◎テンペスト、希望の婚礼
鉢村優
シェクスピア最後の戯曲。彼が長い劇作の末に行き着いたのは、理性で感情を制し、他者を赦す人間の気高さを称えることである—テンペストをしてそのように語る人は多い。しかし演出を手がけた白井晃は、そこではない何かを見つめていた。
実の弟の奸策によってミラノ大公の地位を追われ、娘と二人、絶海の孤島に追放されたプロスペロー(古谷一行)。彼は魔術を身につけ、空気の精エアリエル(碓井将大)を従えて妖精を操る。プロスペローは嵐を起こして船を難破させ、彼の政敵を孤島に集めた。いまやミラノ公となった弟ゴンザーロー(長谷川初範)、共謀してプロスペローを追放したナポリ王アロンゾー(田山涼成)とその従者たち。彼らはプロスペローの魔術に幻惑され、おびえて逃げ惑っている。一方、父王とはぐれたナポリ王子ファーディナンド(伊礼彼方)は、プロスペローの娘ミランダ(高野志穂)を一目見て恋に落ちる。ミランダはやさしさと好奇心にあふれ、目を輝かせている—。
“新国立劇場「テンペスト」” の続きを読む