イプセンフェスティバル2012

◎イプセンフェスティバル2012に参加して-オスロレポート
 矢野靖人

【写真は、カフェ壁面の片隅にたたずむイプセン。撮影=筆者
禁無断転載】

 2012年、8月の終わりから9月初めにかけて約三週間、ノルウェーで隔年開催されているイプセンフェスティバル(注1)に参加して来ました。ブログに旅日記を記載していたので、それを元に簡単にレポートをまとめたいと思います。

 ここ数年、私が代表を務めるshelfではイプセン戯曲にこだわって繰り返し上演していて、その都度大使館から後援して頂いていたので、そのご縁もあってか若手演出家育成プログラムのような企画で渡航費を出して頂きました。

 ちなみに、大使館からは渡航費以外にも様々な配慮を頂きました。スタッフパスを頂いたので、全作品が無料で観劇できたことや、交渉すればリハも見せてもらえたこと。関係者向けの食堂であるカンティーナ(格安!)や、フェスティバル・バーが出入り自由だったことなどです。フェスティバル・バーでは、スタッフがドリンクチケットを持っていて、適宜便宜を図ってくれました。ノルウェーは物価が高いので(消費税が12~24%)とても助かりました。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第18回

◎「公害原論」(宇井純、亜紀書房)
 詩森ろば

「公害原論」合本新装版の表紙
新装版 合本「公害原論」の表紙

 子供のころから趣味といえば読書くらいで、小説も戯曲もずいぶん読んでいるはずなのだが、「忘れられない一冊」と言われると劇作をする中で資料として読んだ本ばかりが思い浮かぶ。歴史に題材を求めたり社会的事象について取材したりすることが多いので、どうしても膨大な資料を読む必要が出てしまうのであるが、読んでいるあいだは、戯曲など早く書き上げて好きなものを読みたいと思っているのになぜなのだろうか。
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【レクチャー三昧】2013年1月

 年明けの催しについての告知は未だ少ないようです。1月から2月にかけて諸大学は入試や学期末で多忙を極め、一般公開講座の開催はもとより少なめなのですが、惹かれる催しの告知を見つけましたら【レクチャー三昧】カレンダー版に入力致しますのでそちらもご覧下さい。皆さまにはどうぞよいお年をお迎え下さい。
(高橋楓)
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年末回顧企画「振り返る 私の2012」

 内外の情勢が大荒れだった2012年も年の瀬。恒例の年末回顧企画「振り返る 私の2012」をお届けします。「記憶に残る3本」を選び、400字のコメントを添える方式です。40人余り(追加投稿を含む)があらためて光を当てた小劇場の1年は、どのような輪郭を描いて浮かび上がったでしょうか。舞台芸術は時代の無意識を吸い取る格好のメディアといわれます。ここに掲載した多くの方々の見方考え方から、世の中の来し方行く末が眺められるかもしれません。じっくりご覧いただきたいと思います。掲載は到着順です(編集部)
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第17回

◎「the good, the bad, the average…and unique―奈良美智写真集」(奈良美智 リトルモア 2003年)
  田口アヤコ

奈良美智写真集 表紙
「奈良美智写真集」表紙

 どこで手に入れたのだったか、それがいつだったのか、自分でどこかで購入したのだが、まったく記憶にない。ただ、いま、わたしの手元にいつもあり、旅先や、本番に入ってからの劇場にも携行していくことがある。ぱらぱらとめくって、精神安定剤のような、ギターのチューナーのような、音叉のような、ミネラルウォーターのような、いつもする1時間ほどのストレッチのような、自分の精神と身体と、「世界と、」の距離の調整をするために使っている。(ということは、「演出家/劇作家」としては、この本を利用していないのだな、「俳優」として利用しているのだな、と、自覚。。。) いちど、旅行カバンの中で擦れてしまい、アイボリーのざらりとした布張の表紙には、ぎりっと一本の傷が付いている。
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川口隆夫「逃げ惑う沈黙」「『病める舞姫』をテキストに-2つのソロ」

◎言葉とゲームを横断する男
 堀切克洋

 今更ながら、川口隆夫の「身軽さ」には驚きを禁じ得ない。細身で長身の身体が、ダンサーとしての身軽さを保証しているだけではない。川口はあらゆる局面において身軽なのであり、その一例として彼の活動は国境をたえず横断しつづけているし、また、テキストとパフォーマンスを横断しつづけている。逆から見れば、彼の公演は、さまざまなアーティストが通過していくひとつの「場」となっていると言っても過言ではない(石井達朗によるインタビューを参照のこと)。
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岡崎藝術座「隣人ジミーの不在」

◎描かずに、しかし切実に立ち上がる、舞台背後の情景
 小林重幸

 そもそも、この芝居がどういう文法で成り立っているのかを言い表すことは難しい。冒頭から、その所作は「ダンス」の領域そのもの。舞台上部に吊り下げられたオブジェ以外は何もない舞台に、登場人物が一人前方中央へ出てきてしばらく佇み、その後もう一人が出てきて、ふと目を合わせて台詞が始まる。露骨な性描写の台詞を語りながら、二人の所作は、手を上げたり、体を傾けたり、およそ不自然な、しかし、どこかぶらぶらとした、何となく力の抜けた感じもする動作である。
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忘れられない1冊、伝えたい1冊 第16回

◎「神聖喜劇」(大西巨人 光文社文庫)
 危口統之

「神聖喜劇」(第1巻)光文社文庫表紙

 親譲りの天邪鬼で子供の時から損ばかりしている。小学校にいる時いじめを正当化する発言をして教師を動揺させたことがある。なぜそんなむやみをしたと聞く人があるかもしれぬ。別段深い理由でもない。私も若い頃は隣町の連中に石ころを投げつけたものだと教師が言うから、それに便乗しただけのことである。裏山の傍に住むYの家は汚らしいから虐められて然るべきだと言ったら、いま危口は重大な発言をしたと槍玉に挙げられたので、だって先生も石投げてたんでしょと答えた。
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マレビトの会「アンティゴネーへの旅の記録とその上演」

◎表面張力への一滴 ―「アンティゴネーへの旅の記録とその上演」と福島―
 前田愛実

 フェスティバル・トーキョー(F/T)2012の主催プログラム、マレビトの会(代表:松田正隆)による『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』は、第一の上演と第二の上演から構成された作品である。

 第一の上演では、ある架空の劇団「パトリオット劇場」が福島で一人の盲目の観客のためにギリシャ悲劇『アンティゴネー』を上演するという物語が、ブログやツイッターなどのSNSや動画を使ってウェブ上に配信されたのだが、SNS上では、パトリオット劇場の主宰や俳優を中心とする、登場人物たちの日常や生活などが書き込まれていた。つまりこの期間、物語の中の人間たちがSNSを介して現実に紛れ、この世界に生存していた(ツイッターでいうならサザエさんbot的に)というわけだが、それらを読むことで、三カ月ほどの間オンライン上で『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』の一部が上演されていたということでもある。
 また「パトリオット劇場」をめぐる様々な「出来事」の告知もされ、地図を手掛かりにその現場に立ち会うことも可能だった。
 このような形で、第一の上演は8月から11月まで行われ、観劇を予定している観客は、あらかじめ第一の上演を見てから来場することがオススメされていた。
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アジア舞台芸術祭「Waiting for Something」

◎人を異邦の者にする言葉
 馬塲言葉

 もし、大人に「きれいな赤いレンガの家を見たよ、窓にはゼラニウムがあって、屋根には、ハトがいて…」こんな話をしてもそんな家を想像することすらできないでしょう。あなたは、大人に次のように言わなければいけません。「10万フランの家を見たよ。」って。すると大人たちは、「それはすばらしい!」と叫ぶでしょう。(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「星の王子さま」より)

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