グリング「海賊」

グリングの舞台は、私たちがぶつかる人間関係のもつれやすれ違い、その切ない瞬間をさりげなく、しかし情感を込めて描きます。そのさりげなささえもほとんど感じさせない演技と演出の熟成も、作品世界に引き込む磁力になっているのでしょう。年末に開かれた第12回公演「海賊」は、ネット上のほとんどのwebサイトが共感を込めて言及した数少ないケースだと思われます。年末回顧企画「振り返る 私の2005」でも何人かがこの舞台を「記憶に残る3本」に挙げていました。まだ取り上げる公演が今年に追いつかなくて申し訳ありませんが、ご容赦願って年末のグリング公演を追いかけます。グリングはこれを最後に1年間活動を休み、次回公演は2006年12月の予定です。見逃した人は残念。残念組のぼくも、年末を楽しみに待っている1人です。


都会で塾講師をしていた兄が突然、郷里の実家(理容店)に帰ってきます。近所の人たちは、幼い頃から勉強がよくできた兄を温かく迎えるのですが、彼は孤立感にさいなまれます。CLP(クリティック・ライン・プロジェクト)の皆川知子さんは「(グリングの)青木豪は、テレビドラマのような親しみやすさの中に、肌のひりつくような人間の孤独を描くことができる、劇作家であり、演出家だ」と切り出しつつ、濃密な共同体が帯びる多重性について次のように指摘します。

地域に古くから伝わる祭りを毎年催し、住民同士お互い子供のころから知っている。土地と人間の記憶の集積場ともいえるこの町で、人々の記憶から消えつつあった兄…(中略)気さくであたたかい人々が交わす日常会話や、細かなエピソードで物語のほとんどを埋め尽くすことで、それを共有できない兄の孤独が、自ずと浮かび上がった。圧倒的な個性が物語をみちびく舞台ではない。代わりに、息の合った役者たちによるアンサンブルが、密な共同体の無意識にひそむ、その排他的性格をあらわにしたともいえる。

共同体にとけ込めない孤独と、共同体が外部に放つ「毒」に言及しながら、同時に共同体内部にも行き届いた視線を伸ばします。そこにみえたものは-。

しかし、共同体の中にさえ、孤独はある。終幕、兄・茂は、みんなに可愛がれているケーキ屋の娘・時田百合(笹野鈴々音)の影に、自殺した妻をみる。百合は、愛する人に愛されないという。そう語る彼女が、天真爛漫であればあるほど、その小さなからだに痛々しいほどの哀しみがにじむ。孤独は、またべつの孤独によってしか癒されない。そう語りかけるような幕切れであった。

そっと、劇の終幕に寄り添うような語り口です。レビューが劇構造の分析や演技・演出の練度を測るだけでなく、劇世界に同期し生成する生き物だと示唆するような結語かもしれません。

前回の第11回公演「カリフォルニア」を紹介したとき「一筋縄でいかない暮らしのひだをわきまえつつ、それでも動いてしまう切ない性(さが)を描く台本、それを定着する練達の俳優陣。その基本形は変わっていないようです」と書きました。また第7回公演「ヒトガタ」のレビューで「見終わってから、小説なら芥川賞より直木賞、山本周五郎の世界を思い浮かべた。映画なら山田洋次監督の描く雰囲気かもしれない。ありふれた光景にそそがれる温かくて切ないまなざし。公演にも通底する特徴のように思えた」と触れています。山本周五郎と言ってピンとこなければ、藤沢周平や浅田次郎の世界を思い浮かべてもらえればいいでしょう。皆川さんの劇評を読んで、グリングの特徴はいっそう磨きがかかってきたのではないかと想像しました。

先に紹介した「机上風景」公演がぼくらの内部に錐のように入ってくるとしたら、「グリング」は傷口を癒すような雰囲気を持っているのかもしれません。

Google などで検索すると、ネット上にこの公演の感想が続々と出てきます。ほとんどが舞台に同期していて、みていないぼくとしては気が引けるのですが、そのうちのいくつかを順不同で列挙、一部を引用してみます。これほどほめられる芝居も珍しいのではないでしょうか。

LIVESTOCK DAYS(風琴工房主宰、詩森ろばの「家畜の日々」を綴ります。 )
「グリング『海賊』はダントツで詩森的、今年ナンバー1の舞台だったのでした。グリングメンバーはもちろんのコト、客演のみなさまもスバラシイッ。ナイロンの峯村さん。かわいい。ステキ。泣かされた」

ゾウの猿芝居(劇団印象-indian elephant-の主宰のブログ)
「流行りの口コミインフルエンザに感染して、グリングの「海賊」を見に、下北沢へ。
ネットでの評判どおり、笹野鈴々音という役者が、快演、はたまた怪演で、すごかった」

森川佳紀 – ララララブライフ(サニーサイドウォーカー劇団員)
「例えば観劇後に脳内リピートが確実な曲の使われ方、スズナリの横を走る電車の音がそのまま舞台上にかすかに聞こえる感じ、舞台上に広げられる小道具の使われ方、どれもとても細やかで洒落ている。うっとりする。演劇っていいなぁ、と思う。この劇団を見るといつも」

因幡屋ぶろぐ(劇評かわら版「因幡屋通信」の発行人)
「グリングの最新作にして客演の笹野鈴々音(風琴工房)の代表作、の感あり。劇中笹野演じる時田百合のことを「あの子、自分を武器にしてるよな」という台詞が、彼女の存在をずばり言い当てている(この場面、場内は大爆笑になった)。夏に新宿シアタートップスで上演された『カリフォルニア』の続編と言える作品である。自分としては『カリフォルニア』のほうが好みであるが、みながら客席ぜんたいが舞台に向かって前のめりになっていくような緊張感と盛り上がりを感じた」

GAYAのガヤガヤ日記ver紅(「役者を志して何かしらやってるオイラのブログ」)
「いやー面白かった。本当に見たかった芝居がココにあった気がした。とにかくリアルに作っていて、嘘くさくなく、段取りも見えない素晴らしい芝居でした。シリアスなシーンも、お笑いなシーンも良く、間も絶品で、面白かったです。かなり微妙なところもあったんですが、あのリアルさは絶品でした」

小劇場系
「一歩間違えばTVドラマ的感動に陥りそうな今回の上演が異様な成功を収めた原因は、一にも二にも役者の力量による、と思われる。とにかく、茂を演じた中野英樹の陰影に満ちた演技が素晴らしすぎるほど素晴らしかった。(中略)ほとんどいとおしさという恥ずかしい言葉が似つかわしいほど、中野演じる茂の姿が心に沁みた」

stage note archives
「一見和やかな地方のコミュニティに見える彼らの中に、猜疑心や身内ならではの割り切れなさ、そして地方都市独特の閉塞感が見え隠れしてきて、後半は何気ないシーンでもあまりの緊迫感に息が詰まりそうになりました。そして素晴らしいのは、その緊迫感のなかに信じられないぐらい美しさを感じるシーンが織り込まれていることで、多くのひとがそうだと思うのですけど、峯村リエさん演じる充恵と中野英樹さん演じる茂が、ウクレレのムーン・リバーでフラダンスを踊るシーンは本当に言葉にならないほど『きれい』だと思ったシーンでした」

[上演記録]
グリング第12回公演「海賊」
作・演出:青木 豪

東京:ザ・スズナリ(2005年12月9日-18日)
大阪:芸術創造館(2005年12月21日24日)

キャスト:
星野 茂(兄) 中野 英樹
星野 保(弟・理容師) 永滝 元太郎(劇団M.O.P.)
星野 暁子(その妻・美容師) 萩原 利映
桐山 敬(花屋) 鈴木 歩己
桐山 充恵(その姉) 峯村 リエ(ナイロン100℃)
大嶽 祐太朗(不動産屋) 谷川 昭一朗
鴨下 進む(駅員) 黒川 薫(010534J)
小川 真理子(暁子の妹) 内田 慈
時田 百合(鴨下の幼なじみ) 笹野 鈴々音(風琴工房)
神保 友昭(テレビ制作会社の男) 杉山 文雄

スタッフ :
照明 清水 利恭
美術 田中 敏恵
舞台監督 筒井 昭善
効果 都築 茂一
宣伝美術 高橋 歩/志賀 玲子
宣伝写真 中西 隆良
制作 菊池 八恵
アドバイザー 嶌津 信勝
企画制作 グリング
アフタートークMC:
東京公演:徳永 京子(演劇ライター)
大阪公演:岩崎 正裕(劇団太陽族・主宰)
パパ 丸田 道夫
東京公演 財団法人東京都歴史文化財団
平成17年度創造活動支援事業
大阪公演 第3回大阪演劇祭ステップシアター
主催・大阪市/(財)大阪都市協会

協力:
ナイロン100℃ 劇団M.O.P. 風琴工房 010534J オフィスIII’s アァベェンベェ ライターズ・カンパニー田畑冨久子事務所 エンパシィ 宝井プロジェクト スターダス・21 FUN! 大広製作所 リトルウイング THE SHAMPOO HAT 大見遥 大谷真理 水戸英樹 山口美保

東京公演
福田直正 飯野千恵子 伊藤翆 太田美早 広兼朋 河野結美 津田友理香
土屋智行 中瀬由美 徳村ちあき 富永恵久子 布田裕子 丸子聡美 山内三知
勝田香子 山崎華奈子 吉村暁子 澁谷佳代 中屋みのり 和田陽子 岩佐暁子 坪内有子

大阪公演
水の会 芸術創造館サポートスタッフ (株)スタッフステーション ヨーロッパ企画
井神拓也 大塚雅史 仲江義一 林夏樹 若井のぶこ 中川浩三

撮影:中西隆良


投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください