サンプル「ゲヘナにて」

◎進化する勇者たちの、革新に挑み続ける作法
 門田美和

「ゲヘナにて」公演チラシ
「ゲヘナにて」公演チラシ

 渦中にいると、変化の過程がよく見えないものですね。
 私は舞台芸術作品の字幕を作る翻訳者で、時々オペもします。ご存知とは思いますが「オペ」というのは字幕の操作 (オペレーション) のことで、舞台上の演者に合わせて、あらかじめ用意された字幕を表示させる作業のことです。今回、サンプルの『ゲヘナにて』という作品で、私は字幕翻訳とオペの両方を担当させていただきました。以下はその製作過程において、私がそれまで保持してきたポリシー的、信条的な概念を、演出家の松井周氏に、スタッフに、サンプルの皆さんに、がっくんと根底から覆された記録です。
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「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」

◎不都合な視覚、豊かな非視覚
門田美和

私は翻訳をする。誰かの意図を別の言葉に置き換えて伝えている。そのとき私の頭の中には誰かの意図が入り込み、時にさらりと、またはそうではなく私から出て行く。私を通過したら言語だけが変わる。そういうコミュニケーションの形式を私は生業としているのだと思っていたけれど、本当はどうなんだろう。

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小劇場演劇の字幕作成現場から

◎翻訳者の密やかな快楽 英文字幕の世界をのぞく
門田美和

依頼を受けたので、小劇場を主とした現代演劇について、翻訳者の立場から、字幕を切り口とした劇評を書いてみようと思います。思いました。思いましたが、翻訳という行為も小劇場演劇の字幕もストライクゾーンのほっそいトピックで、というより小劇場演劇の字幕自体が多くの観客にとって「どうでもいいです」的なアイテムであるため、今回は、そもそも字幕って何? 映画とかの字幕とどう違うの? ということと、その世界を味わっていただくために、小劇場演劇の字幕を実際に作成してみたいと思います。では、行きます。

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新国立劇場「舞台は夢 イリュージョン・コミック」

◎大輪の花のような「夢」空間 秀逸な美術と演出の効果
門田美和(会社員)

「舞台は夢」公演チラシ大輪の花のようだった。
緋色の蕾が空中に見えた次の瞬間、ふゎら~りと広がり開花した。布地の花びらは、頭上約20メートルの高さから舞い降りてステージを役者ごと包み込み、観客は予想外の高揚と想像外の驚愕に飲み込まれた。このシーンを見るためにチケット代を払ってもよいと思った。沢山の偶然を必要としてできあがったであろうその景色が、私の中でいつまでも消えない。それが私の『舞台は夢 イリュージョン・コミック』だった。

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