◎振り返るな、青春を走り続けろ
福原 幹之

(写真:江森康之)
東京千秋楽。開演の14時ぴったり。上手から劇団員が走り出て一列に並んだ。様子がおかしい。菜月チョビが口を開いた。
「機械トラブルで音が出なくなりました。台詞が聞こえないような大音量でやっているので、機材を取り換えるために開演時間を1時間遅らせて下さい」
そういえば、10分程前に流れていた徳永英明の歌が途中でプツっと切れたままだ。20年前にヒットした曲だ。会場は観客の話し声だけが響いていた。菜月さんも相当焦っていたはずなのに、時間がなくて観られなくなってしまう人にお詫びを言ったあと、「もう体はあったまって準備は万全ですが、さらにアップしてキレの良い演技をしたいと思います(笑)」と場を和ませた。紀伊國屋書店の中にあるので、時間つぶしには困らないが、毎回配られる劇中曲の歌詞カードを見るのもいいだろう。この歌詞カードは、鴻上尚史が毎回手書きの「ごあいさつ」のコピーを配るようなもので、観客の楽しみのひとつになっている。
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