◎松花堂弁当のように舞い、プルコギは笑う
岡野宏文
魚をすなどる投網のように、三つの注意事項が必ず開幕の前にお客に投げかけられます。
その一、携帯電話を殺すこと。
その二、録音録画の禁止。
その三、飲食の御法度。
僕にとっての最大の問題は飲食です。許したからといって飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが客席でおっぱじまるとは劇団側もまさか思ってはいないでしょう。せいぜい場違いに煎餅などガリガリとかじり出すやつが発生するくらいが関の山だと思います。しかし、ものを食べながらなにかを見る楽しさは、映画館のポップコーンを考えるとき、一舌瞭然なんであります。なにも名画「無法松の一生」でかの阪妻が枡席でくさやを焼いて鼻つまみになる、そんなひそみにならってご託を並べているわけではありません。僕はごく慎ましく、松花堂弁当を食べながら「ライオンキング」が見たい。ごくごくひたむきに、冷やし狸を食しながら蜷川幸雄だって見たいし、めっぽういたいけに、モスバーガーを頬張りながら野田秀樹を見つつ手がベタベタにさえなりたいと焦がれているわけです。
“はえぎわ「ハエのように舞い 牛は笑う」” の続きを読む