第3回アジアダンス会議から(上)

◎「小さな」個人の身体から「大きな」ポテンシャルを探る
武藤大祐(ダンス批評)

第3回アジアダンス会議2007から
アジアダンス会議2007 ファイナルセッションから。右端が筆者。写真提供=社団法人国際演劇協会(ITI/UNESCO)日本センター

ユネスコの下部組織である国際演劇協会・日本センターが隔年で開催してきた、「アジアダンス会議」の三回目が2月に東京で開かれた。アジア各地から集まった振付家、批評家、オーガナイザーなど14人の参加者が一週間に渡ってプレゼンテーションや討論、ワークショップを行いながら、ダンスを通してアジアを、またアジアを通してダンスを、じっくり考えてみたのである。筆者の怠慢でやや遅くなってしまったが、3月末に刊行された記録集の宣伝も兼ねて、二回に分けて報告したいと思う。

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ニットキャップシアター「お彼岸の魚」

◎私は誰?私は私。そして叩き壊し 「誠心誠意の毒」の証
高木龍尋(大阪芸術大大学院助手)

「お彼岸の魚」公演チラシ私の記憶の中に私の姿がないのは、言われてみれば至極当然のことである。鏡を見ている時間の記憶は別にしても、写真やビデオでも撮っていなければ、自分自身がいつどこでどのようなことをして、その様子がどんなだったかを見ることができない。たとえ撮っていたとしても、事後的に確認する、私の記憶にとっては傍証のようものでしかない。そして、忘れてしまえばその時間が消滅する。無論、過去にあった時間が消えてなくなるわけではないが、その時間がどのようなものであったか辿れなくなる。初めから見ることができない自分の姿はおろか、自分の耳で聞き取っていたはずの会話もである。そして、忘れたことも忘れてしまえば、それは二度と引き出されることはない。
さて、ニットキャップシアターの「お彼岸の魚」は人の記憶と、そこに基づく自分自身が最大の主題となった作品である。

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ガーディアン・ガーデン演劇フェスに3団体

 第15回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルの公開二次審査会が5月2日、東京・吉祥寺シアターで開かれ、来年4-5月のフェスティバルに参加する3団体が次の通り選出されました。2週間遅れですが、お知らせします。  クリ … “ガーディアン・ガーデン演劇フェスに3団体” の続きを読む

 第15回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルの公開二次審査会が5月2日、東京・吉祥寺シアターで開かれ、来年4-5月のフェスティバルに参加する3団体が次の通り選出されました。2週間遅れですが、お知らせします。
 クリウィムバアニー(東京)東京デスロック(東京)ユニット美人(京都)

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MODE「変身」(カフカ原作)

◎多層的深みを孕むふり幅
高橋宏幸(近畿大学国際人文科学研究所研究員)

「変身」公演チラシ作品がそれのみによって完結されないこととして、たとえばプロセスの重視は、美術ならばプロセスアートやコンセプチュアルアートの一端を占める作品などで知られている。その方法を演劇にあてはめるならば、たとえばリーディングやワーク・イン・プログレスなどを経て、それが公演されるまでの軌跡を公開した作品を指すことになるのだろうか。

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ファミリア・プロダクション「囚われの身体たち」

◎囚われぬ身体の美しさ
今井克佳(東洋学園大学准教授)

「囚われの身体たち」公演チラシ2007年3月、チュニジアのファミリア・プロダクションが、「東京国際芸術祭」に再登場した。演出家ファーデル・ジャイビと、脚本家で女優のジャリラ・バッカールを核とする、この演劇集団は、メンバーを固定した劇団ではないようだが、前回、2005年に「ジュヌン-狂気」で公演したときと同じ出演者を今回も認めることができた。

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手塚夏子・振付「関わりを解剖する二つの作品」

◎立体的な広がりの到達点と更なる可能性
柳沢望

「関わりを解剖する二つの作品」公演チラシ3月末、『関わりを解剖する二つの作品』と題して、手塚夏子の振付作品が2本上演された。手塚夏子は近年『私的解剖実験』と題したシリーズによってダンスの方法論を模索する試みを続けてきたが、今回の二作品では、今まで探求されてきた方法論が組み合わされ、立体的な広がりを見せ始め、手塚の方法論のひとつの到達点を示すと共に、更なる可能性を予感させるものになった。

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ヤン・ロワース&ニードカンパニー「イザベラの部屋」

◎音楽とダンスと演劇と美術の融合による記憶のコラージュ
芦沢みどり(戯曲翻訳者)

「イザベラの部屋」公演チラシこの2月に彩の国さいたま芸術劇場でヤン・ファーブルの「わたしは血」を観た。その2カ月足らず後、同じベルギー人という以外何の予備知識もなしに、同じ劇場でヤン・ロワースの「イザベラの部屋」を観た。当然ながら舞台から受けた印象と感動の強度はそれぞれ違うが、どちらもダンス、音楽、演劇、美術が融合した作品だった。

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Al-Kassab and his group Mustaheel-Alice「Dream in Baghdad」

◎劇場の天井が消滅するとき
詩森ろば(「風琴工房」主宰)

「Dream in Baghdad」公演チラシムスタヒールアリスの「バグダットの夢」という作品を見た。ムスタヒールアリスはイラクのカンパニー。不安定で、成田に着くまではほんとうに来ることができるかどうかもあやぶまれた状況下から、日本が初演という作品を携えてやってきた。それは、雨が降ると水に浸されてしまう古い家に耐え忍びながら住む家族の話であった。不幸な状況は人間関係の不全と不安を呼び、苛立ちや悲しみが降り止まぬ雨に浸されていく。そこに狂ったひとりの若者がやってきてすべてを破壊してしまう。跡に残ったのは夥しい死と亡骸。暖かな屋根の下に住みたいというささやかな希望さえも終える。

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