ぬいぐるみハンター「トムソンガゼル」

◎多層化された可能性
 中村直樹

 新中野に古びた一件の建物がある。「風みどり」。知らなければ見過ごしてしまうような小さな小さな建物だ。だがしかし、その中で展開されたものは大きな大きな世界を物語っていた。

 ぬいぐるみハンターのオルカアタックvol.1「トムソンガゼル」は2014年1月28日から3月2日まで上演された作品である。

 会場となった風みどりは、元々はヨーロッパで仕入れてきた雑貨を売る店だったようだ。なので、作りは洒落た感じである。そして20人も入ればいっぱいになってしまうような狭い空間。そこにパイプ椅子が並べられている。板の間なのでとても寒い。電気ストーブが入り口そばに置いてあるが、それだけでは会場は到底暖まりきらない。目の前にはアコーディオンカーテンが掛かっており、奥の部屋を隠している。

 時間となり、アコーディオンカーテンが開いた。電子レンジに流し台に炊飯器。そこは台所だった。その台所には1人用のテーブルが置いてあり、プレートとカップが置かれている。その席にガゼル役の役者が優雅に座っている。しかし、その優雅な時間はあっという間に崩れ去った。奥の勝手口が開きトムを演じる役者とソンを演じる役者が駆け込んできたからだ。
“ぬいぐるみハンター「トムソンガゼル」” の続きを読む

TACT / FEST 2013

◎児童演劇の祭典で出会ったおとなげないおとなたちの記憶と記録
 中村直樹・小泉うめ

 2013年7月29日(月)~8月11日(日)TACT/FEST(大阪国際児童青少年フェスティバル)が大阪・阿倍野で開催されました。
 TACTとは、ラテン語で「触覚」のこと。「機転が利く」、「配慮する」という意味があるそうです。それを冠するTACT/FESTは、こども達が世界の多彩多様な表現に触れることで「機転が利く」柔軟な思考を、そしてこども達が演劇を観賞することで、周囲に「配慮する」社会性を獲得することを目的としているそうです。

 ワンダーランド・東京芸術劇場共催の劇評セミナーに参加中の中村直樹と小泉うめの二人は、なんと8月3日(土)のTACT/FESTの会場でばったりと出くわしてしまいました。2人とも参加したのはこの1日だけなのに。逆に言えば、「TACT/FESTのレビューを書け」という演劇の神の思し召しかもしれません。
 果たして、それはどんなイベントだったのか。東京で再び2人で語り合いました。
“TACT / FEST 2013” の続きを読む