わらないので、それが登場人物には見えないことが分かる。そこに諍いのただ中にあるソフィとトムのカップルと、ソフィの父親エドワードが登場する。エドワードも、まき散らされた雑誌と同様、ソフィたちには見えていない。もう死んでいるのだから。
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流山児★事務所+楽塾「寺山修司の『女の平和』~不思議な国のエロス~」

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「寺山修司の『女の平和』~不思議な国のエロス~」公演チラシ

◎おばさまたちの「女の平和」
 北野雅弘
  
 流山児★事務所と、流山児が塾頭を務める「楽塾」の合同公演、『寺山修司の『女の平和』~不思議な国のエロス~』を見た。小屋は彼らの本拠であるSpace早稲田だ。「楽塾」は流山児が1998年に、同世代の普通の人々と一緒に演劇を作りたくなって、地域の人々に呼びかけて作った劇団で、今回は平均年齢六十代の「楽塾」の「普通のおばさん女優」(パンフ)たちに流山児★事務所の俳優たちが絡む。
 
 『女の平和』は、紀元前411年、スパルタとのペロポネソス戦争の末期に、多くの犠牲者を出し、敗北の予感が立ちこめていたアテネでアリストファネスが上演した喜劇だ。そこでは戦争を止めさせたい女たちが、アクロポリスの城壁内に立てこもり、セックスストライキをする。男たちは城壁への突撃を試み、また、女たちの説得のために手だてを尽くすが、結局は性欲に打ち勝てず、女たちの要求をのみ、最後はスパルタとの和平と平和の祝祭で終わる。
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浙江京劇団「オイディプス王」

◎京劇で演じるギリシア悲劇
 北野雅弘

 新国立劇場で、中国の浙江省の杭州を拠点とする浙江京劇団による『オイディプス王』を観た。毎年、北京・ソウル・東京の持ち回りで開催されるBeSeTo演劇祭の一環で、東京での公演は一日だけだ。京劇の上演はずいぶん昔に「孫悟空大鬧天宮」を観たくらいで予備知識がないのだけれど、『オイディプス』は自分の専門領域とも関係があるので、どんな風に料理するのかしら?という関心が大きい。

 浙江京劇団は、1969年に結成された浙江省唯一の京劇団で、2005年には、中国の文化部によって初の「国家重点劇団」に選定されたまだ若い劇団だ。レパートリーは多岐に及び、新作や伝統的京劇など様々な作品を取り上げてきた。演出と主演を兼ねる翁国生は、まだ若手と言って良いのだろうけれど、劇団の芸術監督を務めている。
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劇団チョコレートケーキ「起て、飢えたる者よ」

◎理想主義と保身と糾弾欲求
 北野雅弘
 

「起て、飢えたる者よ」公演チラシ
「起て、飢えたる者よ」公演チラシ

 劇団チョコレートケーキの「起て、飢えたる者よ」を観た。新宿御苑駅の近く、サンモールスタジオでの上演だ。
 スタジオが三つの空間に分けられ、中央の舞台を挟んだ形で客席が作られている。舞台はあさま山荘の小さな居間。テーブルに椅子が四脚、片方に窓、もう一方に本棚。セットは柱を何本か残し、観客の視界をさえぎる。

 冬になって利用者のいない軽井沢の山荘。管理人の妻で、一人山荘に残った西牟田が居間に入ってくると、突然五人の男たち(坂上・坂内・吉田・江藤兄弟)が乱入してくる。男たちは家具をひっくり返して窓際にバリケードを作り、自分たちは、「連合戦線」で、銃による殲滅戦を遂行する革命戦士だと名乗る。
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