イチゲキ活動報告

◎イチゲキ-観客による演劇の「語り場」構想
  廣澤 梓

 イチゲキは2010年の11月に「ひとりの会」(=ひとり観劇者の会)として、劇場にひとりで演劇を見に来た者どうしがTwitterを通じて知り合い、実際に会って話をするということを想定して始まった。私が演劇を定期的に見るようになって5年。開演前には黙々とチラシの束を見て過ごし、芝居が終わればさっとその場を後にする。劇場でそんなことを繰り返すことにも飽きてきたその頃、目に付くようになったのは、自分と同じようにひとりで来ている観客の存在だった。この人たちは一体何者なのか、よく劇場に来るのか、普段どういった公演を見ているのか。同じ観客として、彼らがどのように演劇と関わっているのかに興味を持った。隣にいる彼らと話をしてみたい―そんな個人的な思いからひとりで始めたイチゲキは現在5人で運営を行っている。本稿ではこのイチゲキの活動について紹介していきたい。

■イチゲキとは

 現在イチゲキは、「演劇をはじめとする舞台について観客どうしが話をする場所をつくる」ことを目的に、主にTwitter上で活動している。Twitterはツイートと呼ばれる140字以内の文章を投稿できるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるが、その投稿にハッシュタグと呼ばれる「♯」で始まる文字列を付けることで、それらを一覧することができる。Twitterアカウント@1_gekiは先の5名によって共有されており、ハッシュタグの仕組みを利用した「#1geki」付きのツイート投稿の呼びかけなどを行っている。5名は皆観劇が趣味で、それぞれの仕事をしながら、イチゲキの活動に携わっている。呼びかける対象を、また自分たち自身をも観客であるとしていることから、この活動を通じて実際に出会った人たちは、観客として演劇に関わってきたという人が多い。そんな彼らから聞こえてくるのは、今まで演劇について誰かと話す機会を持ったことがほとんどなかった、ということだ。

 演劇に関わる人の交流の場のほとんどは、劇作家・演出家や俳優、照明や音響などの各セクションのスタッフ、制作、そして劇場スタッフなど演劇作品を創作する、いわゆる作り手を対象にしたものである。しかし、演劇はこれらの作り手だけで完結する出来事ではなく、そこに観客が集まってきて初めて成立すると考える。このとき、観客も演劇という場にとっての当事者であると言えるのではないか。参加型演劇に顕著なように、作品の構造自体に観客の存在が組み込まれているような演劇に触れる機会も増え、そのような中ではまさに自らの体験として演劇を思考する必要があると認識している。それには他者に対して演劇経験を語り、また他者のそれを聞くということが有効なのではないか。イチゲキはこのような考えのもと、観客の対話の場をつくりたいと思っている。

■具体的な活動として

 #1geki付きのツイートの多くは「今から○○(公演名)を観ます」という内容のものだ。これを運営アカウントの投稿を定期購読しているフォロワー(2013年1月現在900名弱)に逐一知らせ(リツイートし)、同じ公演を見にきているフォロワーどうしがこれをきっかけにコンタクトをとり、観劇の前後に劇場で出会って話をすることを提案している。運営メンバーや一部のフォロワーについては、実際にそのような機会を得ている。しかし、それを実現するためにはかなり意識的にツイートを追わなければならないし、また赤の他人どうしが声をかけあう行為に躊躇するということもあるようで、なかなか思ったとおりにはいかない。そもそも日々膨大な数の公演が行われている中、同じ時間・場所にいるひとのツイートを目撃する確率は、一部の話題公演を除き、とても低いというのが現状だ。

 そういった状況に対して行っているのが「#1geki OFF」(オフ会)で、これまで計10回開催している。その中からいくつか紹介すると、「ままごと『わが星』を語る会」(2011年7月)は岸田國士戯曲賞を受賞した『わが星』が再演され、#1gekiツイートでも目にする機会が多かったことを受けて開催した。また「維新派を観たあと、みんなで呑む会」(同年10月)はその名の通り観劇をしたのちに行ったもので、総勢13人による維新派語りが実現した。維新派を10年以上継続して見ている人と、初めて見たという人が入り混ざって、それぞれの立場からの話が聞けたことが印象的だった。フェスティバル/トーキョー12の開幕前に行った「F/T12をもっと楽しむ!!イェリネク勉強会」(2012年10月)では、誰一人として専門的な話ができる参加者がいない中で、難解と言われるエルフリーデ・イェリネクのテキストを事前に読み、そのことについて話をするという無謀とも言える企画であった。しかし、このおかげで上演への理解が深まり、より楽しめたという声を聞くことができた。イチゲキフォロワーがこれらオフ会での交流をきっかけに、劇場で会って話をする機会は、徐々にではあるがつくれているように思う。

 しかし、フォロワーの中には実際に出会うことを期待していない人も多い。出会うためには能動的に働きかける必要があるが、大多数の人はツイートを見ているだけである。だが、そんな彼らがイチゲキのツイートを追っている理由に、現在上演されている公演情報を得るため、ということもあるようだ。前述したように#1gekiツイートのほとんどは今まさに観劇ファンが見に行こうとしている公演を伝える。演劇関連のハッシュタグは「#engeki」を始めいくつもあるが、それらが作り手の情報発信に使われていることが多い中で、イチゲキは観客主体の活動であることを強調しており、観客目線のある程度信頼のおけるものとして利用されているという側面はあるようだ。(Togetter「イチゲキの今後を考える」参照)

 #1gekiとは別に期間限定で運営したハッシュタグに、「#2012年の舞台Best3」がある。これは去年に引き続き2年目の企画で、フォロワーに1年間に見た作品の中からよかったと思うものを3本選んでもらうというものだ。(2011年のまとめはこちら>>)年間の観劇回数の多い少ないに関係なく、演劇に興味がある誰もが気軽に1年の演劇体験を振り返り、自己ベストを挙げている。これを見ていると一口に「舞台」と言っても、大規模なホールから小劇場といった規模だけでなく、歌舞伎などの古典芸能やダンス、はたまた音楽のライブまで上がってきて、その多様さには驚かされる。これだけの振れ幅のある作品群が「舞台」という括りによって呼び起され、またそれらを見ているファンの存在が知れて興味深い内容になっている。今年も昨年同様400近いBest3ツイートがポストされた。

■イチゲキの今後

 これまでに紹介してきた事柄については、フォロワー数、タグ付きツイート数、オフ会参加者数をそれぞれ増やしていくことで強化していきたいと考えている。しかし、そのための整備はまだ十分ではない。例えばどのような目的で活動し、そのために実践してきたことを知ってもらうためのポータルサイトの準備は急務である。またタグ付きツイートの投稿・閲覧がより手軽にできるようスマートフォンやタブレット用のアプリ等のツールも必要になるだろう。またオンライン上の観客の語り場としての#1gekiをより充実させるためにTwitterを利用した一行レビューサイトを手掛ける予定である。

 更には観客の集まりとしてのイチゲキを、観客の様々な試みを気軽に試せる場として利用することも提案していきたい。例えば私がこれまでに呼びかけ実行した企画に、「チェーホフ『かもめ』を丸ごと読む会」(2012年4月)、「渋谷駅でイェリネク『光のない。』を読む会」(同年12月)がある。誰かにパフォーマンスを見せたいということではなく、ただ戯曲の言葉を音読して場にもたらしたときに、読む人にどういう変化が起こるか、あるいは見え方がどう変わるかということを確かめたいと行ったものだ。演劇ワークショップなどの機会の多くもまた作り手を対象としており、一般参加可能なものは徐々に増えてはいるものの未だに限られている。そんな中技術の習得を目的とせず、また同じ観客による呼びかけでもっと気軽に実践する機会はあってもよいのではないかと考え、イチゲキで継続してやっていきたいことのひとつである。

 先の「『わが星』を語る会」に見られるような、特定の作品について話をしたい観客が集まる機会は運営側だけでなく、昨年からはフォロワーからの呼びかけによって起こるということが出てきた。(2012年8月@leggodtlegoによる「クロムモリブデン『進化とみなしていいでしょう』を語る会」、同年12月@fuzzkeyによる「Port B『光のないⅡ』を語る会」)イチゲキは誰にとってもアクセスできる観客の集まりでありたいと思う。様々な企画がフォロワー中心に行われるようになり、小規模でもより頻度を増していくことを期待している。それに関連して、ゆくゆくは東京以外の地域の観客の間でもイチゲキの活動が起こればと考えている。

 これまでに挙げたことについては、作り手に比べて観客が横でつながれるような機会が少ないとの認識から行っているが、これからは劇団・劇場側と連携が図れるような体制や企画にも取り組んでいきたい。例えば公演のアフタートークをイチゲキ主導で、つまり観客主導で行うということは試してみたいことのひとつである。これらの多くは作り手(多くの場合演出家)が観客に質問を求める形で進められるが、質問がなかなか出ないという場面に遭遇することが度々ある。大勢の前で発言することが恥ずかしいのとは別に、観客が遠慮してしまうという理由もあるのではないかと思う。だが、先に述べたように劇場は作り手と観客が集まる場所であるとすると、お互いに発言しコミュニケーションがとれるほうが演劇の場においてはよいのではないか。そもそもイチゲキの様々な活動は、このための準備であると言ってもよい。まずは観客が演劇体験を他者と語り思考すること。そのような観客がひとりでも増え、劇場がより一層の対話が生まれる場になればと考えている。

【筆者略歴】
 廣澤梓(ひろさわ・あずさ)
 1985年生まれ。山口県出身。大学在学中に上演芸術、特に演劇に興味を持つ。以来、観客として上演の場にいること、あるいは観客を含めたものとしての演劇のあり方に注目している。2008年より百貨店勤務。2010年秋より「イチゲキ」(http://1geki.com/ )を始める。2012年秋には「Blog Camp in F/T」に参加する。


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