◎背広を着て制度の中で戦う男たち 萌え、愛情、知性の対象
水牛健太郎(評論家)
一九六八年十二月、東京都府中市で白バイ警官を装った男に約三億円を運んでいた現金輸送車が奪取された三億円事件。七年後の公訴時効を経て今に至るまで事件の真相は明らかになっておらず、現在の数十億円に相当する被害金額の大きさ、手口の鮮やかさもあって、多くの人の想像力を刺激してきた。
小劇場レビューマガジン
◎背広を着て制度の中で戦う男たち 萌え、愛情、知性の対象
水牛健太郎(評論家)
一九六八年十二月、東京都府中市で白バイ警官を装った男に約三億円を運んでいた現金輸送車が奪取された三億円事件。七年後の公訴時効を経て今に至るまで事件の真相は明らかになっておらず、現在の数十億円に相当する被害金額の大きさ、手口の鮮やかさもあって、多くの人の想像力を刺激してきた。
◎地図も磁石も手放した多田淳之介の、唯一の持ち物。
徳永京子(演劇ライター)
考え続けているのは、多田淳之介の時間の感覚だ。
『CASTAYA』は、東京デスロック『演劇LOVE2008~愛の行方3本立て~発情期・蜜月期・倦怠期』の「倦怠期」として上演された。発情期は『ドン・キホーテ』、蜜月期は『ジャックとその主人』と、既存の小説あるいは戯曲に、多田流の「発情」と「蜜月」の解釈をシンクロさせた作品だった。そのシリーズにあって『CASTAYA』だけが、事前に内容を伺い知る材料が何もなかった。「演出家Enric Castaya氏の意向により、事前に出演者は公表しない」と、どんな出自の役者が何人出てくるか、そのヒントすら観客に与えられなかった。
横浜・吉田町を舞台に10月3日-5日の3日間、「ラ・マレア横浜」と呼ばれる街頭パフォーマンスが繰り広げられました。アルゼンチンの劇作家・演出家の作品を、日本人の俳優をオーディションで選んで上演する国際企画です。(上)で3編紹介しましたが、(下)ではさらに2編を掲載します。(編集部)
横浜・吉田町のを舞台に10月3日-5日の3日間、「ラ・マレア横浜」と呼ばれる街頭パフォーマンスが繰り広げられました。アルゼンチンの劇作家・演出家の作品を、日本人の俳優をオーディションで選んで上演する国際企画です。母国のほか、ブリュッセル、ベルリン、リガ、ダブリンなどで、その都市のコンテクストに合わせたバージョンを発表してきたそうです。では横浜版はどういう相貌をみせたのか。本誌「ワンダーランド」の執筆者に読み解いてもらいたいと主催の急な坂スタジオの協力を得て、本公演はもちろん、「プレトーク」への参加、稽古見学などをお願いしました。以下、レビューを2回に分けて掲載します。(編集部)
◎変奏される台詞・生き残ってしまった人の物語 一つの劇団とある程度深く関わってしまったことで劇評が書けなくなるときもある。自分がどういう立ち位置でものを見ているのか話してしまうことともつながってくる。そんなわけで1カ月も … “Uフィールド「水の花」” の続きを読む
◎変奏される台詞・生き残ってしまった人の物語
一つの劇団とある程度深く関わってしまったことで劇評が書けなくなるときもある。自分がどういう立ち位置でものを見ているのか話してしまうことともつながってくる。そんなわけで1カ月も経ってしまった公演の話ですが、やっぱりこの舞台は今年のベストに選んでしまうと思います。
先月、渋谷ギャラリー・ルデコの、ふつうはあまり演劇用スペースに使われない、四周に鉄骨の組まれた小さなスペースで、男二人女一人の三人芝居+出演者の一人は作・演出も兼ねている、超小規模な公演があった。
取り外しのできない鉄骨はそのまま二階建ての客席として流用し、舞台空間の鉄骨には黒幕を張って、下手から劇場の天井裏まで伸びている階段も舞台装置の一部に使って、床と鉄骨がぶつかる所には花が植わっている。
大道具移動による場面転換なし。
舞台中央の大きな柱の手前には木の、背もたれなしのベンチを置いて、それが長距離列車の座席になるところから舞台が始まる。
◎加害/被害…二元論の先へ
鈴木励滋
障害がある人たちが過ごす施設の現在を描いた二場冒頭、およそ50年前のチッソ水俣工場内を舞台とした一場で工場長や付属病院長を演じた俳優が、水俣病患者として登場したという仕掛けは、少なからぬ観客を当惑させたに違いない。その仕掛けが意図していたのが転生、つまり彼らに業を負わせるためのものであったとすれば、障害者が因果応報によって生まれるというえらく古い曲解に基づくこととなり、はたまたそれが罪に対する罰を表していたとしたら、障害そのものが悪であるということになってしまうのだから。
「劇評を書くセミナー」春季コースの課題公演となった風琴工房「hg」評を前回に続いて掲載します。講師の西村博子さん(アリスフェスティバル・プロデューサー)と岡野宏文さん(演劇専門誌「新劇」元編集長)の二人が選んだ劇評を基に構成しました。前回4編、今回5編の計9編で、公演のさまざまな輪郭と奥行きが浮き彫りになったはずです。(編集部)