(初出:マガジン・ワンダーランド第222号、2010年12月29日発行)
カトリヒデトシ(劇評家、演劇サイトPULL、「カトリヒデトシ.com」)
- A.C.O.A.「-共生の彼方へI-霧笛」(犬吠埼版)
- 第七劇場「雨月物語」(広島版)
- ZOKKY「ZOKKYののぞき部屋演劇祭2010」
今年はロロ、マームとジプシーなどの若い団体の台頭が印象的だったが、私は千種セレクション、Shizuoka春の芸術祭2010、SCOTサマー・シーズン、ワリカン・ネットワーク、KYOTOEXPERIMENTなど地域のフェスティバル、企画公演などを積極的に見に行くことに努めた。東京が演劇の中心ではないことを来年も訴えつづけたい。また王子小劇場の佐藤佐吉演劇祭で審査員を務めさせていただき、意欲的な演劇が生まれる現場に立ち会うことができたのは幸甚であった。1、2はレビューをお読み願いたいが、ZOKKYは3年目にして「のぞき演劇」という一人で見る作品の完成形と更なる可能性を提示したことを高く称揚したい。
年間観劇数 280本。
飯塚数人(人形劇研究家、「聖なるブログ 闘いうどんを啜れ」)
- DART’S 「In The PLAYROOM」
- デス電所「丸ノ子ちゃんと電ノ子さん」
- 劇団ズーズーC「喜劇 俺たちの心中は世界を泣かせる」
1はシチエイションサスペンスミステリーとしてかなりうまくできていたが、中盤から不条理な展開になり、予想通りのありふれたオチで終わるのが残念。でも映画「シャッターアイランド」「インシテミル」よりはるかに見応えあった。
2はナジャみたいな女の子の物語。脚本も演出も役者もへなちょこなのになぜか心にひびく。才能ない表現者へのオマージュゆえか。
3はオメオリケイジといしずか陽子二人芝居。ふたりとも本来は力のある役者だし、台本はかなり面白かったのに稽古不足かグダグダ。完璧に仕上げて再演に期待。
年間観劇数 29本。
谷賢一(DULL-COLORED POP主宰、アトリエ春風舎芸術監督、個人ブログPLAYNOTE)
- 範宙遊泳「東京アメリカ」
- シアターコクーンプロデュース「タンゴ」(長塚圭史演出)
- マームとジプシー「ハロースクール、バイバイ」
全く、三分の二を桜美林大学出身劇団から選ぶとか、恥ずかしいやら悔しいやら、しかし間違いなく刺激的であったのが範宙遊泳とマームとジプシー。いずれも現代口語演劇の次々世代であり、マームとジプシーに関してはセンチメンタル過剰な雰囲気が個人的な趣味からは外れるものの、「伝えたいことなどない、表現したいことがあるだけ」という現代口語演劇理論をある意味では平田オリザ以上に我が物として摂取し昇華した点で驚異。範宙遊泳は洒脱なセンスと圧倒的な構想・構成力で今年のナンバーワン。彼らもまた大きな物語を喪失した世代である。長塚圭史はそのことを自覚しつつあえて反抗する「タンゴ」で演出家としての骨太さを見せた。
年間観劇数 約60本。
藤原央登(劇評ブログ「現在形の批評」主宰/[第三次]「シアターアーツ」編集部)
- OM-2「作品No.7」
- 椿組「椿版 天保十二年のシェイクスピア」
- イキウメ「プランクトンの踊り場」
ピックアップした3本は、「演劇」にこだわったからこそ生まれた強度ある作品。
「ハイアート」。ここ一年、東京の舞台芸術を定点観測して浮かぶのがこのワード。ジャンルの越境と言えば聞こえは良い。それが昨今の流行なのだろう。だが、本当に成果を挙げた作品はあったか? 手法は新しいのか?
演劇・音楽・美術・映像が緩やかにコラボする。時に観客を劇場の外へと連れ出す。そういった作品に群がる「ハイアート好き」が何やら大騒ぎする。私はそういう〈状態〉をヌルいと思う。一見「アート」への間口は広まっているかに思える。しかし所詮、マンガやアニメと同じサブカル的な愛好に過ぎないのではないか。
芸術に全く興味がない人間は蔑視的に「アート」と発する。<キモチガワルイ>と思っている人間に、どう「アート」の効用を説くのだろうか? ミニ資本にすり寄った「ハイアート」と、それをありがたく享受し、小さなコミュニティーを作って充足している者たちは。
年間観劇数 159本
中西理(演劇舞踊評論、「中西理の大阪日記」)
- ままごと×あいちトリエンナーレ「あゆみ」(精華小劇場)
- チェルフィッチュ「私たちは無傷な別人である」(愛知県立芸術文化センター)
- 東京デスロック+渡辺源四郎商店「月と牛の耳」(キラリ☆ふじみ)
2010年の特徴はままごと(柴幸男)、東京デスロック(多田淳之介)、快快(篠田千明)、柿喰う客(中屋敷法仁)らポストゼロ年代の作家らの本格的な台頭だ。年頭に「わが星」で岸田戯曲賞を受賞した柴はこの世代のトップランナーに躍り出た。公立劇場の最年少芸術監督の多田も渡辺源四郎商店との合同公演などで成果を見せた。「記憶に残る3本」からは漏れたが、快快(「Y時のはなし」「SHIBAHAMA」など)、柿喰う客(「露出狂」「THE HEAVY USER」など)の充実が目立った。先行世代ではチェルフィッチュは「私たちは無傷な別人である」で超現代口語を捨て去り、セリフと動きの完全分離という新たな方法論を模索した。
年間観劇数 150本。
山田ちよ(演劇ライター、サイト「a uno a uno」)
- 劇団印象-indian elephant-「匂衣 ~The blind and the dog~」
- 快快-fai fai-「アントン、猫、クリ」
- TPT 「Pinter WAVE!「コレクション」」
「匂衣」は韓国から招いた女優ベク・ソヌの、集中力がありながら、どこか抜けていて温かみもある演技に引かれた。作・演出の鈴木アツトのテイストに合い、共演の龍田知美との組み合わせもよかった。「アントン、猫、クリ」は40分程度の本編を見せた後、日替わりトーク・ゲストと演出家の篠田千明が作品を振り返り、ゲストが気になった場面などを再度演じる、という趣向。俳優は大変らしいが、ライブを見ながらのトークは濃厚だった。「Pinter WAVE!」はBankART Studio NYKという元倉庫で、部屋をフレキシブルに使えるアート施設での2本立て公演だ。広田敦郎演出の「コレクション」は階段も舞台に取り込むなど、空間の使い方が面白かった。
年間観劇数 105本。
福田夏樹(演劇ウォッチャー、ツイッターnatsukinoboyaki)
- ピーチャム・カンパニー「怒りを込めてふりかえれ」
- ぬいぐるみハンター「無邪気で邪気なみんなのうた」
- マームとジプシー「ハロースクール、バイバイ」
公演後、感動しすぎて立ち上がれなかった作品から三本。2.は幼稚園生、3.は中学生と、幼少、青少年から人生の普遍を見せられると私は弱い。同じく人生の普遍を扱ったもので、今年、立ち上がれなかったもう一作品が、toi「華麗なる招待-The Long Christmas Dinner-」だった。1.は今年旗揚げの劇団で、まだまだ荒削りだが、成功したときの爆発力がみえた作品。公演ごとに着実にステップを踏んでおり、今後に期待したい。
上記2及び3や観客巻き込み型の一つの到達点をみせた快快「SHIBAHAMA」など、ハイテンションな舞台が優れた一年と感じるが、遊園地再生事業団の宮沢章夫氏は、今後の演劇のキーワードとして「内省」を掲げている。来年は、果たして。
年間観劇数 おそらく150本程度。
日夏ユタカ(ライター・競馬予想職人)
- キラリと世界で創る芝居vol.1☆韓国「L0VE the World 2010」(キラリ☆ふじみ)
- ロロ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」(新宿眼科画廊)
- ZOKKY「ZOKKYのぞき部屋演劇祭2010 KIKKY/本能」(王子小劇場)
2010年は、舞台上に生活感のある小道具、とくにキャストの私物的なものを配すことで、重層的な物語を立ち上げようとしているように感じられる作品が多かったように思う。だから反対に、終盤に舞台上がすっきりと片付けられ、過去ではなく未来へと進むような作品に惹かれたのだろう。その筆頭が「L0VE the World 2010」で、東野祥子「VACUUM ZONE」や劇団どくんご「ただちに犬 Bitter」も強く記憶に残る。
一方、より未来へと辿り着くことのできる、新しい才能と数多く出会えた年でもある。マームとジプシー、バナナ学園純情乙女組、ぬいぐるみハンター、範宙遊泳、けのびなど、そのなかからひとつだけを選ぶのはなかなかの難問だが、今回は、そういった若いカンパニーに触れたいと思った原動力的な存在であるロロの、一昨年に観た再演作を推したい。
あとは、のぞき部屋演劇を名乗りながら、「耳だけで感じる、ささやき部屋演劇」という新段階に踏みだしたZOKKYを。さらにその未来も観てみたい。
年間観劇数 約183本。
詩森ろば(風琴工房 主宰・作・演出、個人ブログ LIVESTOCK STYLE)
選びきれない、と感じた2009年に比し、3本を選ぶことが難しい今年でした。高い解像度で思春期のはじまりを描写し、その気味悪さとみずみずしさで圧倒したマームとジプシーの「しゃぼんのころ」を唯一、わたしの2010年 として記録したいと思います。2として挙げたギィ・フォワシイの「派遣の女」は、日仏のカンパニーが同じ作品を上演するというものでした。結果圧倒的に仏作品が素晴らしく、同じ戯曲でこうも違うのかと、改めて演出・俳優の力の大切さを感じました。並べて見るという体験のなかで改めて確認したことの得難さからここにに挙げます。それ以外には、コマツ企画「どうじょう」、静岡で見たテアトルガラシ、王女メディア、次回は制作をさせていただく温泉ドラゴン「escape」などが印象に残りました。来年はもう少し野心的な観劇を心がけます。
年間観劇数は80本でした。
高橋英之(ビジネスパーソン)
- 五反田団といわきからきた高校生「3000年前のかっこいいダンゴムシ」
- ポかリン記憶舎 café公演「humming 4」
- クリストフ・マルターラー「巨大なるブッツバッハ村-永続のコロニー」 (F/T10)
2010年のトップバッター、大好きな「シベリア少女鉄道」の「キミ☆コレ」では、観客からの拍手ゼロ。くだらないネタを磨きあげて芸術の域にまで昇華させる、その類をみない構成力にただただ圧倒されてしまった。幸運にも、拍手を忘れさせてくれた作品は、シベ少だけではなかった。“ガラパゴス的”な進化をした日本の演劇の最先端をみせてくれたのは、プロの役者ではなくいわきからきた高校生たちだった。演劇の“古典的”な心理ドラマを感じさせてくれたのは、劇場ではなく谷根千の古い家だった。現代社会の問題点を“本格的”に照射してみせたのは、台詞ではなく歌曲だった。
年間観劇本数 85本。