五反田団「すてるたび」

◎「父」を殺して「大人」になる 「挫折」を乗り越える自己セラピー
水牛健太郎(評論家)

5月9日にアトリエヘリコプターで五反田団の「すてるたび」を見た。昨年11月に初演された作品だが、ベルギーのフェスティバルに持っていくということで、その準備の一環として、1日だけ東京でプレ公演をするということだった。昨年見たときもいい作品だと思ったが、決して見やすい作品ではなかったから、1回見ただけでは消化できなかったところもたくさんあった。再び見ることによって、過去と現在、夢と現実が境もなく入り混じるその作品世界をよく味わうことができた。1時間余りの上演時間中、ずっと心地よく集中して楽しんで見られた。

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ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」

◎「他者性/関係性」の方に踏み出す 誰かの生き難さを救うためにも
鈴木励滋(舞台表現批評)

ハイバイという劇団の名の由来は「ハイハイからバイバイまで」だという。わたしは勝手に出会い(ハイ)と別れ(バイ)の間を描いているからハイバイなのかと思っていた。主宰の岩井秀人のプロフィールには「外科医の父と臨床心理士(カウンセラー)の母の元で育ち、夜尿症、多動症を抱え16歳から20歳まで引きこもっていた」という“乗っ取る”とか“刺す”などということに至ってしまった若者の紹介かと見紛う記述がある。もし、このプロフィールを先に見ていたとしたら、敬遠していたかもしれない。けれどもそれは、重いのが嫌なのではなく、自らの痛みのみを見せ付けるような表現が苦手なために、それを警戒し回避する直感が働いたかもしれないということだ。
実際には、贅というユニットのプレビュー公演に出演していた岩井の演技に好感を持ち、彼が主宰するハイバイを観始めたので、つまらない偏見で機会を逃さなくて本当に幸いであった。

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弾丸MAMAER「デマゴギー226」

◎演劇への果敢な挑戦に熱くなる 女中部屋の密室劇で2・26事件を描く
木俣冬(フリーライター)

「デマゴギー226」公演チラシなんて隙のない鮮やかな作戦!
冒頭から最後まで、演出家・竹重洋平の指揮に魅入られた。今更ながらorganize が団体を組織することであり、芸術を構成することでもあることを体感させてもらった。

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「キレなかった14才 りたーんず」

「キレなかった14才 りたーんず」、あるいは演劇の再起動
柳沢望

「キレなかった14才 りたーんず」公演チラシ1.「りたーんず」の企画趣旨

2009年4月16日から5月6日まで開催された「キレなかった14才りたーんず」(以下、「りたーんず」と呼ぶ)は、1982年に生まれた演出家5人と1984年生まれ1人が、東京駒場のアゴラ劇場でそれぞれに舞台の新作を発表した企画だ。

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マリウス・フォン・マイエンブルグ作、松井 周演出「火の顔」

◎その断面は体液の滴るほど切り口鮮やかだった
大泉尚子

チラシには「自傷、引きこもり、親子間のコミュニケーション断絶など、戯曲が描く父母姉弟・四人家族の姿は現代日本の病巣と重なり…」とあるが、ふだんならこういう芝居には絶対行かない。だって、そんなものを「こんなです」と〈サンプル〉として見せられたところで、何の解決策も見出されるわけでもなく、「それで? だから?」と言いたくなる。第一、暗いし重いし、何で金払ってそんなもん見なきゃならないんだ!

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サーカス劇場「カラス」

◎底の底の願いを掬い上げてくれ 利口で美しいカラスを脳裏に
西村博子

「カラス」公演チラシ舞台は東京のどこかのガード下。壁に手の跡、人影などいろんなシミや落書きがある。と、いきなりバイクが突っ走り、元男性のカラスおばさんが廃棄物いっぱいの自転車押しながら出てきて歌い出す。

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快楽のまばたき「星の王子さま」(寺山修司作)

◎瑞々しさが光る冒頭の冴え 戯曲から読み取った確信的な演出
鈴木厚人(劇団印象-indian elephant-主宰/脚本家/演出家)

「星の王子さま」公演チラシ新宿のタイニイアリスで上演された快楽のまばたきの公演「星の王子さま」はとても刺激的な舞台であった。「星の王子さま」は、寺山修司の戯曲で、かの有名なサン=テグジュペリの「星の王子さま」を下敷きに書かれたものだった。男装の麗人に連れられて、点子という女の子が、うわばみ(=大蛇)の老女が経営するホテルにやってくる。そのホテルには夜空からたくさんの星が集められていて、星のいくつかは人間の女(しかもレズビアンやおなべ)になって突然踊り出す、といういささか荒唐無稽な設定である。

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ユニット・トラージ「アチャコ」

◎博覧強記のリテレート
片山雄一(NEVER LOSE 作/演出)

「アチャコ」公演チラシ私にとって演劇はチラシを手に取った瞬間から始まる。
東京での折り込みの多さにはうんざりするが、そういう時は開演までの時間を利用して、気になるものだけを持ち帰るようにしている。その中にいつからか『アチャコ』のチラシが鞄の中に紛れていた。どうやら、北村想(私ごときが呼び捨ても恐れ多いのだが申し訳なく、敬称略)書き下ろしの『アチャコ』公演のために集まった面々が「ユニット・トラージ」だということだ。

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