◎邪悪
杵渕里果
『おやすみ、かあさん』(‘Night, Mother)は、1983年ピューリッツア賞受賞の戯曲。
「アラフォーおんなが自殺するはなし」というと「やたら暗い」けど、現代演劇に「自殺」がからむのは、『セールスマンの死』、『動物園物語』、『欲望という名の電車』…あんがい忌み嫌われてもないみたい。
「自殺」をめぐる葛藤は、健康な人でも…というか、そのカラダがそのカラダを殺せるくらい健康なカラダの人なら、窮状から消え去る手段としての「自死の誘惑」に襲われうるワケで、とりたてて異常なものではない。
なのに「自殺」がらみの葛藤は、まずその本人が隠すし、遺族も黙って抱えこんでヒミツにすることが多いから、外からはその存在じたい見えにくい。そんなふうに隠しこむ風習のためますます人は、孤独のドツボに落ちてゆく。
でも演劇にしてさしだせば、「特定の誰かの死」から離れたかたちで「自殺」についてコミニケーションする契機にできる。多くの力ある劇作家が「自殺」を好んで描いてきたのは、「演劇」という制度を最大限活用させられるテーマだから、なんだろう。
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