忘れられない1冊、伝えたい1冊 第7回

◎「氷点」(三浦綾子著、角川文庫 上下)
 サリngROCK
「氷点」表紙

 大学生になるまで、私は「当たり前」について悩んでいた。「死は怖い」「敵は悪い」「悪口は悪い」「悪いことはしてはいけない」「良いことをしなければいけない」そういう、「当たり前」なことを「当たり前のように」思わないといけないという強迫観念に囚われていた。
 だけど一方で、「ほんまに!?」とも思っていた。いや「ほんま」かもしれないけどでも「なんで!?」と思っていた。悪いと言われることをしてはいけない理由って何なの、良いと言われることをしなければいけない理由って何なの、と思っていた。例えば、「悪口は悪い」という「当たり前」があったとして、その理由は「言われた人が傷つくから」かもしれないけれど、では、絶対に本人の耳には入らない状況だったら、悪口は悪いんだろうか……などと悩んでいた。
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ディディエ・ガラス「アルルカン(再び)天狗に出会う」

◎自分探し(再び)自分に出会う
 水牛健太郎

公演チラシ
公演チラシ

 天狗のことを考えていた。天狗というと赤い顔、長い突き出た鼻で山伏の格好をしている、そんなユーモラスなイメージ。ところが『太平記』をひも解くと、崇徳院を初めとする、恨みを抱いて死んだ人たちが、山の中で天下を乱す悪だくみの相談をしている場面があり、彼らが「天狗」という言葉で表現されている。もちろん崇徳院の霊が赤い顔、長い鼻をしているということではない。天狗という言葉にはもともとそういう、悪霊とか怨霊という意味が含まれていた、ということなのだ。ユーモアなどかけらもなく、かなりおどろおどろしい。
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劇団競泳水着「Goodnight」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 1)

「Goodnight」公演チラシ
「Goodnight」公演チラシ

 王子小劇場主催「佐藤佐吉演劇祭2012」の全公演(10本)をクロスレビュー形式で取り上げる第1弾(通算第31回)は、劇団競泳水着「Goodnight」公演です。
 「競泳水着」は2003年に旗揚げ。ラブストーリーを映像的に見せる「トレンディードラマ」シリーズを上演して注目されました。2009年に劇団化してからは「積み上げられた何気ない日常の記憶から、現代における家族・恋人・友人などの人間関係を丁寧に描いた作品を上演」(劇団Webサイト)。今回は「生きていくことは可笑しくて物哀しくて、愛おしい。劇団競泳水着がお届けする夏の一夜の群像劇」とありましたが、実際はどうだったのでしょうか。5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。各レビュー末尾の丸括弧内は観劇日時です。(編集部)

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