親子演劇ガイド

◎小劇場ファンのための親子演劇ガイド
 片山幹生

1.発端

 2005年12月に演劇集団円のこどもステージ『おばけリンゴ』を、両国のシアターχで娘と一緒に見たときのことはいまだはっきりと覚えている。舞台上で生成するあらゆる出来事に目を輝かせて見入り、いちいち律儀に反応を示す子供の様子をそばで眺めるのは、芝居そのもの以上に私の気分を高揚させる体験だった。娘が5歳になるころから12歳になった現在まで、平均すると大体、一年に10回ぐらいは子供と芝居を見に行っている。子供と一緒に見る演劇は、私の観劇生活のなかでも重要なものになっている。
 子ども劇場などの観劇団体に関わっている方などには、子供向けの演劇作品に長年にわたり数多く接し、私などよりはるかにその世界に精通している方が多いはずだ。この記事は東京に住む一小劇場ファンの観点からの私的で主観的な子供向け演劇の世界の紹介にすぎないことを最初にお断りしておく。
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穂の国とよはし芸術劇場PLAT

◎舞台芸術を通じた人々の出会いと交流拠点『プラット』のオープン
  矢作勝義

 2013年4月30日開館記念式典、5月1日グランドオープンが目の前に迫ってきている、愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」(以降プラットと略)について私の個人的な視点から書きたいと思います。
 2012年4月1日から、公益財団法人豊橋市文化振興財団の事業制作チーフとしてプラットの開館準備の業務に携わり始めました。それまでは、1998年4月から2012年3月までの間、東京都世田谷区の世田谷パブリックシアターに勤務していました。
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北九州芸術劇場プロデュース「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」

◎水底で踊れ
  藤倉秀彦

公演チラシ
公演チラシ

 『LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望』(作・演出/藤田貴大、於あうるすぽっと)について書く。本作はマームとジプシー主宰の藤田貴大が、北九州芸術劇場企画のプロデュース公演のために作・演出を担当した舞台である。二十人の役者のうち尾野島慎太朗ほか数名は、マームの芝居の常連だが、その以外の大半はオーディションによって選ばれたようである。
 舞台は北九州小倉。ひさしぶりに小倉に戻ってきた男が、かつての友人や知人と再会したり、少年時代の記憶を甦らせたり、という流れを中心に、小倉で暮らすさまざまな男女の人生を、藤田貴大お得意の〝リフレイン〟の手法で点描する群像劇である。
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若手演出家コンクール2012最終審査

◎最優秀賞は日澤雄介さん(劇団チョコレートケーキ)

若手演出家コンクール2012

 日本演出者協会と文化庁主催の「若手演出家コンクール2012」最終審査会が3月10日、東京・下北沢の「劇」小劇場で開かれ、最優秀賞に日澤雄介さん(劇団チョコレートケーキ)が選ばれた。賞金は50万円。来年の受賞記念公演も支援を受ける。
 3月5日から10日までの期間中に優秀賞受賞4人の演出作品が上演された。4作をすべて見た人が選ぶ観客賞は、鈴木アツトさん(劇団印象-indian elephant-)が受賞した。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第21回

◎「うらおもて人生録」(色川武大著 新潮文庫 1987年)
  ピンク地底人3号

「うらおもて人生録」表紙
「うらおもて人生録」表紙

 この世で一番好きな場所はどこかと問われれば、古本屋で、一週間に一回は行って本を漁る。とはいえ決して熱心な読者ではなく、それらの本を読むことは滅多にない。
 芥川龍之介も夏目漱石も安部公房もよく知らない。薄暗い部屋に、文庫本が散らばっている。枕元には背表紙の折れた北杜夫「さびしい王様」。床に積まれたのは埃まみれの物語たち。自分は膨大な知識に囲まれている。鞄には常に2冊、本を忍ばせる。けれどほとんど読むことはない。小川国夫の「アポロンの島」がPCのキーボードの前にある。窓際には控えめに安岡章太郎の全集が顔を向けている。僕は少しだけ高揚する。バニスターのブーツを履いてワゴンRリミテッドに乗り込む。ダッシュボードにも小説が重なっている。チェスタトンの文庫を持ってラーメン屋に入る。ラーメンを食べながら賢くなる算段だ。当然その計画は頓挫する。読まない。だってラーメン食いながらチェスタトンって思いのほかに難しいから。
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FUKAIPRODUCE羽衣「サロメvsヨカナーン」

◎劇評セミナー第7回 報告と課題劇評

 劇評を書くセミナー東京芸術劇場コース第7回が2月15日(金)、講師に徳永京子さん(演劇ジャーナリスト)を迎えて東京芸術劇場で開かれました。取り上げたのは、FUKAI PRODUCE羽衣「サロメvsヨカナーン」(2013年2月1日-11日) 公演です。幕開けのころ余裕のあった場内は、ネットの評判を呼んで後半は満席となるほどの人気公演でした。
 当日提出されたものを合わせて課題劇評は計11本。いずれも「サロメvsヨカナーン」の特徴をとらえた力作がそろいました。以下、報告ページに了解の得られた原稿を掲載しました。じっくりご覧ください。(ワンダーランド編集部)
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第20回

◎「鬱」(花村萬月著 双葉社 1997年)
  中屋敷法仁

「鬱」表紙
「鬱」表紙

 姉が買ったのだろうと思う。高校時代に居間に置いてあった小説『ゲルマニウムの夜』に出会った僕は、そのまま著者・花村萬月氏の狂信者となった。
 平凡な情景描写でありながら、どこかグロテスク。過激で醜悪な場面なのに、恐ろしく美しい。愛と暴力、性、宗教、歴史、組織―あらゆるテーマを軽快なテンポと重厚な文体で描く。中毒性の高い花村文学に完全に心酔していまい、貪るように氏の作品を読み漁った。それから大学に入学してからの数年間というもの、花村氏以外の小説は読んでいない。(いや、読んでいたかもしれないが、全く記憶に残っていない)
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マームとジプシー「あ、ストレンジャー」

◎太陽が貧しい
  岡野宏文

 「マームとジプシー」の『あ、ストレンジャー』は、ノーベル賞作家アルベール・カミュの代表作『異邦人』を換骨奪胎した公演であった。

 恥ずかしいのでいままで「ジュール・ヴェルヌです」とかいってつつましく隠し通してきたが、私の卒論はしょうみなところカミュである。フランス語なんか全然できないくせに、ブランデーじゃない方のカミュを恐れ多くも扱ったところが実に罪作りな私らしい。
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東京デスロック「東京ノート」

◎あのとき劇場は満員電車に似ていたかもしれない
  イチゲキ 座談会「『東京ノート』を考える会」

「東京ノート」公演チラシ
「東京ノート」公演チラシ

 東京デスロック(主宰・多田淳之介)が今年1月、4年ぶりの東京公演をこまばアゴラ劇場で行いました。取り上げたのは、平田オリザの岸田國士戯曲賞受賞作「東京ノート」。青年団が平田演出でたびたび上演してきた代表作です。今回の多田演出では、観客が会場を自由に動き回れるようになっていました。そのため、どこにいてどのように時間を過ごしたかによって印象が大きく変わったようです。その変化を確かめようと、この公演を見た6人に体験を交えて話してもらいました。参加者は、観客同士が話をする場を共有しようと活動している「イチゲキ」のメンバーです。進行役の廣澤梓はイチゲキの中心メンバーの一人。今年1月からワンダーランド編集部に加わりました。参加者の略歴は末尾に掲載しました。オブサーバーとしてワンダーランド編集長の水牛健太郎が参加しています。(編集部)
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【レクチャー三昧】2013年3月

 直接関係がない話なのですが、先般、友人が「どうしてポストトークやシンポジウムに出てくる先生方ってしょっちゅうマフラーをしてるのかしら」といぶかしがっていました。女子校出身の彼女は「マフラーは表でするもので室内に入ったら外すものである」と厳しく躾けられたそうです。そういえば実によく見る光景です。
(高橋楓)
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