◎自然と科学に向き合う生命体
柾木博行
あれはいつのことだったのか。もう二十年くらい前、たぶん日光あたりへ旅行に行ったとき、ちょっとした林の周りを散策していた。木々の根元はしっとりと水を含んだ苔が覆っている。そんなところを歩いていうちにふと、寝そべってしまいたい気になった。生い茂った緑の影に身を横たえて自然と一体になれるような感覚。ああ、いつか自分もこうした木々と一緒に朽ちて、大地に溶け出して拡散し、周りの植物や虫や鳥に取り込まれていくのだと。そんなことを思っていると、ふと意識までもが自分の体を抜け出して、美しい林の中へと拡散していくような気がした。平山素子のソロ公演『After the lunar eclipse/月食のあと』(以下、『月食のあと』と表記)を観た後に、そんなことを思い出したのは、まさに同じようなイメージの場面が出てきたからだけではない。それは侵食し合いながらも共生していかなければならない自然と人間の関係を、我われが3月11日以降、常に考えさせられているからだ。
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