演劇評論家の扇田昭彦さんが5月22日に亡くなって1ヵ月余り。東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウス(中ホール)で7月6日(月)夕、演劇関係者ら約600人が集まって「扇田昭彦さんを送る会」が開かれた。扇田さんが好きだったというベートーベンの交響曲第6番「田園」が流れるなかで、故人との印象深い出会いを語り、突然の別れを悼む言葉が舞台上の遺影に手向けられた。
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カテゴリー: か行
連載企画 観客が発見する 第4回(座談会)
◎観客の世界を開く
澤田悦子・田中瑠美子・黒田可菜・廣澤梓(発言順)
―ワンダーランドのとりあえず最後の企画は、観客から見た演劇を明らかにしたい、という狙いがあります。今回、芝居に関心がある人で、話していただけそうな人を選んだら、たまたま女子会になった(笑)。みなさんはワンダーランドの「劇評を書くセミナー」に参加しています。顔見知りだとは思いますが、あらためて演劇に関心を寄せているわけ、何が劇場に向かわせているのか、ご自身と演劇の関わりについてお話いただくところから始めたいと思います。
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連載企画 観客が発見する 第2回
◎演劇と寄り添い合って生きる
小泉うめさん
-今回の企画は、劇場に足しげく通っている人たちのインタビューです。
小泉 登場する人たちとはきっと、どこかの劇場でお会いしていると思います(笑)。
-そうですね。観客が何を考えているのか、何を見て、何を楽しんで、何に心を動かされているのか。そういう実情を明らかにしたいと、軽い気持ちでこの企画を始めました。ところがだんだんと…。小泉さんは関西出身とのことですが、どちらですか。
小泉 和歌山県です。高校卒業まで和歌山市内で育ちました。大阪までJRか南海電車で1時間くらいのところです。
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ワンダーランドサイト休止のお知らせ
◎4月からサイトとセミナーを休みます
ワンダーランドは今年2015年4月からしばらく、劇評サイトを休止します。劇評を書くセミナーの新年度の予定もありません。サイトは2004年にスタートして10年余り。セミナーは2008年に始まって7年たちました。ともに年末まで休みを取り、あらためて積み残しの課題に取り組めるのか、取り組むならどうするかなどを検討することにしました。活動はほぼ3月いっぱいが区切り。これまで支えていただいた読者、執筆者のほか、観客や劇場、演劇関係者の方々の厚意に感謝します。温かい支援に応えられなかったことを残念に思います。
SPAC「マハーバーラタ」
◎儀礼と演劇、近代を再考する手つきについて―SPAC『マハーバーラタ』ステートメント批判
川口典成
「これは儀礼ではありません。儀礼についてのダンスなのです」
ピナ・バウシュ i
2014年の日本演劇界の大きな話題のひとつであったSPACの『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』。アヴィニョン演劇祭に公式プログラムとして招聘され、7月にブルボン石切場にて上演。9月には、KAAT神奈川芸術劇場にて日本凱旋公演が行われた。アヴィニョンでは好評だったとNHKなど大メディアでも喧伝され、また9月の凱旋公演も大いに盛り上がり、ネット上にも賛辞があふれた。そうした言説の中に「祝祭的」「祝祭感」という言葉がよく見られたのは、SPAC自体がこの作品を「祝祭劇」と銘打っていることからも頷ける。だが、ここで問いたいのは、「祝祭」とはなんだろうか、ということである。演出家・宮城聡がアヴィニョンで発表したステートメントは、まさに「祝祭」をめぐってのものだった。
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年頭のあいさつ
あけましておめでとうございます。
ワンダーランドは今年12年目を迎えます。2004年のスタートから「舞台の記録を劇評の形で定着させたい」と活動を続けてきました。10年余りの試行錯誤からさらに、「観客が書く」意味があらためて問われたと考えています。今年はその転換点になるかもしれません。
今年のマガジン・ワンダーランドは1月14日(水)発行が最初になります。
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KJプランニングス「ザ・モニュメント 記念碑」
◎直接的であることと代行すること
清末浩平
前置きをしている場合ではない。ただちに私が観たものについて述べよう。
小さな劇場は壁も床も剥き出しになっている。舞台側の壁際には、廃物めいたさまざまな道具が無造作に置かれており、その内側に、細いひもでアクティングエリアが仕切られている。「私はハッピーだ」と歌う能天気なダンス曲が流れている。舞台奥には配線を露出したモニターがあり、その画面に、世界の各国で踊る人たちの姿が次々に映される。やがて音楽が消え、モニターも真黒になる。男女1人ずつの俳優が舞台に入って来る。「THE MONUMENT/記念碑」という字幕がモニターに映されて劇が始まる。
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iaku「流れんな」
◎濃密で軽やかな会話劇
片山幹生
大阪を中心に活躍する劇作家、横山拓也の作品を見るのはこれが三本目だ。「エダニク」、「目頭を押さえた」、そして今回の「流れんな」。いずれもシンプルで短いタイトルではあるが、「いったいどんな作品なのだろう?」とこちらの意識に妙なひっかかりを残す。どこか演劇作品のタイトルらしく感じられない。「エダニク」、「目頭を押さえた」のタイトルは、実際に舞台を見ると腑に落ちた。「なるほど」と思わずうなる仕掛けがタイトルにも施されている。
「流れんな」というタイトルを目にしたとき、いくつかの疑問が思い浮かんだ。この言葉はいったいどのようなイントネーションで発音されるのだろうか? 命令調の強い調子で「流れんな!」だろうか? あるいは命令ではあるけれども、「流れて欲しくない」という悲鳴だろうか? あきらめあるいは苛立ちのこもった「流れんなぁ」だろうか? またこの「流れんな」の主語はいったい何なのだろうか?
終幕時に「流れんな」というタイトルは、私が思い浮かべていたあらゆるイントネーションで発話されうることがわかった。そしてこの動詞にかかる主語はひとつではない。「流れんな」に重なる複数のイメージがもたらす豊かな余韻が、じわじわと私の心に広がっていった。
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SPAC『マハーバーラタ』アヴィニョン演劇祭公演
◎異国趣味と普遍性:フランスの劇評から読み取る宮城聰演出
片山幹生
【目次】
クロード・レジ演出、SPAC『室内』アヴィニョン公演
◎喧噪のなかの静寂
片山幹生
『室内』の公演会場は、城壁で囲まれたアヴィニョンの中心街からバスに乗って25分ほど行ったところにあった。フェスティヴァルで活気づくアヴィニョン市壁内の狂騒とは無縁の静かでがらんとした場所だ。モンファヴェという郊外の小さな町にあるそのホールは、日本の地方都市にでもありそうな無機的で特徴の乏しい多目的ホールだった。クロード・レジが2009年のアヴィニョン演劇祭で『彼方へ 海の讃歌』を上演したときに使ったのもこの会場だった。
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