グループ る・ばる 「片づけたい女たち」

◎劇評を書くセミナー東京芸術劇場コース第6回 報告と課題劇評

 劇評を書くセミナー第6回が1月25日(金) 、講師に扇田昭彦さん(演劇評論家)を迎えて東京芸術劇場で開かれました。対象となったのは、グループ る・ばる 「片づけたい女たち」公演(2013年1月12日-20日)です。当日は提出された原稿12本を取り上げ、扇田さんのコメントを挟んで合評が進みました。最後の20分あまりは全員発言で盛り上がり、「おもしろい読みと分析で私が教えられることがたくさんありました」との扇田さんのことばでしめくくられました。そのあと、劇場内のレストランで遅くまで話し合いが続きました。以下、執筆者の了解を得た劇評を掲載します。
(ワンダーランド編集部)
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集団:歩行訓練「不変の価値」

◎500円の価値
  伊藤寧美

「不変の価値」公演チラシ
「不変の価値」公演チラシ。
デザイン=松見真之助(Morishwarks)

 会場に入ると、『資本論』の次の一節がスクリーンに表示されている。

「商品は、自分自身で市場に行くことができず、また自分自身で交換されることも出来ない。したがって、われわれはその番人を、すなわち、商品所有者を探さなければならない。商品は物であって、したがって人間に対して無抵抗である。もし商品が従順でないようなばあいには、人間は暴力を用いることができる。(『資本論(一)』マルクス・エンゲルス編/向坂逸郎訳、岩波文庫、1969. p. 152)」(註1)

 開演前の諸注意のアナウンスに続き、司会が短いデモンストレーションを行う。彼女が舞台上の俳優のもつグラスに500円硬貨を入れると、彼は少しポーズをとって見せるのだ。次いで司会は今回の公演費用の内訳を聞き取れないほどのスピードで読み上げ、その最後に、以上の決算の結果本公演の値段(すなわち入場料と経費の差額を観客数で割った金額)は500円である、ついては観客に500円を返金する、と述べる。作品は、ここから始まる。
 作品は、観客と舞台上のインタラクションに重点を置く前半部、俳優間のインタラクションを見せる後半部に分かれる。この媒介になるのがこの500円である。
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松岡綾葉「D.D. Digital Dust」

◎のどごしを求めない、おいしさ。
  安達真実

福岡ダンスフリンジフェスティバル チラシ

 この人たちのダンスときたら、まさに門外漢には(門外漢である、と自らを規定した者には)どうでもいいような無意味なディテールに溢れかえっているのだ。一方で、どうでもよくないような何かが、いい加減にほったらかされているように思える。それがかえって、どうにもクセになる感じなのだ。というのは、その愚直さが筆者の目には誠実さと映るからであって、もし、納得という“のどごし”の良さを求めてみるなら、はっきり言って気持ち悪いことだらけ、ということにもなり得るだろう。
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第57回岸田國士戯曲賞

◎岸田戯曲賞は赤堀雅秋「一丁目ぞめき」と岩井秀人「ある女」

 第57回岸田國士戯曲賞(白水社主催)の選考会が2月15日(金)、東京都千代田区の學士會館で開かれ、赤堀雅秋「一丁目ぞめき」と岩井秀人「ある女」が受賞作と決まった。正賞は時計、副賞は賞金20万円が贈られる。授賞式は4月8日(月)、東京都新宿区の日本出版クラブ会館で開かれる。
>> 岸田國士戯曲賞のページ(白水社)

劇評セミナー 最終回は4月2日 受講受付中!

劇評を書くセミナー東京芸術劇場コース チラシ

 劇評を書くセミナー 東京芸術劇場コース第9回は4月2日(火) 午後7時から、講師に佐々木敦さん(評論家)を迎えて同劇場ミーティングルームで開かれます。今期セミナーの最終回です。取り上げるのは「マシーン日記」(作・演出:松尾スズキ、2013年3月14日-3月31日)。提出された劇評をもとに合評します。東京芸術劇場の選りすぐりの公演に、少数ゼミ形式でじっくり取り組みます。受講受付中(定員20人)。残りわずかです。詳細と申し込みは >> セミナー概要ページをご覧ください。
(注)東京芸術劇場サイトに劇評セミナーの概要が掲載されています。>>

東京デスロック「東京ノート」

◎2024年のジャパニーズ・ノート
  落雅季子

「東京ノート」公演チラシ
「東京ノート」公演チラシ

 靴を脱いで劇場に入り、白いムートン張りの床を踏む。作品の舞台である美術館のロビーを模したセットは同じ布地でカバーされており、既に観客らしき人が腰掛けている。椅子はそれ以外になく、後はめいめい床に座ったり、壁にもたれたりしながら開演を待っているようだった。東京デスロック4年ぶりの東京公演に多田淳之介が選んだのは、遠いヨーロッパの戦争を背景に、美術館につかの間集う家族、恋人たちを描く、平田オリザの戯曲『東京ノート』である。
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岡崎藝術座「隣人ジミーの不在」

◎個人とスタンダード(文脈)ということについての考え-「隣人ジミーの不在」再演を前に
  神里雄大

 今月再演する『隣人ジミーの不在』(※注)は、その製作の一部を韓国ソウルでおこなった。韓国人俳優が出るわけでもなく、韓国のことを直接的に扱った作品でもなく、また今のところ韓国での公演の予定もない(機会があればぜひやりたい)ので、なぜ? と聞かれることも少なからずあった。その経緯を書き記すことで、僕がいまどんなことを考えて作品をつくり活動しているかを紹介したいと思う。話は、2009年までさかのぼる。旅をするつもりで読んでもらいたい。
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舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングレポート

舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングレポート
◎制作者による、ヒエラルキーのないネットワーク組織の立ち上げに向けて
 藤原顕太

 2012年10月22日、京都にて、同時代の舞台芸術に携わる制作者の国際的ネットワーク組織「舞台芸術制作者オープンネットワーク」立ち上げに向けたミーティングが開催されました(注1・2)。
 集まった参加者は、89人。活動拠点や立場はそれぞれ異なるものの、舞台制作に何かしらかの形で関係する人々です。
 このミーティングの発起人は、それぞれ異なる立場で舞台芸術の制作に携わる12名で、以下のような立場あるいは集団にかかわってきたメンバーです(注2)。
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想田和弘監督「演劇1」「演劇2」

◎平田オリザの孤独と冒険
  水牛健太郎

映画「演劇1」「演劇2」のチラシ
映画「演劇1」「演劇2」のチラシ

 「演劇1」が始まって間もなく、平田オリザがホワイトボードに「イメージの共有」という言葉を書く場面があるのだが、私の記憶が確かなら、「メ」の字を書くときに平田はいきなり短い棒から書いて、私を驚かせた。続いて「共」では、上の横棒を書いてから縦棒を二本書くのが正しい書き順だが、平田は縦二本を先に書いたのだったか、横二本を続けて書いたのだったか。「有」の字は一番上の横棒を最初に書いて、本来最初に書くはずのはらいを次に書いた。
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東京芸術劇場「ポリグラフ~嘘発見器~」

◎劇評を書くセミナー東京芸術劇場コース第5回 報告と課題劇評

「ポリグラフ~嘘発見器~」公演チラシ
「ポリグラフ~嘘発見器~」
公演チラシ

 劇評を書くセミナー第5回が2013年1月11日(金) 午後7時から同劇場で開かれました。「ポリグラフ~嘘発見器~」公演を取り上げた課題作9本を、講師の徳永京子さん(演劇ジャーナリスト)とともに読みました。徳永さん担当の前回(第3回)は、提出された原稿にずばりと切り込で劇評・レビューのノウハウを具体的に説きました。そのせいもあってか今回は力作揃い。後日いただいた徳永さんのコメントとともに、了解を得た原稿を掲載します。ご一読ください。
 第7回は2月15日(金) 午後7時から。取り上げるのは、FUKAI PRODUCE羽衣「サロメvsヨカナーン」(2013年2月1日-11日)。講師は徳永京子さんです。興味のある方はセミナー概要ページから申し込んでください。(ワンダーランド編集部)
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