悪魔のしるし「わが父、ジャコメッティ」

◎再現の美学
 柴田隆子

悪魔 チラシ画像 ジャコメッティの描く肖像画は不思議だ。遠くから見ている時はちゃんと「顔」に見えるのに、近くに寄るとぐにゃぐにゃと塗り重ねられた絵具の跡しか見えなくなってしまう。絵筆がキャンパスに届く距離では絵具の跡にしか見えないのに、画家はどうやって描いたのだろう。1つ1つの線には大した意味などないように見える。が、距離をとるとそれは確かな像を結ぶ。悪魔のしるし『わが父、ジャコメッティ』もどこかジャコメッティの描く絵に似ている。個々のエピソードは笑いを誘うだけの意味などないものに見えるが、距離をとると舞台芸術における「演劇作品」の新しい像を結んでいるように思えるのだ。
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九十九ジャンクション「本間さんはころばない」

◎そして、飯島君にさようなら ~こんにちは、土屋さん~
 宮本起代子(因幡屋通信発行人)

【チラシデザイン=大田真希男】
【チラシデザイン=大田真希男】

【九十九ジャンクション】

 この風変わりな名の演劇ユニットは、プロデューサーHこと原田大輔、ツクモ芸能編集長こと大竹周作によって結成された。ふたりはいずれも演劇集団円所属の俳優である。公式サイトには「演劇づくりの各セクションに一切の制限を持たず、演劇界だけでなくあらゆる分野からの参加により、新たな風、新たな流れ、新たなワールドを生み出すことを掲げ、発足」とある。プロデュース形式をとり、書き下ろし作品を中心に今後5年間活動するとのことだ。
 おもしろい企画やリクエストを「大募集!!」と呼びかけつつ、原田大輔がうんと言わなければ採用されないというから、ゆるいのかきついのかわからない。しかし新人劇作家デヴューのチャンス、新作の本邦初演の場にもなりうるということであり、大いなる可能性を秘めているわけである。
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連載「もう一度見たい舞台」第9回ねずみの三銃士「鈍獣」

◎舞台は記憶をつれて
 稲垣貴俊

 はじめて歩く大阪・梅田の街では、その風景は実際よりもはるかに美しく映り、またその喧騒もどこか心地良く聴こえたものでした。
 2004年夏、15歳の私は、実家のある三重県から、初めて舞台を観るためだけに大阪を訪れていました。ある日、テレビ番組で知ったある舞台のために大阪に行きたいといいだした私に、さぞ両親は困ったことでしょう。話し合いの結果、当日は父との短い大阪旅行になりました。もっとも父は、他に行きたいところがあったようですが…。
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