城山羊の会「効率の優先」

◎はたしてこれは効率を優先した結果なのか?
 大岡淳

「効率の優先」公演チラシ
「効率の優先」公演チラシ

 この芝居のタイトルが『効率の優先』と銘打たれているのは、直接的には、2件の殺人が起きてのち、緊急時の対応を先送りし犯罪を隠蔽してまでも、なお仕事を継続させようとする精神を指しているのだろう。安全対策を先送りにして「安全神話」をふりまくことにばかり専心してきた東京電力に象徴される、日本企業の無責任体質が揶揄されていることは明白である。まずはこの点を評価したい。同じテーマを扱っていても、新国立劇場『効率学のススメ』なる愚作と比べれば、はるかにこちらの方が面白かった。
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第七劇場「かもめ」

◎ポスト・カタストロフィを生きる人々の終わりなき遊戯
 大岡淳

1 『かもめ』という戯曲

「かもめ」公演チラシ
「かもめ」東京公演チラシ

 チェーホフの『かもめ』はつくづく恐ろしい戯曲だと思う。まず一演劇人として見た場合、この戯曲の世界では、いかなる演劇の形も肯定されていないことに驚かされる。母アルカージナは、偉大な女優であるらしいのだが、息子コースチャから見れば、旧弊で紋切型で大時代的な演劇を代表する存在である。一方、コースチャは自らが執筆したなにやら前衛的な台詞を恋人ニーナに託すのだが、硫黄の匂いをたきしめもするその「新形式」の演出は、アルカージナの取り巻き連中の失笑を買うことになる。
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「ムネモパーク」(シュテファン・ケーギ構成・演出)

◎舞台メディアを人びとが出会うツールに 演劇のフレームから離れて
大岡淳(演出家・批評家・パフォーマー)

「ムネモパーク」公演チラシヨーロッパで人気を博するリミニ・プロトコルのメンバー、シュテファン・ケーギ構成・演出による『ムネモパーク』は、期待に違わず見応えのある公演であった。

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ラ・スフルリー劇団「綿畑の孤独の中で」(ベルナール・マリ=コルテス作)

◎逃げ場のない関係性に陥った人間を描く 他者の他者性に漸近する現代劇
大岡淳(演出家・批評家)

「Shizuoka 春の芸術祭2007」パンフレット『綿畑の孤独の中で』は、フランスの劇作家ベルナール=マリ・コルテスの代表作として我が国でも知られているが、実際の上演に触れる機会に乏しい私たちにしてみれば、この特異な戯曲に相応しい演出がどのようなものかについては、なかなか想像がつかないというのが正直なところではないか。しかしこのたび来日を果たし、「Shizuoka春の芸術祭2007」にエントリーしたラ・スフルリー劇団による公演『綿畑の孤独の中で』は、ともすれば難解なダイアローグの連続とも見えるこの戯曲を、明快なスタイルと強烈なインパクトを備えた芝居に仕立て上げたという点で、意義深いものであった。

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戯曲のポテンシャルを多層的に抽出 退任飾る「近代演劇」の傑作

◎SPAC「別冊 別役実 -『AとBと一人の女』より」
大岡淳(演出家・演劇批評家)

「鈴木忠志の軌跡」公演チラシこの3月31日をもって、演出家・鈴木忠志が(財)静岡県舞台芸術センター(SPAC)芸術総監督を退任した。彼の監督時代の最後の演出作品となったのが、この『別冊 別役実 ―「AとBと一人の女」より』である。若干のテキレジと、演出上の工夫が施されているとはいえ、基本的には、戯曲『AとBと一人の女』をストレートに演出した作品である。

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shelf「構成・イプセン-Composition / Ibsen」

◎<母>と<子>が戯れるほかないポスト・ヒストリカルなユートピア/ディストピア
大岡淳(演出家・演劇批評家)

「構成・イプセン-Composition/Ibsen」公演から
写真提供=shelf &copy

矢野靖人の演出作品をきちんと鑑賞するのは、これが初めてである。ただ以前、演劇千年計画のワークショップ成果発表会で彼の演出に触れ、その静謐な美学には並々ならぬものを感じ、注目していた。短時間の発表会から感じられたのは、どうやら彼の演出には、身体・空間・光・音といった諸要素をどう結合させ調和させるかという課題に関して、明確なビジョンが存在しているということであった。言ってみれば、演劇というよりもパフォーマンスとしての完成度の高さを感じ、ではここに物語という時間軸を導入したらどうなるのか、という点に興味を持った。その矢野が、名古屋の七ツ寺共同スタジオでイプセンを上演すると聞き、さっそく名古屋に赴いて鑑賞に及んだ。

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劇団犯罪友の会「かしげ傘」

◎諧謔に満ち哀切な心情を喚起する重層的な物語
大岡淳(演出家、演劇批評家)

「かしげ傘」公演チラシ関西野外劇の雄として知られる劇団犯罪友の会は、今年で創立30周年だそうだ。私はこの集団を、アングラ演劇の最良の部分を継承し発展させている劇団だと考え、演劇批評家として一貫して評価し、支持し、応援してきた。今年10月に上演された『かしげ傘』は、「30周年超大作野外劇」と銘打たれているだけあって期待に違わぬ力作であったが、これを見ながら私は、もはや「アングラ」云々という文脈でこの集団の魅力を語る必要はなくなったのだな、とふと思った。「犯友」の芝居は、「犯友」の芝居以外のなにものでもなく、殊更に他の芝居との共通性を指摘したり、あるいは相違点を強調したり、といった、私自身がこれまでやってきた批評的な作業は、なんだかさかしらな営為に過ぎなかったような気がしてしまった。それほどに、この集団は、他の追随を許さぬ独自の魅力を備えた劇団として成熟しつつあることを、確認した次第である。

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