岡崎藝術座「隣人ジミーの不在」

◎描かずに、しかし切実に立ち上がる、舞台背後の情景
 小林重幸

 そもそも、この芝居がどういう文法で成り立っているのかを言い表すことは難しい。冒頭から、その所作は「ダンス」の領域そのもの。舞台上部に吊り下げられたオブジェ以外は何もない舞台に、登場人物が一人前方中央へ出てきてしばらく佇み、その後もう一人が出てきて、ふと目を合わせて台詞が始まる。露骨な性描写の台詞を語りながら、二人の所作は、手を上げたり、体を傾けたり、およそ不自然な、しかし、どこかぶらぶらとした、何となく力の抜けた感じもする動作である。
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佐藤佐吉演劇祭2012

◎劇場の意欲と志が見える 佐藤佐吉演劇祭2012を振り返る(座談会)

 小林重幸(放送エンジニア)+齋藤理一郎(会社員)+都留由子(ワンダーランド)+大泉尚子(ワンダーランド)(発言順)

 王子小劇場が隔年で開催する佐藤佐吉演劇祭は9月で全10公演を終了しました。6月末からほぼ3ヵ月の長丁場。ワンダーランドは演劇祭の全公演をクロスレビューで取り上げました。劇評を書くセミナーで劇場提供の主な公演を取り上げたことはありますが、演劇祭の全演目を取り上げるのは初めての試みでした。その10公演をすべて見て、クロスレビューにも毎回欠かさず参加した4人に、今回の演劇祭の特徴や目立った公演、クロスレビューに参加した感想や意見などを話し合ってもらいました。進行役は、ワンダーランドの北嶋孝です。(編集部)

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岡崎藝術座「リズム三兄妹」

「身体が作る存在の演劇」への挑戦 音楽による圧倒的な身体のリアリティ
小林重幸(放送エンジニア)

「リズム三兄妹」公演チラシ三場構成であるこの芝居の様相が大きく変容してくるのは二場の後半。およそテキストで物語を紡ぐ演劇とは言い難く、さりとてダンスと言い切るにも無理のある特異な状況が舞台上に溢れてくる。三場に入るとそれはさらに先鋭性を帯び、感覚だけで舞台上の世界が支えられているかのようであった。それは何であったのか、順を追って考えてみたい。

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タカハ劇団「プール」

◎特殊な状況に内包される、現代の心の普遍
小林重幸(放送エンジニア)

「プール」公演チラシ開幕時から漂う、この「気味の悪さ」は何であろう。薄暗い地下の詰所、どぶさらいにでも使うようなゴムの防護服、そして「高額時給」を謳うビラ。全てが『死体洗い』のアルバイトを連想させる。何の話なのか言葉で語る前から、既に薄気味悪さ満載である。さらに舞台上に水道があって本当に水が流れたり、消毒用とおぼしき液体を霧吹きで噴いたりと、そこで行われる作業は、なんとなく湿った感じがする。その高い湿度感からか、得も言われぬいやな臭いが漂ってくるようである。ひどく気持ち悪い情景の舞台というのは間々あるが、本当には存在しない臭いが、意識の中に立ち込めてくる舞台というのは特筆に価する。

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スロウライダー「手オノをもってあつまれ!」

◎さまよいつつ知る演劇世界の再構築 リアルでない、リアルな世界で
小林重幸(放送エンジニア)

冒頭、舞台はどうやら近未来らしいことがわかる程度。情景は、団地らしき建物の外。どこか僅かに違和感が漂う会話から、この場所は、現在われわれがいる実世界とは何か違う常識が存在する別世界であることが窺える。

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小指値「Mrs Mr Japanese」

◎表層のあまりの軽さと、背後の闇の深さ
小林重幸

「Mrs  Mr Japanese」高校を卒業して数年、当時の仲間と久々に会うのは、楽しみでもあり、不安でもあり。特にフリーターの身では、そいつらが今何をやっているのか、気になって気になって。で、待ち合わせ場所での最初の会話。「今、何やってんの?」仲間曰く「ん?ライター」。「全然スゴく無いよぉ」と言いつつも、当然勝ち誇っているわけで。

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