宮武葉子(会社員)
- 柿喰う客「失禁リア王」(女体シェイクスピア004)
- 新国立劇場「エドワード2世」
- 劇団Studio Life「lilies」
(観劇順に)
1.幕なし音楽劇仕立ての「リア王」スピーディな演出(もうちょっと長くても良かったかも)、出演者のかっこよさに圧倒され、ただただ見とれる。リア王がかくもダンディだったとは知らなんだ。中身は酷いヤツだったけど(ぼそ)。
2.善人はどこにもいないらしい中世イングランドを描いた史劇。箱のような舞台、玩具のような道具類が、人々の悪辣さと滑稽さを際立てていた、ように思う。まぁ、一部滑ってるところもあったとは思いますが、正直。
3.囚人が演じる芝居の中で更に劇中劇が演じられる…という、舞台ならではの企みに満ちた複雑な作品。謎解き、タブー、復讐等々のつまった、大好きな作家の戯曲がいい形で上演されたことでテンションがうなぎ登り、公演終了とともに燃え尽きてしまいました。ただいま虚脱状態。
(年間観劇数 99本…惜しい!)
三田村啓示(俳優/空の驛舎/C.T.T.大阪事務局/舞台芸術雑誌ニューとまる。)
- 辻企画「不埒なまぐろ」
- トイガーデン「リチャード三世」
- 飴屋法水「教室」
順位は特に無く観劇順。昨年同様、関西のみで上演されたであろう作品の中で選んだ。無論私自身が出演・関わった作品も除いた。
1の辻企画は漸くタイミングが合い観ることが出来た。あらゆる社会的な属性から解き放たれた「男」と「女」だけが存在する異様にプリミティヴな劇空間は鮮烈な印象を残す。
2は団体のホームページで総括らしきものがされているので説明は省略するが、本当に酷い。コンセプチュアルな姿勢を突き詰めた先に何故ここまで痛ましくも白痴的な代物が仕上がるのか? 次回作があることを切に祈る。
そしてTACT/FEST2013 国内招聘プログラムとして上演された3は忘れがたい。フィクション/ノンフィクションの境界を無効にするような普遍的な物語の在りようにただただ心を強く揺さぶられた。
その他上げればきりが無いが、伏兵コード「木菟と岩礁」、匿名劇壇「気持ちいい教育」、遊劇体「往生安楽国」、地点「ファッツァー」などが強く印象に残った。
(年間観劇数 約70本)
山田ちよ(演劇ライター、サイト「a uno a uno」)
- 温泉ドラゴン「birth」(STORE HOUSE Collection 日韓演劇週間<生きる>ことの考察)
- 劇団鳥獣戯画「モダン歌舞伎『好色五人女』」
- チリアクターズ「瞳の奥の心の旅〜コイし合ってた僕等のホント〜」
温泉ドラゴンは、暴力的な人物を通じて社会の矛盾を浮き上がらせる手法に、鐘下辰男の作品を思わせて引き込まれた。ビジュアルにかなり力を入れているところが、もう一つの魅力だ。鳥獣戯画「好色五人女」は、最近はおばさん役が定位置になってきた石丸有里子が、ど真ん中という感じの八百屋お七から、年増の樽屋おせんまで5役に挑戦。各役の演技と踊りでたっぷり楽しませた。チリアクターズは2012年に小田原で旗揚げした劇団。ことしは本公演3本、小作品2本という奮闘ぶりで、いわば神奈川の演劇界の注目株。
「瞳の奥の心の旅」は本年最初の作品で、高校卒業から2年後に再会した男女が、高校演劇部での男女関係を振り返る。場面転換もせりふもテンポがよく、性格のきつい女子の活躍で、少し苦みもあって面白い。その後の4本も見たが、これが一番よかった。この手の作品の次が出ないのが少し不満だが、まだ試行錯誤中のようだから、見守ることにする。
(年間観劇数 124 本)
水牛健太郎(ワンダーランド)
- 範宙遊泳「さよなら日本ー瞑想のまま眠りたい-」
- チェルフィッチュ「地面と床」
- ロラ・アリアス「憂鬱とデモ」
(順不同)
演劇のモードが変わってきた。見ている人がどんどん勝手に妄想を乗っけていけるような、骨格の丈夫な作品が増えてきたように思う。頼りになる、開かれた作品が。
範宙遊泳「さよなら日本」は今年一番妄想させてくれた作品。京都で見たチェルフィッチュ「地面と床」は、最初の瞬間からぎらぎらと輝いていた。傑作。同じくKYOTO EXPERIMENT演目のロラ・アリアス「憂鬱とデモ」の繊細さに心打たれた。海外作品が観客にとっても鏡となる事実は、これからも変わらない。
身辺の変化があった1年だが、気づけば久しぶりに100本越え。あと5年、こんな感じで見てみようか。
(年間観劇数 100本とちょっと)
波多野 彩(わらべうた講師、アルバイト)
- TBS、ホリプロ主宰 ミュージカル「100万回生きたねこ」
- M&O plays プロデュース 「悪霊-下女の恋-」
- 時速246億vol.A「No.721」(再演)
1位。イスラエルの演出家ってどんな? と思ったが素晴らしい作品。森山未來の身体能力も堪能できた。音楽が良い作品にはどうしても惹かれる。来年は、佐橋さんとDr.kyOnが音楽監督の『もっと泣いてよフラッパー』が楽しみ。
2位。松尾さんの演出にゾッとした。露地を掃き清めてそこへわざわざ落ち葉を散らす千利休のような感じがして…。松尾さん、朝ドラでは「熱いよね~」なんてヘラヘラしてたけど「こんな極点まで行っちゃってもう死んじゃうんじゃないか」と心配になったぐらい(笑)。初演も観たがここまでではなかったと思う記憶の彼方。
3位。『MIWA』とどちらにしようか迷ったが期待を込めて「時速246億」に。様々な分野で研鑽するパフォーマーがひとつの場に集まって作品を生み出す。その現場を目撃できるのは至福だ。今後こういうプロデュース作品が増えることを望む。観たくて叶わなかったのが『動かぬ旅人』『高校中パニック!小激突!!』。
(年間観劇数 37本 全て自分でチケットを取って観劇)
矢野靖人(演出家、Theatre Company shelf代表)
- SCOT「新釈・瞼の母」(原作/長谷川伸 演出/鈴木忠志)
- tgSTAN(ティージー・スタン:ベルギー)「Nora(ノーラ)」(原作/ヘンリック・イプセン 演出/ヴィーネ・ディリックス、フランク・ヴェルクルイセン、ティアゴ・ロドリゲス、ヨレンテ・デ=ケースマエカー)
- Teatro La Maria(マリア・シアター:チリ)「PERSIGUIENDO A NORA HELMER(ノーラ・ヘルメルを追いかけて)」(原作/ヘンリック・イプセン 演出/アレクサンドラ・フォン=フンメル)
「瞼の母」においては、失われつつある日本語の美しい旋律について、西洋音階とは異なる日本語のその半音階で発語される「声」の持つ、表層的な言葉の意味を越えた、言葉の本質としかいいようがないものを見せ付けられて、大いに唸らされた。tgSTANとTeatro La Mariaについては、彼らの超リアリズムとでもいえるようなその演技に触れ、これもまた大きな衝撃を受けた。日本の俳優には彼らの様な演技は決して出来やしまい。しかしそれは決して彼我の優劣などではなく、お互いの言葉が違い、身体の在り様が違って、そしてコミュニケーションの方途が違うということなのであって、それ故に私たち日本人が舞台上で日本人に固有のリアリティを獲得するために必要なのは、スタニスラフスキー・システムや、メソッド演技やフェルデンクライスやアレクサンダー・テクニークのような西洋由来のメソドロジーでは必ずしもない。それよりも先ず自分たちの拠って立つその足元をきちんと観察するところから思考と実践を始めなければならないのだ。ということを改めて痛感させられた。どれも実に得難い体験だった。(474字)
落 雅季子(会社員、個人ブログ「机上の劇場」)
- 岡崎藝術座「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」
- ままごと「日本の大人」
- チェルフィッチュ「地面と床」
制御不能なエネルギーに飲まれ、不穏な気配を増してゆく日本の行方に関し、演出家たちに通底する憂いを感じた一年だった。岡崎藝術座は、露悪的ではあるが体幹のしっかりした戯曲に惹かれた。神里雄大は、処女小説『亡命球児』でも視覚的で粘度の高い言語感覚を発揮しており、個人的に今後の執筆活動が一番楽しみな作家である。ままごとは、関東での上演がなかったので小豆島まで訪ねて観た。瀬戸内国際芸術祭参加を経て、柴幸男の演劇製作へのスタンスは変化したように思われ、横浜での継続的なワークショップから作られた『象はすべてを忘れない』でも印象深い時間を提供してくれた。チェルフィッチュは「日本語」を通して「日本人」や「日本という国」の行く末を見ようとしており、安易に溜飲を下げて終わらせてはくれない重さに、大きな宿題をもらった心持ちだ。
歩いて自分の足で物語を見出す、ツアーパフォーマンス型の作品にもよい出会いが多かった。急な坂スタジオでの「つれなくも秋の風」F/T13での中野成樹+長島確「四家の怪談」など。
(年間観劇数 130本)
金塚さくら(美術館勤務)
- Theatre Company Ort-d.d 「わが友ヒットラー」
- 花組HON-YOMI芝居「婦系図」
- Studio Life 「LILIES」
舞台そのものはもちろんとして、それを待ち受ける、客席の空気が印象深かった公演を3つ、上演順に。
『わが友ヒットラー』は三島由紀夫に正面から挑んだ饒舌な台詞劇。史劇に収まらない独特の雰囲気が漂う。満員の客席は灯りも落ちる前からしんと静まり返り、針一本落ちても聞こえそうな静寂の中でヒットラーの第一声を待っていた。
『婦系図』は同劇団が過去に舞台化した泉鏡花の小説をリーディング形式で再構成。とは言え台本はもはや持っているだけの大熱演、本公演顔負けの仕上がりで、鏡花独特の節回しが小気味よく飛び交う。本来稽古場の狭い場内には当日券のための椅子が次々詰め込まれ、期待が熱量となって演技スペースを温めていた。
『LILIES』は上演4回目となる同劇団の人気作品。カナダ産の翻訳戯曲は隅々まで真摯に読み込まれ、前回までと大きく作風を変えた。サスペンス調の幕開け、きんと張りつめた舞台の空気を、客席も息を詰めて受け止めていた。
(年間観劇数 25本)
福田夏樹(演劇ウォッチャー)
- ままごと「港の劇場 秋期」「島めぐりライブ」
- 日韓共同製作プロジェクト「つれなくも秋の風」
- Produce lab 89 presents 「官能教育」 三浦直之(ロロ)×堀辰雄「鼠(ねずみ)」
正直、今年はすごく悩んだ。毎年いくつか頭に浮かんで、そこから選ぶのに苦労したが、今年は、「この作品こそ!」と思える強い感動を催す作品に出会えなかった気がする。それは、作品に出会えなかったのか、感性が鈍ったせいなのかはわからない(どうも後者のような気もする。)。演劇をどう捉えるか迷宮入りしたというのが私にとってのこの1年だった。そんな中出会った1.と2.は私をますます混乱させた。1.のなんとも言えない感動と、2.に感じたもやもやを明確な言葉にすることが、この迷宮から脱する方法な気がするが、残念ながら今はその言葉を持たない。ただ、3.を観て、やはり演劇に私の大好きなものがあることも確認した。付き合い方を改めつつ、来年もう少し演劇と付き合ってみようかと思っている。
(年間観劇数 200本強)
薙野信喜(演劇感想サイト「福岡演劇の今」)
- イキウメ「片鱗」
- M&Oplaysプロデュース 「悪霊-下女の恋- 」
- THE GO AND MO’S「注文の多い風俗店」
今年も首都圏や関西からの公演を地元九州でかなり多く観られたのはありがたかった。3.THE GO AND MO’S「注文の多い風俗店」は、福岡県志免町で今年から始まった「国 際コメディ演劇フェスティバル」で観たもので、久々の黒川猛作品を楽しんだ。ほかには、鉄割アルバトロスケット「鉄卜全-大分編」、ハイナー・ゲッペルス「Sifters Dinge」、ナイロン100℃「わが闇」、中野成樹+フランケンズ「ナカフラ演劇展」、のこされ劇場≡「枝光本町商店街」、ラッパ屋「ダチョウ課長の幸福とサバイバル」などが印象に残った。
九州の劇団の公演では、演劇集団非常口「四畳半の翅音」の島田佳代、go to「Listen」「お皿の話」の後藤香、HIT!STAGE「Case4~他人と自分~」の森馨由、きらら「踊り場の女」の池田美樹と、地元にじっくりと根を下した女性の演劇人による舞台が楽しめた。
(年間観劇数 約130本)