◎あまやかな拷問、あざやかな審問
綾門優季
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劇場に入った瞬間、真っ先に脳裏をよぎった、切迫した疑問は、「観客が、ひとりも、存在しない」という、これまで抱いたこともないような焦燥を募らせるものだった。
もちろん、存在しないわけはなかった。ただ、そう映らなかった。
そこにいる人間の、だれが俳優で、だれが観客か、区別する意味を、見失ってしまったのだから。
舞台もなければ客席もない。目の前に広がるのはただただ真っ白な部屋、劇場であることを知らなければ間違いなくそこは部屋、知っていても劇場としての目印を奪われた空間は紛れもなく部屋、どうしようもなくそこは、空白の部屋とでも呼ぶしかない空間だった。
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