DULL-COLORED POP『プルーフ/証明』 +風琴工房『proof‐証明‐』

◎「しのぶの演劇レビュー」に教えられた「見比べ」の愉悦
高橋 英之

chirashi 観劇後も作品の残像が脳裏から離れず、そうこうするうちに、次々と関連したものに出会ってしまい、やがて、実際に舞台の客席に座っていたときよりも、さらなる深みにはまっていってしまう刺激的な作品がある。そうした作品は、観劇する前からもドラマティックな空気をまとって接近してきたりする。

 DULL-COLORED POP(以下“ダルカラ”)と風琴工房という実力派の劇団が、『proof』という作品をほぼ同時期に東京で上演すると教えてくれたのは、演劇ウォッチャー・高野しのぶさんのメルマガ「しのぶの演劇レビュー」だった。演劇ファンを自認する人なら、お世話になっていない人はいないともいえる貴重な情報源となっているメルマガで、彼女は『proof』について「見比べると、さらに面白いと思います」とコメントしていた。そのメルマガでのコメントは、たまたま出張で滞在していた米国西海岸のシアトルに届けられた。
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飴屋法水「教室」

◎境界線上のグロテスク
 落 雅季子

「教室」チラシ 『教室』は、2013年夏、大阪のTACT/FESTで上演された子どものための演劇である。一年の時を経て、東京の清澄白河の地で再演されることとなった。作、演出は飴屋法水。出演者は飴屋、コロスケさんこと三好愛、くんちゃんこと三好くるみちゃんという、実際の家族として暮らす三人だ。 “飴屋法水「教室」” の続きを読む

民俗芸能調査クラブ「バリ島合宿」

◎空間を広げていく可能性
 萩原雄太

 旅行パンフレットに「神秘の文化」とか「芸術の島」といった宣伝コピーが踊っているのには、思わず「本当は芸術とか興味ないくせに……」と揶揄の一つも言いたくなるのだけど、バリ島にはとても魅力的な伝統芸能が数多く残されているのは確かだ。「ケチャ」「ガムラン」「バリ舞踊」「ワヤンクリ」などなど、他の地域には見られないバリの伝統的な文化は観光産業と結びついて、世界中から300万人あまりの観光客を誘致することに成功している(2012年)。
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【レクチャー三昧】2014年9月

日中の残暑は厳しいですが日が暮れれば虫の音が聞こえてきます。大学は夏休み中で9月のイヴェント告知は出揃っていないようです。9月中に申込のイヴェントも掲載致しました。
(高橋楓)

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SCOT「演劇人のための鈴木教室」

◎雑感:鈴木教室に参加してみた
 危口統之

 昨年12月、劇団SCOTによる「吉祥寺シアター公演と演劇人のための鈴木教室」が行われました。この鈴木教室とは「演出家・鈴木忠志が、将来のリーダーを目指す若い演劇人のために、『シンデレラ』の舞台稽古を見せながら、演出論、演技論について受講者と対話する企画」というもの。さらに今年2月にはSCOTの本拠地、富山県利賀村でその続きが行われました。そこに参加した、悪魔のしるし主宰・危口統之さんの報告記です。(編集部)

 ネットで開催の報を知り気になってはいたが最終的には友人からの勧めがダメ押しとなって参加することになったのが去年の師走で、すっかり時間が経ってしまったせいで、このときの自分が何を考えていたのかはもう思い出せない。何も考えていなかったのかもしれない。今となってはただ、参加したという事実があるのみである。吉祥寺シアターでの一連のレクチャーを終えたあと懇親会の場でいろんな人から「参加してよかったか」と訊かれ、そのときは勿論と答えたが、別に良い悪いで判断することでもないと思う。ところで藤子不二雄A氏はかつて大山倍達のもとで空手を学んだこともあったそうだ。
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KYOTO EXPERIMENT2013「使えるプログラム」

◎「劇は使える」という限定解除 ―『2013使えるプログラム記録集』から
 柳沢望

【表紙写真=©Satoshi Nishizawa 提供=使えるプログラム】
【表紙写真=©Satoshi Nishizawa 提供=使えるプログラム】

 国内でフェスティバル/トーキョーに次ぐ規模とも言われている京都国際舞台芸術祭(KYOTO EXPERIMENT)だが、そのフリンジ企画として、昨年に引き続き、「使えるプログラム」が今年も実施される(注1)。
 そのプログラムディレクターは「けのび」と名乗るグループの活動を積み重ねて来た実績はあるものの、まだ作家として評価が定まっていたとは言えない羽鳥嘉郎だ。むしろ、この20代の若手作家の評価は、KYOTO EXPERIMENTによる起用によって方向付けられたと言うべきかもしれない。その判断には、舞台芸術の未来に向けて舞台をめぐる状況を更新し続けるべきだという認識があっただろう。

(注1)「表象文化論学会ニューズレター〈REPRE〉20」の江口 正登「『使えるプログラム』のこと―『インストラクション』としての上演」参照。
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連載「もう一度見たい舞台」第7回 坂東玉三郎「鷺娘」

◎美しさの極み、至福の時
堀越謙三(ユーロスペース代表)

もう一度見たい舞台7回program0a
『書かれた顔』プログラム表紙

 国内の若い監督やヨーロッパの監督と、これまで25本ぐらいの映画を製作してきたけど、ダニエル・シュミット監督(1941-2006)のドキュメンタリー映画『書かれた顔』がいちばん印象深いかな。板東玉三郎が主演だしね。と言っても、普通のドキュメンタリーじゃない。玉三郎の舞台も撮ってるけど、武原はんや舞踏の大野一雄の映像、それに杉村春子のインタビューも入ってる。玉三郎をめぐる男二人のさや当てみたいなフィクションもあって、不思議な映画、シュミットならではの映像になったと思う。
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劇評を書くセミナー KYOTO EXPERIMENT 2014編

ワンダーランド(小劇場レビューマガジン)は、113日(月・祝)に「劇評を書くセミナー KYOTO EXPERIMENT 2014 編」を開きます。参加者はKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2014で上演される舞台(フリンジなど関連企画を含みます)を見て劇評を書き事前に提出、講評を受けながら話し合います。講師には実行委員長の森山直人さんをお迎えします。劇評執筆なしの聴講も可能です。→終了しました。

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身体の景色「戦場のピクニック」「Lady Macbeth」

◎表現の深さについて、あるいは新しさはどこから生まれるのかということ。
 矢野靖人

 5月18日(日)、身体の景色の主宰である俳優・演出家の岡野暢さんから依頼を受けて、身体の景色のポスト・パフォーマンス・トークにゲスト出演するために、日暮里はd-倉庫に観劇に出かけた。
 岡野さんとの最初の出会いは、あれは確か、2011年3月のことではなかったかと思う。忘れもしない、あの3.11(東日本大震災)の起こったその直後だった。それ以前から岡野さんのお名前や、身体の景色の評判は聞いていて、興味は持っていたのだけれどまだ観たことがなくて、そしてあの3.11の後、予定していた公演を断行するか、中止にするか? について、演劇や舞台芸術を取り巻く環境でいろいろな人たちが、様々な懊悩を抱え、そして身を切るような決断が為されていたさなか、身体の景色は、公演の断行を決めた。しかし相変わらず余震も続き、あるいは“自粛”というムードも漂い始めているなかで、果たして観客は劇場に来(られ)るのか。岡野さんや、身体の景色のドラマトゥルク・田中圭介君、その作品の出演者たちもこの問題に関しては相当苦しんでいたようで、確か、田中君から何とはなしに、宣伝・広報の協力を頼まれたんだったんじゃなかったかと思う。その辺りの記憶は曖昧だが、果たして僕は、身体の景色の稽古場に赴いた。そしてその身体の景色の、というか岡野さんの、自分の魂を剥き出しにしてそのままに舞台に乗せようとしているかのような仕事に心を揺さ振られ、熱に浮かされるままに多くの友人にお知らせを書いたのだった。や、順番は逆だったかもしれない。稽古場を見て、応援を勝手に買って出たのだったかもしれない。
 いずれにしても岡野さんとのお付き合いはそこから始まって、その後、観劇した作品は、稽古場で観た「舞え舞えかたつむり&椅子と伝説」(作/別役実、身体の景色 vol.6)と、「エレクトラ」(作/ソフォクレス、身体の景色 vol.7)等々と続く。こちらも観に行ったし、岡野さんや田中君もshelfの作品をよく観に来てくれた。
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名取事務所「やってきたゴドー」

◎東ヨーロッパに「やってきたゴドー」
ラモーナ・ツァラヌ

シビウ演劇祭2014ポスター
シビウ演劇祭2014 ポスター

 別役実作『やってきたゴドー』公演(K. Kiyama演出、名取事務所プロデュース)は今年6月前半、モルドヴァ共和国のキシナウ、ルーマニアのシビウとブカレストで上演された。この作品は2007年が初演で、それ以来内外で数多く上演された。海外公演はアイルランドのベケット演劇祭をはじめ、フランス、ドイツ、ロシアなどで回を重ねた。

 『やってきたゴドー』は、ベケットの『ゴドーを待ちながら』の内容を踏まえて作られ、原作に登場する人物―ウラジーミル、エストラゴン、ラッキー、ポゾー、少年―がそのままこの舞台にも登場する。そのうえ、ゴドーにまつわる不条理的な設定がさらに進展する。何よりもまず、ベケットの原作で待ちに待たれたゴドーという人物が早い段階から登場する。彼は長いトレンチコートを着て帽子を被り、スーツケースと傘を手に持っている、ごく普通の人間に見える。そのほか別役作品によく登場する受付の女性二人、エストラゴンの母かもしれない女性、ウラジーミルの子を乳母車に乗せた女性も加わる。
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