◎説得力ある人物造形に成功 洗煉された舞台表現のセンス
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)
『the real thing』は、『ハムレット』の登場人物による不条理劇『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(1967年)の作者として知られるトム・ストッパードが1982年にロンドンで発表した作品である。日本では1986年に文学座で『リアルシング』のタイトルで上演されている。活発なことばのやりとりの中で虚実があいまいになっていく、いかにも一筋縄ではいかなそうな演劇的仕掛けに満ちた刺激的な作品だった。ことばによって幻惑されるスリリングな展開に観客も気を抜くことができない。
田野邦彦が主宰する青年団リンクRoMTの公演を見るのはこれが初めてだった。演出家はこの難物を丁寧に読み解き、戯曲に仕掛けられた技巧を効果的に増幅させた上で、説得力のあるリアルな人物造形に成功している。スピーディな展開の中で、様々な趣向をスマートに提示する洗煉された舞台表現のセンスも印象的な舞台だった。