震災特別報告

震災が起きたのは2011年3月11日。ワンダーランドは直後から「東日本大震災 (小劇場中心)演劇関連情報」という緊急コーナーを立ち上げ、情報交流の場を設けました。そして1年。なにが起きたのか、いま起きているのか-。震災の前も後も、高校生とともに表現活動・演劇活動に変わらず取り組んできた福島県立いわき総合高校のいしいみちこさんに、この1年を振り返りつつ、現状を報告してもらいました。(編集部)

◎一年目
 いしい みちこ

 今日は3月9日、福島県立高等学校II期選抜試験の2日目だ。
 昨年の今日も入試の2日目だった。昨年とピッタリ同じ日程。だからあの日の丸1年後の明後日も、同じように合否判定会議をして同じように入試業務をするだろう。
 昨年と同じように見えながら確実に違ってしまっている今日。

 湯本の温泉旅館は原発関係企業に借り上げられ、いわき駅周辺のホテルや宿泊施設は常に満杯、よく行っていた居酒屋もなかなか入れなくなった。校長室前の植え込みにはモニタリングポストが立ち、放射線量をチェックするのが習慣になった(ちなみに今朝は0.158マイクロ・シーベルト(Sv))。あの日から1年、私達はもうマスクをしていないし、少量なら雨に当たることも気にしなくなった。この1年の間に放射線と共に生活することを受け入れて来た。

 私はあまり土地に拘りのない人間だと思う。福島には生まれたが、福島にいるのも偶々で、去ろうと思えばいつでも他の地へ移動することができると思っていた。原発災害直後、福島はもう人が住める場所ではなくなったと感じていた時、私は県外へ出て行こうと考えていた。けれどもいざ交通機関が復旧すると、どうしても福島を去ることができなかった。いわきで災害復旧に携わっている人や生徒達のことを考えると、避難した自分のことを一生受け入れられないような気がした。それでいわきに戻ることにした。これが被曝を受け入れることにした最初だった。

 4月下旬に学校が再開して子供達を集め放射線の話をした。できるだけ雨にあたらないこと、マスクをすること、食物からの内部被曝を避けることなど。いわきにいながらできるだけ被曝を避け、身を守るよう訴えた。

 このことについて学校では特段対策はなされなかった。文部科学省は子供の被曝量を年間20mSvに上限設定をした。学校は県教委からの通達がないし、文科省でも問題ないと判断しているからそれに従うとのことだった。組織というのは個人が責任を取らなくて済むようになっている。規程や条項や前例があるから、自分で判断しなくてよいようになっている。決まりに従って半自動的に物事が決まり、「自分の本意ではないが従うしかない」と言い訳できる。そういう無責任と思考停止の構造はこれまでも感じてきたことだったが、この時はつくづく組織というものの欺瞞を感じた。もちろん、私も結局はその一部でしかないことも了解している。

 4月以降私達はマスクをし、窓を一切開けず、長袖のシャツを着てしばらく過ごした。けれども7月初旬にはマスクを外し、7月中旬には窓を開けることになる。昨年の夏は猛暑だった。締め切ったアトリエで顔を真っ赤にして授業を受けている子供達を見て、もう限界だと思った。開け放った窓から流れ込んできた外気と共に、何かが一つ終わったと思ったことを覚えている。それは虚しくて、けれども肉体的にも精神的にも少し楽になって、けれども恐ろしいような、そんな感じだった。 

 この二つの大きなきっかけの後は、どんどん放射線が日常になっていった。私は未だに外出した服はその日に全て洗濯する。水道水で調理はしないし、野菜や米もできるだけ汚染地から遠い物を購入している。けれどもそれも以前に比べればだいぶ緩くなった。おそらくそのうち止めるのだろうと思う。人は好むと好まざるとに関わらず状況を受け入れて生きていく存在なのだということ、それを今更ながら実感している。

 あの時たぎっていた怒りは決してなくなってはいないが、最近になって少し冷静に現状を見ることができるようになってきた。「怒り」という立ち位置を失うと、自分が物事をどう捉え、どう考えるべきかがわからなくなった。「少しの放射線だったら身体に良い」といった心ない言葉、低線量被曝、原子力発電、がれき処理、除染、何が、誰が正しくて間違っているのか、全く分からない。現実は複雑すぎて捉えきれない。それを単純化することはできないから、分からないまま、けれども無責任にならないように格闘しながら生きていくしかないのか、と思う。

この一年、たくさんのアーティストがいわきを訪問してくれた。それはまだ線量について明確な提示がない4月から始まった。震災直後の辛かった時期、遠い所から脚を運んでくれる、そんな単純なことにどれだけ救われたかわからない。

 4月下旬には平田オリザさん、多田淳之介さん、わたなべなおこさんを招いて、公共劇場「いわきアリオス」の演劇プロデューサー今尾博之さんを司会にトークセッション『いわきの今と演劇Zero.』を開き、現状の確認とこれからのいわきで何ができるかについて話した。

 6月初旬には避難所になっていた「いわきアリオス」で行われるはずだった「ままごと」の『わが星』を本校アトリエでリーディング公演した。学校で実施するためにいわき地区高校演劇連盟とタイアップしてワークショップ(WS)を開催、久しぶりに集まった地区演劇部の生徒達がそのエネルギーを爆発させた。この時創作したラップを口ロロの三浦康嗣さんが編集して『いつかどこかで・SPACE BALLON PROJECT』という曲に収めてくれた。原発災害でもう通らなくなった電車「常磐線いわき発富岡行き」というフレーズが何気なく歌われていて胸が苦しくなる。

「わが星」ワークショップから
【写真は、「わが星」ワークショップから。提供=筆者 禁無断転載】

 6月から文科省コミュニケーション教育推進事業で、あなざーわーくすのわたなべなおこさんをファシリテーターに演劇WSを2年次生総合学習の時間に実施した。この事業は11月初旬まで定期的に行われた。

 7月にはいわき地区の演劇部7校が集まって発表会を本校アトリエで実施。私と演劇部の生徒達とで創った『Final Fantasy for XI.Ⅲ.MMXI』(以後FF)初演。この時この作品を県外へ持っていきたいと言ったのを、見に来てくれた端田新菜さんと神戸DanceBoxが引き受けて下さり、10月の神戸公演、12月の東京公演が実現した。さらに九州朝日放送が招聘して3月の福岡公演に繋がった。たくさんの方のご尽力によって実現したこれらの公演を目標に、私達は毎日を前向きに建設的に過ごすことができた。そのことに心から感謝している。『FF』は7月の初演から3ヶ月毎に別の地で上演されたが、時間の経過とそれぞれの土地の事情や震災の捉え方が客席に反映していることが興味深かった。その視線を受けて私達も客観的にならざるを得なかった。『FF』は震災後、怒りにまかせてその日その日をなんとか乗り切るために創った作品であり、一方的な視点で描かれたものであることは免れない。だからこそ私達にしか創れなかった作品でもあり、イイ意味でも悪い意味でも震災演劇だ。そこに「五反田団」の前田司郎さんは「問題の捉え方が単純だし描き方がきれいすぎる」と、一つの演劇作品として誠実に疑義を呈してくれた。これによって私達はこの作品を突き放して冷静に考えるようになったし、私達が描くべきことについてもその糸口を掴むことができた。『FF』は何人かメンバーを換えながらこれからも上演するだろう。あの時、福島はこんなに怒っていた、少なくともそのことはブレない作品だと思う。

「Final Fantasy for XI.III.MMXI」公演から
【写真は、「Final Fantasy for XI.III.MMXI」公演から。提供=筆者 禁無断転載】

 その前田司郎さんが8月に本校8期生と共に創った作品が『チャンポルギーニとハワイ旅行』である。本校には演劇の授業があって、その成果発表としてプロを演出に招き2年次にアトリエ公演を、3年次には卒業公演を実施している。また、ここ5年ほどは卒業公演で創られた作品を東京でも公演するようになっている。今年度の卒業公演は震災で「いわきアリオス」が閉鎖されていたため、やはり本校アトリエでの公演になった。稽古期間も短かく消化不良気味であったが、12月にアトリエヘリコプターで行われた公演では前田さんが描いた震災が立ち上がり、胸打たれる作品になった。

 1月末にはこのほど岸田國士戯曲賞を受賞した「マームとジプシー」の藤田貴大さんが本校9期生のアトリエ公演を演出。『ハロースクール、バイバイ』を上演した。前田さん、藤田さん共に震災前から演出の依頼をしていたもので、震災とは無関係に本校に来校することになっていた。特に藤田さんは「震災だから」という特殊さをできるだけ排除し、純粋に演劇作品を創ろうという構えがあったように思う。しかし、いわきに通い生徒と時間を共にする中で、むしろ震災を抜きにすることはできないと、震災を経た身体を持つ生徒達を愛情深く見つめ、作品を創り上げてくれた。それは生命の輝きと刹那を捉えた奇跡のような作品になった。

 振り返ると、「何かしなければ」「どうにかしなければ」という思いに駆られ続けた一年だった。そんな思いを受けとめて下さった方との出会いがあり、多くの方に支えられて、腐らずに1年目の今日までたどり着くことができた。支えて下さった皆様、本当にありがとうございました。

 この福島で起きた悲劇は決してここだけのものではない。飢餓や貧困や戦争、自然災害、犯罪被害、事故、非日常がそのまま日常になる理不尽さの中で生きている人は日本にも、海外にも、世界中にいる。福島はその一つでしかない。私は自分の身に降りかかるまで、様々な悲劇をリアリティをもって感じることができなかった。今は少しだけ、その痛みを想像することができる。想像すること。どこかにいる傷ついている誰かを、ではなく、隣にいる人、目の前にいる人のことを想像すること。そのことを大事にしていきたい。

【筆者略歴】
 いしい・みちこ(石井路子)
 福島県立いわき総合高校芸術・表現系列(演劇)担当教諭。ドラマティーチャー。教科「演劇」のカリキュラムと系統的指導法について研究。

公演チラシ
公演チラシ

【上演記録】
▽いわき総合高校総合学科第8期生卒業公演「チャンポルギーニとハワイ旅行」
 作・演出 前田司郎(五反田団)
 出演 総合学科8期生 12名 
 期日 2011年8月20日(土)-21日(日)
 場所 いわき総合高校南校舎3階、Theater PISHS(演劇演習室)
 料金 無料

▽五反田団といわきから来た高校生「チャンポルギーニとハワイ旅行」
 作・演出 前田司郎(五反田団)
 出演 総合学科8期生 12名
 期日 2012年2月23日-26日
 場所 アトリエヘリコプター
※体調不良により高橋良輔は2月23日-25日の出演を見合わせ、代わりに、前田司郎(五反田団)が出演。26日は高橋良輔出演。
 料金 予約・当日ともに 2,000円
 企画制作 五反田団
 協力 福島県立いわき総合高等学校

▼いわき総合高校演劇部「Final Fantasy for XI.III.MMXI」(ファイナルファンタジー・フォー・サンテンイチイチ)神戸公演
 原案 いわき総合高等学校 演劇部
 構成・脚本 いしいみちこ
 出演 いわき総合高等学校 演劇部
 期日 2011年10月9日-10日
 場所 ArtTheater db神戸
 料金 一般前売 2,000円 一般当日 2,500円 高校生以下・ 障がい者 1,000円

公演チラシ
公演チラシ

▼いわき総合高校演劇部「Final Fantasy for XI.III.MMXI」東京公演
期日 2011年12月21-22日(アトリエヘリコプター)23日(筑波大学付属駒場中・高等学校50周年記念会館)

舞台監督協力 榎戸源胤(五反田団) 中西隆雄 山下翼
照明協力 山口久隆(S-B-S)
宣伝美術:谷代克明
コーディネーター 端田新菜(青年団/ままごと)、平田知之(筑波大学付属駒場高校教員)
プロデューサー 前田司郎(五反田団)
料金 予約・当日ともに2,000円(筑波大学付属駒場高校公演は無料) 

▼いわき総合高校演劇部「Final Fantasy for XI.III.MMXI」福岡公演
 期日 2012年3月3日 14:00(中高生対象)/18:30
 場所 明治安田生命ホール
 料金(夜公演のみ) 1,500円(全席自由)※当日2,000円
 照明協力 山口久隆(S-B-S)
 企画制作 九州朝日放送

▽いわき総合高校総合学科第9期生アトリエ公演「ハロースクール、バイバイ」
 作・演出 藤田貴大(マームとジプシー)
 出演 総合学科9期生 11名
 期日 2012年1月28日(土)-29日(日)
 場所 いわき総合高校南校舎3階、Theater PISHS(演劇演習室)
 料金 無料

【参考・ワンダーランド掲載関連一覧】
・水牛健太郎:正当な「権利」と、失われたものの復活(いわき総合高校演劇部「Final Fantasy for XI. III. MMXI」)
・連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第13回
第二の敗戦」から、新しい価値観の作品を 大石時雄さん(いわきアリオス支配人)

東日本大震災 (小劇場中心)演劇関連情報  
・土佐有明「演劇教育の先端で何が起きているのか-いわき総合高校の試み」(前編
・土佐有明「演劇教育の先端で何が起きているのか-いわき総合高校の試み」(後編
 


「震災特別報告」への27件のフィードバック

  1. ピンバック: ワンダーランド
  2. ピンバック: みさを
  3. ピンバック: 藤倉めぐみ
  4. ピンバック: Ayano Tanaka
  5. ピンバック: ひらたともゆき
  6. ピンバック: 與那覇潤(Yonaha Jun)
  7. ピンバック: 平林正男
  8. ピンバック: 端田新菜
  9. ピンバック: birdo
  10. ピンバック: 高野しのぶ
  11. ピンバック: judy
  12. ピンバック: judy
  13. ピンバック: けろちん。
  14. ピンバック: さとこ.W
  15. ピンバック: wakako mithuhashi
  16. ピンバック: Tamotsu Iwaki
  17. ピンバック: fumi yokobori
  18. ピンバック: wakako mithuhashi
  19. ピンバック: 薙野信喜
  20. ピンバック: ひなつ
  21. ピンバック: MINAMI YUMIKO
  22. ピンバック: 長島確
  23. ピンバック: タ   チ
  24. ピンバック: のの

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