◎「唄芝居」の愉しさ
『兄おとうと』は、今やこまつ座のお家芸となった「唄芝居」の真骨頂である。「吉野作造の評伝劇」というと何だか堅苦しそうだし、「憲法をわかりやすく考える」などと云われたらヤッパリイイデスと腰が引けてしまいそうだが、そうした主題を愉しく伝えるのが、一つ「唄」の効用である。そして、いかな偉人も「人びと」の一人であるというユーモア感覚が、学者と役人の、国家や憲法をめぐる議論を、「人びと」の暮しにまで降ろしてくれる。初演と変らぬ、辻萬長・剣幸・大鷹明良・神野三鈴・小嶋尚樹・宮地雅子という練達の俳優六人を擁し、戯曲の持つ明るさや軽演劇調の笑いを、鵜山仁がたっぷり懐の深い演出で包みこむ。戯曲と俳優、演出家、そしてスタッフの幸福な出会いが結晶したアンサンブルは、作品ごとにプロデュース・システムをとるこまつ座でも出色の座組みである。