子供鉅人「バーニングスキン」

◎道化の魔法がひらく 祈りのような情景
 鈴木励滋

「バーニングスキン」公演チラシ
「バーニングスキン」公演チラシ

 行進を促すようなリズムをドラムが刻む冒頭、タンスの上によじ登り仁王立ちする女。セピア色に見える景色の中で、女は「ふざけんじゃねぇ、くだらねぇ」と呪詛のような言葉を怒鳴りちらしているのだが、はたして彼女の怒りはどこへ向かっているのだろうか。

 この印象的な場面は、589nmの波長以外の色を見えなくしてしまうナトリウムランプの効果だ。東野祥子を始めとして多くのダンサーとも組んできた照明の筆谷亮也の鮮やかな仕事で、次のシーンで明かされる女の肌の秘密を際立たせることに成功した。意表をつきつつも単に奇抜さにとどまらない誠に巧みなオープニングだった。
“子供鉅人「バーニングスキン」” の続きを読む

忘れられない1冊、伝えたい1冊 第8回

◎「死せる『芸術』=『新劇』に寄す」(菅孝行著、書肆深夜叢書、1967)
 西川泰功

「死せる『芸術』=『新劇』に寄す」表紙 宮崎駿監督(1941~)のアニメ映画『もののけ姫』(1997)に、タタラ場という製鉄を産業とした村が出てきます。村を治める頭はエボシという女です。宮崎はエボシについて、あるインタビューで「もの凄く深い傷を負いながら、それに負けない人間がいるとしたら、彼女のようになるだろうと思った」と語っています(ⅰ)。彼女は、理想の国を築くため、その地域を支配するシシ神と呼ばれる神を、自らの手で殺そうとするのです。他の登場人物たちは怖じ気づいて逃げ出してしまうのに。ぼくはここに、理想を実現する人物の根源にある苦悩を感じます。いきなりこんな話をするのは、この苦悩が、理想を芸術として実現するときにも生じるものだと考えるからです。
“忘れられない1冊、伝えたい1冊 第8回” の続きを読む

悪い芝居「カナヅチ女、夜泳ぐ」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 3)

「カナヅチ女、夜泳ぐ」公演チラシ
「カナヅチ女、夜泳ぐ」公演チラシ

 悪い芝居 は2004年旗揚げ。京都を拠点に「現在でしか、自分たちでしか、この場所でしか表現できないこと」(劇団HP)を芯にして活動しているそうです。山崎彬作「嘘ツキ、号泣」が第17回OMS戯曲賞佳作、昨年上演の「駄々の塊です」台本が第56回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれるなど、いま人気・実力とも急上昇中の劇団です。王子小劇場主催「佐藤佐吉演劇祭2012」参加の最新作はどうだったのでしょうか。レビューは5段階評価と400字コメント。掲載は到着順。末尾の括弧内は、観劇日時です。(編集部)

“悪い芝居「カナヅチ女、夜泳ぐ」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 3)” の続きを読む

チェルフィッチュ「現在地」

◎見下ろせば透明
 林カヲル

「現在地」公演チラシ チェルフィッチュが四月に神奈川芸術劇場で新作『現在地』を上演した。作・演出は岡田利規。チェルフィッチュとはセルフィッシュを幼児語化した造語だが、本作はそのような意味ではまったくチェルフィッチュではない。岡田が若者言葉の多用をやめて久しいが、今回は口語ですらないともいえる。人物も話題もセルフィッシュではない。一種、巨匠と呼びたいような風格を備えた作品となった。
“チェルフィッチュ「現在地」” の続きを読む

まごころ18番勝負「錯惑の機序、或いはn質点系の自由度」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 2)

まごころ18番勝負 第15回公演チラシ クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編の第2弾はまごころ18番勝負公演です。この劇団は2001年に旗揚げ。その後名前を現行にあらため、2006年頃からミステリ上演に向かいます。凝ったタイトルと込み入った仕掛けの舞台が本格化しました。今回は、絶海の孤島を舞台にした連続密室殺人事件。密室はどう解明されたか。犯人は、動機は…。二転三転する舞台を五つ星と400字コメントでレビューします。掲載は到着順。コメント末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)

“まごころ18番勝負「錯惑の機序、或いはn質点系の自由度」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 2)” の続きを読む

忘れられない1冊、伝えたい1冊 第7回

◎「氷点」(三浦綾子著、角川文庫 上下)
 サリngROCK
「氷点」表紙

 大学生になるまで、私は「当たり前」について悩んでいた。「死は怖い」「敵は悪い」「悪口は悪い」「悪いことはしてはいけない」「良いことをしなければいけない」そういう、「当たり前」なことを「当たり前のように」思わないといけないという強迫観念に囚われていた。
 だけど一方で、「ほんまに!?」とも思っていた。いや「ほんま」かもしれないけどでも「なんで!?」と思っていた。悪いと言われることをしてはいけない理由って何なの、良いと言われることをしなければいけない理由って何なの、と思っていた。例えば、「悪口は悪い」という「当たり前」があったとして、その理由は「言われた人が傷つくから」かもしれないけれど、では、絶対に本人の耳には入らない状況だったら、悪口は悪いんだろうか……などと悩んでいた。
“忘れられない1冊、伝えたい1冊 第7回” の続きを読む

ディディエ・ガラス「アルルカン(再び)天狗に出会う」

◎自分探し(再び)自分に出会う
 水牛健太郎

公演チラシ
公演チラシ

 天狗のことを考えていた。天狗というと赤い顔、長い突き出た鼻で山伏の格好をしている、そんなユーモラスなイメージ。ところが『太平記』をひも解くと、崇徳院を初めとする、恨みを抱いて死んだ人たちが、山の中で天下を乱す悪だくみの相談をしている場面があり、彼らが「天狗」という言葉で表現されている。もちろん崇徳院の霊が赤い顔、長い鼻をしているということではない。天狗という言葉にはもともとそういう、悪霊とか怨霊という意味が含まれていた、ということなのだ。ユーモアなどかけらもなく、かなりおどろおどろしい。
“ディディエ・ガラス「アルルカン(再び)天狗に出会う」” の続きを読む

劇団競泳水着「Goodnight」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 1)

「Goodnight」公演チラシ
「Goodnight」公演チラシ

 王子小劇場主催「佐藤佐吉演劇祭2012」の全公演(10本)をクロスレビュー形式で取り上げる第1弾(通算第31回)は、劇団競泳水着「Goodnight」公演です。
 「競泳水着」は2003年に旗揚げ。ラブストーリーを映像的に見せる「トレンディードラマ」シリーズを上演して注目されました。2009年に劇団化してからは「積み上げられた何気ない日常の記憶から、現代における家族・恋人・友人などの人間関係を丁寧に描いた作品を上演」(劇団Webサイト)。今回は「生きていくことは可笑しくて物哀しくて、愛おしい。劇団競泳水着がお届けする夏の一夜の群像劇」とありましたが、実際はどうだったのでしょうか。5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。各レビュー末尾の丸括弧内は観劇日時です。(編集部)

“劇団競泳水着「Goodnight」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 1)” の続きを読む

studio salt「八OO中心」

◎演劇的一期一会-今夜からの隣り人
 宮本起代子(因幡屋通信発行人)

「八OO中心」 公演チラシ
「八OO中心」 公演チラシ

 タイトルは「はちまるまるちゅうしん」と読む。
 椎名泉水を座付作家・演出家とし、横浜を拠点に活動するstudio salt(以下ソルト)が最新作の会場に選んだのは、ずばり八OO中心という名のビル最上階だ。中華街の延平門から歩いて数分のところにある。「横浜中華街より世界へ向けて、表現でのコミュニケーションをはかるべく始動したシェアオフィス」(公式サイトより)として、昨年2月にオープンした。この風変わりな名は無限の数を表す「八百万」「∞」に由来し、さまざまなものが集まって円を描くようにつながり、世界に向かって発信したいという願いがこめられている。
 観光客がいっぱいのにぎやかな中華街の一角で、ソルトは週末3日間の上演を4週間行った。
“studio salt「八OO中心」” の続きを読む

【レクチャー三昧】2012年7月

 7月から大学も夏休み(名目的には)ですので、公開イヴェントは少なめです。と、書いておいてから検索したら、いやオソロシク沢山見つかってしまいました。ご興味をそそられるものがあれば幸いです。
(高橋楓)
“【レクチャー三昧】2012年7月” の続きを読む