iaku「流れんな」

◎濃密で軽やかな会話劇
 片山幹生

 大阪を中心に活躍する劇作家、横山拓也の作品を見るのはこれが三本目だ。「エダニク」、「目頭を押さえた」、そして今回の「流れんな」。いずれもシンプルで短いタイトルではあるが、「いったいどんな作品なのだろう?」とこちらの意識に妙なひっかかりを残す。どこか演劇作品のタイトルらしく感じられない。「エダニク」、「目頭を押さえた」のタイトルは、実際に舞台を見ると腑に落ちた。「なるほど」と思わずうなる仕掛けがタイトルにも施されている。
 「流れんな」というタイトルを目にしたとき、いくつかの疑問が思い浮かんだ。この言葉はいったいどのようなイントネーションで発音されるのだろうか? 命令調の強い調子で「流れんな!」だろうか? あるいは命令ではあるけれども、「流れて欲しくない」という悲鳴だろうか? あきらめあるいは苛立ちのこもった「流れんなぁ」だろうか? またこの「流れんな」の主語はいったい何なのだろうか?
 終幕時に「流れんな」というタイトルは、私が思い浮かべていたあらゆるイントネーションで発話されうることがわかった。そしてこの動詞にかかる主語はひとつではない。「流れんな」に重なる複数のイメージがもたらす豊かな余韻が、じわじわと私の心に広がっていった。
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SPAC『マハーバーラタ』アヴィニョン演劇祭公演

◎異国趣味と普遍性:フランスの劇評から読み取る宮城聰演出
 片山幹生

【目次】

  1.  はじめに「悦びはわれらとともに! ほら、ここに平和を見出せり!」
  2.  アヴィニョン演劇祭とは何か
  3.  ブルック『マハーバーラタ』の幻影
  4.  観客を取り囲む舞台
  5.  音楽
  6.  甘美な童話の世界へ
  7.  卓越した俳優の技術、ユーモア、そして阿部一徳の語り
  8.  絶賛の声
  9. 「詩的で政治的なフェスティヴァル」の実現:教皇庁前広場での無料特別公演の反響
  10.  総括:ジャポニスム、オリアンタリスムから普遍へ
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クロード・レジ演出、SPAC『室内』アヴィニョン公演

◎喧噪のなかの静寂
 片山幹生

 『室内』の公演会場は、城壁で囲まれたアヴィニョンの中心街からバスに乗って25分ほど行ったところにあった。フェスティヴァルで活気づくアヴィニョン市壁内の狂騒とは無縁の静かでがらんとした場所だ。モンファヴェという郊外の小さな町にあるそのホールは、日本の地方都市にでもありそうな無機的で特徴の乏しい多目的ホールだった。クロード・レジが2009年のアヴィニョン演劇祭で『彼方へ 海の讃歌』を上演したときに使ったのもこの会場だった。
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連載「もう一度見たい舞台」第5回

◎演劇集団キャラメルボックス「スキップ」
 片山幹生

 2003年の9月末、フランスに留学中だった私は心筋梗塞で入院し、手術を受けた。フランスの大学で博士課程の一年目に取得可能な学位であるDEA(専門研究課程修了証書)の論文を提出した直後だった。学位取得後、この年の12月に帰国。医学的他覚所見では順調に回復していると医者からは言われていたのだが、30代なかばで思いもよらぬ大病に襲われたショックは、自分が思っていた以上に心身に大きなダメージをもたらしていたのか、結局、一年間ぐらいは体調が思わしくなく、外出もままならぬ状態が続いた。
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Port B「東京ヘテロトピア」

◎〈アジア〉をキーワードに東京を旅する
 片山幹生

 [撮影=片山幹生]
[撮影=片山幹生]

 Port Bの「東京ヘテロトピア」は、まず東京芸術劇場の1階ロビーで、チケットと引き換えにガイドブックと携帯ラジオを受け取るところから始まる。ガイドブックには13箇所のスポットが、各箇所見開き2ページで紹介されている。参加者はこのガイドブックの記述を頼りに、ラジオを持って各スポットに向かう。立ち寄った現場でその場所に関わる「物語」をラジオを通して聞く。各地点でラジオから聞こえてくるのは、東京にやって来たアジアの異邦人に関わる物語である。

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西東京市立田無第四中学校演劇部「あゆみ」

◎中学演劇の「あゆみ」─ 無名性がもたらすかがやき
 片山幹生
 
さまざまな「あゆみ」
 
 「あゆみ」はとりわけ思春期前半の少女を想起させないだろうか?
 柴幸男の代表作「あゆみ」は、ひとりの女性のライフステージの各段階を、日常的なエピソードの再現によって提示する作品だ。乳児期から老年期まであらゆる年代のあゆみが登場するのだが、そのなかでも最も印象的なのが少女期のあゆみではないだろうか?
 第64回東京都中学校連合演劇発表会(これは実質的に中学演劇の都大会に相当する)の第4日目にあたる2014年1月13日に、西東京市立田無第四中学校演劇部の「あゆみ」を見た。私はこれまで5つのバージョンの「あゆみ」を見ているが、田無第四中演劇部の「あゆみ」は、これまで私が見た「あゆみ」のなかで最も素朴で、そしてその素朴さゆえに最も美しく、感動的な「あゆみ」だった。
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こまばアゴラ劇場「韓国現代戯曲連続上演」/タイニイアリス「韓国新人劇作家シリーズ第二弾」

◎6編の小品から浮かび上がる韓国の今
 片山 幹生

 ネットやマスコミでは対立と憎悪がグロテスクに強調されることが多い日韓関係だが、小劇場の世界の日韓交流はかなり積極的に行われ、充実した成果を生み出している。この劇評では、昨年11月に行われた『韓国現代戯曲連続上演』(こまばアゴラ劇場)と『韓国新人劇作家シリーズ第二弾』(タイニイアリス)の上演作品を取り上げたい。このふたつの企画では、韓国の若手作家の短編戯曲が、異なる演出家の演出によって三本ずつ上演された。韓国の若い世代の演劇の雰囲気を感じとることのできる好企画である。韓国では、いくつかある主要新聞社が主催する文芸賞の戯曲部門で受賞することが、プロの劇作家の登竜門となっているとのことだ。このふたつの公演企画で上演された六作品は、いずれも新聞社の戯曲賞の受賞作である。ナンセンスな不条理劇も含め、どの作品にも現代の韓国社会のリアリティが反映されていた。

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渡辺源四郎商店「オトナの高校演劇祭」

◎高校演劇と小劇場の架け橋
  片山幹生

高校演劇の挑戦

 東京公演の最初の演目、「修学旅行~TJ-REMIX Ver.」の開演の40分ぐらい前に会場のザ・スズナリに到着したのだが、いつものザ・スズナリでの公演の開場前とは雰囲気が違う。ザ・スズナリの建物の周囲に行列ができている。高校生のグループや高校演劇関係者らしき人たちが行列を作っているのだ。そして小劇場ファンらしき人たちもそのなかに交じっている。
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親子演劇ガイド

◎小劇場ファンのための親子演劇ガイド
 片山幹生

1.発端

 2005年12月に演劇集団円のこどもステージ『おばけリンゴ』を、両国のシアターχで娘と一緒に見たときのことはいまだはっきりと覚えている。舞台上で生成するあらゆる出来事に目を輝かせて見入り、いちいち律儀に反応を示す子供の様子をそばで眺めるのは、芝居そのもの以上に私の気分を高揚させる体験だった。娘が5歳になるころから12歳になった現在まで、平均すると大体、一年に10回ぐらいは子供と芝居を見に行っている。子供と一緒に見る演劇は、私の観劇生活のなかでも重要なものになっている。
 子ども劇場などの観劇団体に関わっている方などには、子供向けの演劇作品に長年にわたり数多く接し、私などよりはるかにその世界に精通している方が多いはずだ。この記事は東京に住む一小劇場ファンの観点からの私的で主観的な子供向け演劇の世界の紹介にすぎないことを最初にお断りしておく。
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映画「演劇1」「演劇2」(想田和弘監督)

 平田オリザと青年団の世界を描いた想田和弘監督の「観察映画」、『演劇1』『演劇2』が、第34回ナント三大陸映画祭(2012年11月)のコンペティション部門で、「若い審査員賞」を受賞しました。この映画祭での上映について、フランスの映画批評サイトに掲載された映画評を、片山幹生さんが翻訳、提供してくださいました。
 ワンダーランドでも昨年10月に、想田和弘監督のインタビューを掲載しています。>>
(編集部)
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