東京デスロック「モラトリアム」

◎観察者(遊歩者)たちの8時間
 藤原ちから

 東京デスロックの新作『シンポジウム』(2013.7)に出演することになった。舞台を観て批評を書くはずの人間が、その舞台に立ってしまうということに、ある一線を超えていくというか、未知の領域へとわたっていく感覚もあり、今からとても楽しみなのだが、その前に、ずっとくすぶっていた宿題を終わらせようと思う。
 それは、ほぼ1年前に上演された『モラトリアム』について書くこと。8時間にも及んだあの作品を体験して以来、どうやらわたしの中には、何かそれまでにない感覚が芽生えているらしい。その正体に迫ってみたいと思った。
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庭劇団ペニノ「大きなトランクの中の箱」

◎平成のオイディプス
  堀切克洋

公演チラシ
「大きなトランクの中の箱」公演チラシ

 2000年代の日本において、青山の自宅アパートを改造して舞台装置を作り込み、公演の準備を行うような真似をしていたのは、タニノクロウの庭劇団ペニノくらいだっただろう。
 維新派の松本雄吉の命名によって「はこぶね」という名を与えられたこの小さな部屋は、やがてわずか数十名の観客を招き入れ、いわゆるアトリエ公演を行うようになった。『小さなリンボのレストラン』(2004年)、『苛々する大人の絵本』(2008年)、そして『誰も知らない貴方の部屋』(2012年)の三作品がそれだが、建物の老朽化と大震災による障害によってこのアトリエが取り壊されることとなり、タニノはこの三つの作品をひとつの「箱」に詰め込んで上演することを決めた。それが、『大きなトランクの中の箱』(2013年4月12日-29日、森下スタジオBスタジオ)という作品である(*)。
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小西耕一ひとり芝居「既成事実」

◎彼はたったひとりで選択を山積みする
 ハセガワアユム

「既成事実」公演チラシ
「既成事実」公演チラシ

 作家が物語を紡ぐ際、自分の人生をどれくらい切り売りするのか。物語を書き発表し続けていると、人生のどの断面が面白くなるのか、どの部分をどれほど混ぜればちょうどいい濃度になるのかコントロールするようになる。でないと人生に対して創作が追いつかなくなってしまうからだ。小西耕一は作家ではなく俳優である。それ故にか、本作は尋常じゃない人生の濃度が満ちていた。当日パンフレットの文章に記載されていたのは、「何故自分がこんなにも女性に対して傷つける言葉を吐いてしまうのか」という探求。また幼少期における両親の離婚、別れた父親への小さな言及、去ってしまった人間関係は取り戻せないこと、などが並ぶ。これはこれから始まる芝居の答えになってしまう可能性があると、僕はそっと閉じた。危ない危ない。たいてい普通のパンフレットは作家の超どうでもいい挨拶が多いのだけれど、いくら作家じゃないからって、もうなんなんだよ、いきなりこの濃さは、と苦笑していると幕が開いた。
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八幡東区役所×のこされ劇場≡「鐵いろの狂詩曲(ラプソディ)」

◎八幡の街と人を寿ぐ
  廣澤梓

「鐵いろの狂詩曲」公演チラシ
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 隙あらば、何かやってやろうと機会を伺って、無邪気に企み顔の俳優たち。平均年齢は70歳を超える。

 よく晴れた空の下、会場である八幡市民会館前の駐車場で、車の誘導をしていた人も、それくらいの年齢だった。どちらにおいでですか、と声をかけられ、劇を見にこちらへ、と市民会館を指差すと、男性はすこし意外に思ったようだった。会場の大ホールに行くには階段を上る必要があった。古い施設のため、エレベーターはない。開演前には手すりにつかまり、スタッフに支えられながら一歩一歩歩みを進めるお年寄りの姿を目にした。そして、大ホールに入るとそこに集う人々のほとんども高齢者なのであった。
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TPAM in Yokohama 2013

◎TPAMエクスチェンジ「地域演劇」グループミーティングレポート
  廣澤 梓

 TPAMが開催地を東京から横浜に移して3年目の今年。それは名称を「東京芸術見本市」(Market)から「国際舞台芸術ミーティング」(Meeting)に変更して3年ということでもある。
 提携事業としてON-PAM(舞台芸術制作者オープンネットワーク)の設立イベントが行われたこともあり、2013年のTPAMは舞台制作者のネットワーク作りの場という性格をより打ち出そうとしていたのではないか。
 ネットワーキング・プログラムの一環として開催されたTPAMエクスチェンジは、青年団・こまばアゴラ劇場の制作であり、ON-PAMの発起人のひとりでもある野村政之さんがファシリテーターを務めた。
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マームとジプシー「あ、ストレンジャー」

◎むうちゃんとゾンビとキリストとを巡って
  福田夏樹

 今度はグアムで無差別殺傷事件が起きた。常夏の島グアムでの深夜の事件。
 ワイドショーでは、金か、薬物中毒か、男女関係か、納得のいく動機を探すのに必死だ。そしてコメンテーターは問う。「グアムには死刑はないんですよね。」。関心は、犯人にいかに厳罰を科すか、願わくば、極刑を科すことができないか。その点に集中する。果たして、犯人に厳罰を科すことで得られるものはなんなのか。犯人はただの罰すべき他者なのだろうか。
 そんなことを考えながら、犯行後に座り込む犯人の姿をテレビにみていると、むうちゃんの姿を思い出さざるをえなかった。
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鵺的「幻戯[改訂版]」

◎ ひとりの人間を見続ける
  林あまり

「幻戯」公演チラシ
「幻戯」公演チラシ

 嬉しいほど暗い。ひとりの人間を見続ける、その行為を堪能した。
 鵺的「幻戲」(作・演出 高木登)を観てから、ひと月近く経つというのに、幾度もあの、濃密な空間を思い出す。様々な場面、セリフがよみがえっては、(あれはどういう意味なんだろう)と考え込む。
 性の芝居、なのだろうか。確かに、舞台は売春宿だし、登場人物がたびたび話題にするのはセックスだ。しかしどうもそれだけではないらしい。
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北九州芸術劇場プロデュース「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」

◎水底で踊れ
  藤倉秀彦

公演チラシ
公演チラシ

 『LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望』(作・演出/藤田貴大、於あうるすぽっと)について書く。本作はマームとジプシー主宰の藤田貴大が、北九州芸術劇場企画のプロデュース公演のために作・演出を担当した舞台である。二十人の役者のうち尾野島慎太朗ほか数名は、マームの芝居の常連だが、その以外の大半はオーディションによって選ばれたようである。
 舞台は北九州小倉。ひさしぶりに小倉に戻ってきた男が、かつての友人や知人と再会したり、少年時代の記憶を甦らせたり、という流れを中心に、小倉で暮らすさまざまな男女の人生を、藤田貴大お得意の〝リフレイン〟の手法で点描する群像劇である。
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舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングレポート

舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングレポート
◎制作者による、ヒエラルキーのないネットワーク組織の立ち上げに向けて
 藤原顕太

 2012年10月22日、京都にて、同時代の舞台芸術に携わる制作者の国際的ネットワーク組織「舞台芸術制作者オープンネットワーク」立ち上げに向けたミーティングが開催されました(注1・2)。
 集まった参加者は、89人。活動拠点や立場はそれぞれ異なるものの、舞台制作に何かしらかの形で関係する人々です。
 このミーティングの発起人は、それぞれ異なる立場で舞台芸術の制作に携わる12名で、以下のような立場あるいは集団にかかわってきたメンバーです(注2)。
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イチゲキ活動報告

◎イチゲキ-観客による演劇の「語り場」構想
  廣澤 梓

 イチゲキは2010年の11月に「ひとりの会」(=ひとり観劇者の会)として、劇場にひとりで演劇を見に来た者どうしがTwitterを通じて知り合い、実際に会って話をするということを想定して始まった。私が演劇を定期的に見るようになって5年。開演前には黙々とチラシの束を見て過ごし、芝居が終わればさっとその場を後にする。劇場でそんなことを繰り返すことにも飽きてきたその頃、目に付くようになったのは、自分と同じようにひとりで来ている観客の存在だった。この人たちは一体何者なのか、よく劇場に来るのか、普段どういった公演を見ているのか。同じ観客として、彼らがどのように演劇と関わっているのかに興味を持った。隣にいる彼らと話をしてみたい―そんな個人的な思いからひとりで始めたイチゲキは現在5人で運営を行っている。本稿ではこのイチゲキの活動について紹介していきたい。
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