振り返る 私の2007

2007年もあっという間に年の瀬を迎えました。
年末回顧企画「振り返る私」も4回目、現行のアンケート方式になって3回目になります。この企画は舞台芸術の現場に立ち会った方々に「記憶に残る今年の3本」を選んでもらい、小劇場演劇とダンスの1年に多様多彩な角度から光を当てようという試みです。40人の回答をご覧になったら、自分の記憶を掘り起こす手がかりになるはずです。じっくりご覧ください。掲載は到着順です。

山田ちよ(演劇ライター、サイト「a uno a uno」)

  1. 「ぬけがら」公演横浜未来演劇人シアター「ぬけがら
  2. studio salt「7」
  3. イプセン作、タニノクロウ演出「野鴨

今年の観劇数は131本(12月5日現在)。その大部分は横浜の公演で、小劇場と言えないジャンルも多い。横浜未来演劇人シアターは、野外ダンス「市電うどん」も話題を呼んだが、「ぬけがら」はそれ以上に、演出家寺十吾のtsumazuki no ishiでは見えにくかった実力を感じた。客演を含む配役も良かった。旗揚げから見ているstudio saltの「7」は作品そのものより、注目の幅が広がり、反響も大きかったことの方が私には印象的だ。
東京では、庭劇団ペニノのタニノクロウが「野鴨」で大きく成長したのを
確かめた。来年はsaltの作家椎名泉水に、飛躍のきっかけになるような外部執筆の機会があればよいのに、と思う。

谷賢一劇団DULL-COLORED POP主宰、柏市民劇場CoTiK代表)

  1. The Bee公演NODA・MAP番外公演『THE BEE』(ロンドンバージョン)
  2. 青年団リンク・サンプルシフト
  3. ハイバイおねがい放課後

上位三作を選ぶのに難儀、呻吟。ランクインを逃したのは阿佐スパ『少女とガソリン』、TPT『Angels in America』、柿喰う客の諸作品、水族館劇場、黒色綺譚カナリア派『リュウカデンドロン』などだが、こういう派手ででっかい作品を蹴って、ミニマムな俳優同士のやりとりを用いた公演が残ったのは偶然ではないのかも。
野田秀樹『THE BEE』は、見事なフィジカルシアター演出の下、野田の悪趣味全開で気分よく吐き気を感じられた快作。サンプルおよびハイバイは空前絶後の新食感で、90年代がケラや松尾だったならば、00年代のブレイクスルーでは、という期待さえ抱いてしまう。この先の展望に期待。

◇玉山悟(王子小劇場代表)

  1. 「Mrs Mr Japanese」公演小指値「オールテクニカラー」
  2. 小指値「Mrs Mr Japanese」
  3. パラドックス定数「東京裁判

今年どこがおもしろかったかといえば小指値でしょう。なかでもわずか75人しか観られなかった作品「オールテクニカラー」はホントに傑作でした。せまいギャラリーが1つのセリフ・1つの動きで渋谷の駅前に、部屋に、河原に変わっていく構成。そこに用いられるテキストのみずみずしさ。今年の小指値関係のイベントは全部に顔出してると思うんですが、08年は活動をセーブする方針だそうで、すごく残念です。パラドックス定数の「東京裁判」はいつも本塁打どまりだった野木ひさびさの場外本塁打。今年の観劇数は200から250のあいだ。

◇角田博英(会社員)

  1. ものがたり文化の会/たかのパーティ『ざしき童子の話し』(最終公演)
  2. 文月奈緒子 作/井伏銀太郎 演出『ダウン』
  3. 吉祥じゅん&女騎士怪 ~「北斎夢幻」外伝

三本柱を立て選出。

【草の根】宮城えずこホール『十年音泉』と「たかのパーティ」をほぼ同時期に見たのも何かの巡り合せ。住民参加事業の集大成と、子供をはぐくむ為に共に遊び尽くした篤志の人々のワイワイのざわめきと。
【風土の力】アイルランドの《西の国のプレイボーイ》のヒリヒリした空気感には驚愕。日本でこれに当たる物は何か。亀有の神社公演に比べ黒石温泉でみた「夜行館」の饒舌さ。『ダウン』での様に、仙台の劇にまれに現れる人倫侵犯と恐怖の感覚こそがそれではないのか。
【制作の発想】錦鯉タッタ『「死の棘」から遠く離れて』。上演継続しつつ細部を変更した結果の表現力増加に舌を巻く。別府「女騎士」は既存の劇と何もかもが少しづつ違う。年間観劇数:200前後。

◇かわひらよしき(「休むに似たり」サイト)

整理仕切れていませんが、選んだ三本は物語に見応えがあるという意味で記憶に残ったものを、えいやっと。
全体としては「格差社会」目立った去年の傾向に加えて、今年感じたのは女性が強い、というよりは既に彼女達はオトコを必要としていないのではないかという感覚。「ゼリー~」の他に「新♀世界」(スバンドレルレンジ)「傷は浅いぞ」(柿喰う客)などでも感じました。
ホスピタリティも敷居の低さも物語の力も、芝居の裾野を広げるという 意味で間違いなく力をもっていたと思うTEAM発砲B-ZINの解散(「ジューゴ」)は、もっと語られていい筈で、それが語られないということは果たして観られる芝居を作る側は本当に意識できているのか、ということをちょっと感じたりもします。観劇数は12/11時点で250本ほどです。

高木登(脚本家)

  1. tsumazuki no ishi『犬目線/握り締めて
  2. 風琴工房『砂漠の音階』
  3. 二騎の会『五月の桜

例によって見逃した公演の方が多い一年だった。そんな怠惰な自分から観ても特筆すべき公演の多くは劇評に書かせていただいたので、ここではあえて取り上げられなかったものから三本を選んだ。順位は観劇順である。
『犬目線/握り締めて』はいささか上演時間が長過ぎたが、異端の哀しみを誠実に描いて印象に残った。『砂漠の音階』はまことに愛らしい評伝劇。詩森ろばは少女漫画における「二十四年組」のリリシズムやロマンティシズムの血脈を継いでいると思う。『五月の桜』は一見とっつきにくい演出なれど、実は戯曲の構造をきわめてわかりやすく提示したものになっていて感心させられた。演出もまた批評的営為であるとあらためて思う。

高木龍尋(大阪芸術大学大学院助手、wonderland執筆メンバー)

  1. France_pan「貝を棒で
  2. 上品芸術演劇団「約束だけ」
  3. デス電所「残魂エンド摂氏零度」

番号は上演順、今年観た本数はおよそ70本です。
関西で演劇を観る私に、今年、劇場で最もよく浮かんできた言葉は「辟易」だった。何やらゲームか深夜のアニメのような、現実感のない世界をふわふわと楽しんで終わってしまっているような、現実に何も還って来ない作品によく出くわした。しかも、そのような作品の劇団にはある程度の固定客がついている様子…… う~ん……
さておき、上記の1については既に書いているので割愛、3については近いうちに書くつもりなので割愛します。2は鈴江俊郎さんが劇団八時半とは別に動かしている演劇ユニットの作品で、近い未来の日本人の話。いくつかの深刻さが滑稽に観ている側に飛びこんでくる、言葉の手業の巧さをみたように感じた。(1の劇評がメルマガからHPに転載された際、同劇団から舞台写真を提供して下さり、見て感激しました。深謝致します)

藤原央登(劇評ブログ『現在形の批評』主宰、wonderland 執筆メンバー)

  1. 「イク直前ニ歌エル女」公演悪い芝居『イク直前ニ歌エル女(幽霊みたいな顔で)
  2. 地点かもめ
  3. 金満里ソロ公演『ウリ・オモニ』 『月下咆哮』

最近、大阪の芝居がどうも私の求めるものとは違うような気がしている。劇場のラインナップを見渡して、演劇という芸術の問いを自ら発信し自ら息づいている様を感じさせる劇場が少ないのだ。それでいて、プチ商業的なプロデュース企画物を打ち出すある一帯の「不気味な」求心性は、その場に立ち会うことを忌避していても容赦なく情報が入り、足元を掬われそうになる。
芸術か娯楽かという二者択一を自明事のように信じ留まるのではなく、それ自体を思考する舞台と劇場に出会いたい。ポップさの中に演劇することを問うた悪い芝居、チェーホフ劇の近代性に挑んだ地点、障害を持った金満理の身体性の三つがベストとして挙げてしかるべき作品であった。(87本)

田口アヤコ (演劇ユニットCOLLOL主宰、ブログ「毎日のこまごましたものたち」)

  1. 「雪女」公演小櫃川桃郎太一座公演『雪女』
  2. アメリカ現代戯曲&劇作家シリーズvol.2 ドラマリーディング『DOE 雌鹿』(羊屋白玉氏演出)
  3. 風琴工房『砂漠の音階』

計算してみると、90%以上が知り合いの公演という観劇環境です。事前情報の多い中、劇場で観て、よい意味で裏切られた作品3本を上げました。『雪女』は2畳の舞台で大衆演劇を演じる心意気を、『DOE 雌鹿』は卯月妙子さんの裸体の清潔さを、『砂漠の音階』は山内健司さんの自在な演技を、それぞれ評価します。このほか、ク・ナウカ最終公演、鈴木忠志さんの静岡県舞台芸術センター芸術総監督としての最終公演、野田秀樹さん『the BEE(ENGLISH ver.)』の3本が、さすが、とうなる高品質さでした。
日比谷野音に2000人を集客した清水宏さんのソロライブ活動、アゴラ冬&夏のサミット『LOBBY』を含むpotaliveの活動には、劇場を飛び出そうとする演劇の動きとして今後とも注目。2007年観劇数 64本(12/18現在あと6本観る予定です)

◇清角克由(観劇評論サイトSayCorner!主宰)

  1. こまつ座「円生と志ん生」
  2. 野田地図「THE BEE」(日本バージョン)

野田地図の夏のトラムの公演「THEBEE」は緊張感のある舞台でした。私の高評価の芝居の特徴に「悪夢にでてきそうな公演」というのがあるのですが、この公演なんかまさにそう。
再演もの多くみた年でもありました。初演時にも見たものもありましたが、初演時見逃し、評判を聞いて再演に挑戦したものありました。こまつ座の「円生と志ん生」はそういういきさつで見に行った作品でしたが、高い期待を裏切らない名作でした。戦中~戦後の大連を舞台にした面白カナシい話でした。今年は、三谷さんの新作がこの後控ええていますので、2本とさせていただきます。(観劇数31本)。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」年末回顧特集2007臨時増刊号(2007年12月20日発行)
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