忘れられない1冊、伝えたい1冊 第3回

◎「チェーホフの『桜の園』について」(宇野重吉著、麦秋社)
 都留由子

「チェーホフの『桜の園』について」表紙 劇団民藝の俳優で演出家だった宇野重吉が、チェーホフの『桜の園』を演出した際の上演台本と演出ノートを整理して出版したのがこの「チェーホフの『桜の園』について」である。注釈は不要だろうが、劇団民藝といえば新劇の老舗、宇野重吉といえば、1988年に亡くなるまで、滝沢修と並んでその民藝の重鎮だった人である。

 1978年に出版され、そのときに読んだ。当時、話題になったのだと思うが、それはあまり覚えていない。ただ、読んでびっくりしたことだけはよく覚えている。あまりにびっくりしたので、その後、学校を卒業し、身辺の変化と何回かの引越しを経てなお、この本は手元にあるほどである。
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忘れられない1冊、伝えたい1冊 第2回

◎『道具づくし』(別役実著、大和書房)
 大泉尚子

「道具づくし」(大和書房)表紙
「道具づくし」(大和書房)表紙

 大きな声じゃあ言えないが、演劇やダンスに本は要らないと思って久しい。やっぱり舞台は「やる」か「見る」しかないっしょ。不勉強の言い訳でもあるけど。とはいえ「犬も歩けば」で、出会うものはある。

 さて、劇作家が自らの作品を読み上げる「芸劇+トーク―異世代劇作家リーディング『自作自演』」はどの回も面白かった。なかでも印象深かったのが、第3回に登場された別役実さん。
 直前に腰を痛められたとか、脇を支えられ、やや覚束ない足取りで登壇。心なしか、朗読の声も力がないようで「大丈夫かしら…」と思いきや―。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第1回

◎『誰か故郷を想はざる』(寺山修司著、角川文庫)
 水牛健太郎
「誰か故郷を想はざる」
 寺山修司のことは何も知らない。
 ワンダーランドに書評欄というか読書欄を作ることになり、編集長という名の切り込み隊長、一番槍を仰せつかった。はて何を取り上げようと愚考するに、戯曲でも演劇雑誌でもいいのだそうだ、しかし折角だから高名な、しかし読んだこともなければ芝居を見たこともない、かの「テラヤマ」にしようと思ったわけです。
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連載「百花夜行」 賞を選ぶ、賞を読む(上中下)

 「百花夜行」という連載始めたのは昨年秋だった。毎月掲載の予定が9月にスタートした後しばらく中断してしまった。申し訳なくて2月は2回、引き続き岸田國士戯曲賞にまつわる話をまとめた。ノイズの多いスタイルにしたいと思ったら案の定、話がずるずる長くなる。岸田賞選考を取り上げたといっても選考の実態にはトンと疎いから、賞選びに内在する問題を考えようと思った。マガジンワンダーランド掲載時のタイトルを「賞を選ぶ、賞を読む-評価と授賞の狭間で」に差し替え、3回目を追加補充してサイトに掲載することになった。
 連載タイトルはもちろん「百花繚乱」と「百鬼夜行」の掛け合わせ。鬼でもないし、繚乱というほどきらびやかでもない。要は、騒々しいほど賑やかで怪しいイメージが滲み出ればもっけの幸いというに過ぎない。ご寛容を。(北嶋)

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