風琴工房「hg」(上)

ワンダーランドは今年の4月から7月まで毎月2回のペースで「劇評を書くセミナー」(全8回)を初めて開きました。劇作家・演出家の話を聞く+劇評を書く+講師のコメントを聞きつつ討議する、という三位一体の講座でした。遊園地再生事業団「ニュータウン入口」、三条会「邯鄲」「綾の鼓」、それに風琴工房「hg」が課題公演に指定されました。この3回の公演評は無署名で書いてもらいました。書き手の属人的要素を捨象してテキスト自体に注目しようとの狙いがあったからです。毎回十数本の劇評が提出されましたが、もっとも評価が分かれたのが「hg」公演評でした。どこでどのように分岐したかは、これから2回にわたって紹介する劇評を読むと分かってもらえるはずです。以下、最初の4編を掲載します。セミナー講師の西村博子さん(アリスフェスティバル・プロデューサー)と岡野宏文さん(演劇専門誌「新劇」元編集長)の二人が選んだ劇評を基に構成しています(編集部)。
(注)10月に新しい劇評セミナーを開きます。>> 詳細ページへ

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劇団チャリT企画「ネズミ狩り」

◎「大人」の気概
水牛健太郎(評論家)

「ネズミ狩り」公演チラシ「ふざけた社会派」を標榜するチャリT企画。「社会派」を大真面目に掲げる方が怪しい、どこか信用できないという時代が八〇年代この方、続いてきた。主宰の楢原拓はまさにその時代の子であり、開演前に八〇年代アイドル歌謡を大音響でかけるスタイル同様、「ふざけた社会派」の「ふざけた」という部分に、楢原が完全に真剣であることが逆説的に表現されていた。

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ペンギンプルペイルパイルズ「審判員は来なかった」

◎これこそ小劇場演劇豪華版!
高木龍尋

「審判員は来なかった」公演チラシ 「今注目の劇団!」とか「人気劇団!」とか言われると、観に行こうという気が失せてゆくのは私の性格がひねているからだろうか。観ようと思ったらかなり前からチケットの予約をし、行ってみたらその劇団のファンで超満員、オチの前に笑う客、おかしなタイミングで泣く客……まず劇場にいるだけで居たたまれなくなる。それで、作品はというと……「木戸銭返せ!」とは言わないまでも、「半額返せ!」とは言いたくなることもある。〈遠くの大劇場で人気劇団もしくは人気演出家で高額チケット〉―これが落胆する場合に最悪なパターンである。

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劇団印象『枕闇』

◎ことば遊びのしすぎでキャラクターが窒息 本当は、「夢」を軸にした話だったようなのだ。 「人は、自分の願望を眠りとともに”夢”に見る、 (中略)枕闇はそうした”夢”の、ちょっと不思議なお話である。」(パンフレットより演出 … “劇団印象『枕闇』” の続きを読む

◎ことば遊びのしすぎでキャラクターが窒息

本当は、「夢」を軸にした話だったようなのだ。

「人は、自分の願望を眠りとともに”夢”に見る、
(中略)枕闇はそうした”夢”の、ちょっと不思議なお話である。」(パンフレットより演出の言葉)

”夢”の芝居だと思って見始めて、最後まで首をかしげながら見ていた。
ただ、目に色鮮やかで美しい舞台だと思ったことも今のうちに併記しておこう。
劇団印象の「枕闇」は、はたして何を核にした芝居なのか。 (以下文中敬称略)

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Port B「サンシャイン62」

◎ひたすら歩く、ただとにかく、前へ、前へと
米山淳一

「サンシャイン62」公演チラシPort Bのツアー・パフォーマンス『サンシャイン62』を観た。といってもこの公演、東池袋に昨年新たに出来た劇場「あうるすぽっと」を集合受付場所とはするものの、観客は劇場の客席に座って舞台を観ていればいいのではなく、むしろ大部分の時間を劇場の外、池袋の街という舞台をひたすら自らの足で歩かなくてはならない。だから観たというよりは、参加したという方がむしろ実情に即しているだろう。

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A.C.O.A「人間椅子」

◎観客の半分は女なのだぁーっ!
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

アトリエセンティオは東武東上線・北池袋駅から歩いて五分、路地の突き当たりの線路際にある。これが比ゆでなくマジで線路のすぐ横なのね。かつて舞踏グループが稽古場にしていた小屋だと聞けばナルホドと思うけど。開場までの数十分、ひっきりなしに通過する夕方のラッシュの車両を、暮れなずむ路地裏で眺めているうちに不安になった・・・こんな場所でまともに芝居が観られるのかなぁ。

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NODA MAP「THE BEE」(日本語バージョン)

◎かさぶたのない傷口
亀田志織(学生)

「The Bee」公演チラシ鋭利な刃物で切りつけられた感覚がした。
傷が癒えないまま、傷口はどんどんとえぐられていく。 そのまま私は呆然と、立ちすくむ。
舞台に広がった、上から垂れ下がる一枚の茶色い紙。その上で繰り広げられる人間模様。

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サンプル「家族の肖像」(クロスレビュー)

サンプル「家族の肖像」公演チラシサンプルは松井周(主宰)の作・演出でさまざまな家族・人間関係を「いま」に結びつけ、実験的な手法で舞台化してきました。今回のクロスレビューは、サンプル第3回公演「家族の肖像」です。会場はアトリエヘリコプター。旧工場2階四方に客席を高く設営しての上演でした。
いつものように名前と肩書きの後、5段階の評価と400字コメント(ミニレビュー)を加えます。(掲載は到着順)

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