パラドックス定数「三億円事件」

◎背広を着て制度の中で戦う男たち 萌え、愛情、知性の対象
水牛健太郎(評論家)

「三億円事件」公演チラシ一九六八年十二月、東京都府中市で白バイ警官を装った男に約三億円を運んでいた現金輸送車が奪取された三億円事件。七年後の公訴時効を経て今に至るまで事件の真相は明らかになっておらず、現在の数十億円に相当する被害金額の大きさ、手口の鮮やかさもあって、多くの人の想像力を刺激してきた。

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急な坂スタジオ「ラ・マレア横浜」(上)

横浜・吉田町のを舞台に10月3日-5日の3日間、「ラ・マレア横浜」と呼ばれる街頭パフォーマンスが繰り広げられました。アルゼンチンの劇作家・演出家の作品を、日本人の俳優をオーディションで選んで上演する国際企画です。母国のほか、ブリュッセル、ベルリン、リガ、ダブリンなどで、その都市のコンテクストに合わせたバージョンを発表してきたそうです。では横浜版はどういう相貌をみせたのか。本誌「ワンダーランド」の執筆者に読み解いてもらいたいと主催の急な坂スタジオの協力を得て、本公演はもちろん、「プレトーク」への参加、稽古見学などをお願いしました。以下、レビューを2回に分けて掲載します。(編集部)

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劇団チャリT企画「ネズミ狩り」

◎「大人」の気概
水牛健太郎(評論家)

「ネズミ狩り」公演チラシ「ふざけた社会派」を標榜するチャリT企画。「社会派」を大真面目に掲げる方が怪しい、どこか信用できないという時代が八〇年代この方、続いてきた。主宰の楢原拓はまさにその時代の子であり、開演前に八〇年代アイドル歌謡を大音響でかけるスタイル同様、「ふざけた社会派」の「ふざけた」という部分に、楢原が完全に真剣であることが逆説的に表現されていた。

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「春琴」(サイモン・マクバーニー/演出・構成)

◎近代が生み出す光と闇の構図
水牛健太郎(評論家)

「春琴」公演チラシ近代とは光であり、近代化とは明るくなることだ。近代へと人々を導く「啓蒙」を意味する英語(enlightenment)は直訳すると「明るくすること」という意味だが、それは単に比喩ではない。地球を人工衛星から撮影すると、北米、欧州、日本は、夜でも人工の照明でまぶしいほどに輝く一方、サハラ砂漠やアマゾン川流域は、深い闇の中に沈んでいる。韓国は明るいが、38度線の北は暗い。経済発展が続く中国の沿岸部やインドにはうっすらと光の網が広がり、徐々に輝きを増している。

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青年団若手公演「革命日記」

◎「見える顔」と「顔のない声」 「ソファー」が示す権力の在処
水牛健太郎(評論家)

「革命日記」公演チラシ デザイン:京言葉の力は、暴力と対極にあるものだと思われている。ペンは剣より強し、という格言もある。五・一五事件で海軍将校のピストルに向かい合った犬養毅首相は「話せばわかる」と言葉を遺した。暴力に立ち向かう言論の雄雄しい姿。
しかし、そのような構図では忘れられていることがある。暴力の背後にあるのもまた、言葉の力、言論だということだ。言葉のない暴力はせいぜい街のちんぴらレベル。組織だった強力な暴力はいつも、言葉の力に支えられている。

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ナイロン100℃「わが闇」

◎「闇」はどこにあるか 描かれない「親との関係」
水牛健太郎(評論家)

「わが闇」公演昨年12月30日、ナイロン100℃の「わが闇」を見に行った。下北沢の本多劇場の前に出来た長い列に並び、千秋楽の当日券を求めた。階段に座布団を敷き、一段に一人ずつ、ジグザグに座る。一段上の人の脚が自分の隣に来る。ほとんど身動きも出来ない状態で、三時間も大丈夫かと心配だったが、芝居が始まるや、ぐっと引き込まれ、心配は忘れてしまった。

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