連載企画「外国人が見る小劇場」番外寄稿

 この企画にはすでに5人の方々が登場しました。国別でいうと、韓国、ルーマニア、カナダ、イタリア、ドイツ。いずれもインタビューでした。今回は番外の特別寄稿です。筆者は、ドイツのセバスティアン・ブロイさん。昨年末にインタビューを申し込み、数度の遣り取りを経て、寄稿形式でまとめてもらうことになりました。その間の経緯はブロイさんが原稿の冒頭で触れています。
 「異なる文化的背景で育った『眼』を通してみると、日本発の舞台芸術がはらむ意外な特徴が浮かんでくるかもしれない」との企画趣旨でした。欧米だけでなく、中国や東南アジアの方とも折衝しましたが、今回は残念ながらアジアは韓国の方だけになりました。しかし限られた「眼」に照らされるにしても、(日本の)「小劇場の意外な特徴」がいくつも浮かんできました。今回の番外寄稿で「小劇場の魅力、可能性、限界」がさらに掘り深く明らかになるのではないでしょうか。(編集部)

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コンブリ団「ガイドブック」

◎煙に巻かれる
 林 伸弥

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 Bright Eyesというオクラホマのバンドがあって中学生の頃から愛聴しているのだけれど、このバンドの中心人物であるコナー・オバーストはいつも同じことばかり歌っている。僕なりの言葉で要約すれば、

 好むと好まざるとにかかわらず、あなたに出会った瞬間に僕とあなたの関係はすでに終わっている。
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ポツドール「愛の渦」パリ公演

◎饗宴の外側にあるもの
 堀切克洋

 ポツドールの作品が、フランスで初めて上演された。上演作品は、2006年に岸田國士戯曲賞を受賞した三浦大輔の出世作、『愛の渦』(2005年)だ。

 ポツドールが、2010年に初めて海外公演(ベルリン)を行った際に選んだ作品は『夢の城』(2006年)であり、2011年夏にブリュッセル、ウィーン、モントリオールで、同年冬にミュンヘンで公演が行われた際にも同様であった。それは端的に、狭小かつ乱雑なアパートの一室で繰り広げられる若者たちの生態が「無言劇」というスタイルによって描かれているからであろう。

 同様の(無言劇的な)スタイルは部分的に見られるとしても、基本的に役者たちの台詞と演技によって構成される『愛の渦』が海外で上演されたのは、去年のベルリン公演が初めてのことだった。今回のフランス上演は、その流れにつづくものである。連日満員の客席には、日本とはやや様子が違って、比較的年齢の高いインテリ層の観客が座席を占めていたようである。
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◇墨田区在住アトレウス家 Part 1&2/豊島区在住アトレウス家/三宅島在住アトレウス家《山手篇》《三宅島篇》

◎アトレウス家の過ごし方 その3(座談会)
斉島明/中村みなみ/日夏ユタカ/廣澤梓

■わりと普通になってしまった

廣澤:10月にワンダーランドに掲載した「アトレウス家の過ごし方」その1、その2は、2010年より始まった「アトレウス家」シリーズについて、それらを体験した観客の側から、思い思いに過ごした時間を示し、また考えることはできないか、と企画したものです。

アトレウス家の過ごし方 その1
アトレウス家の過ごし方 その2

 今日はその執筆メンバーに集まっていただきました。この座談会について、まずは発案者の日夏さんよりお話いただけますか。
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東京芸術劇場「God save the Queen」

◎新しい女性性を巡って(鼎談)
 落雅季子+藤原央登 +前田愛実

 2011年に大きな話題を集めた芸劇eyes番外編「20年安泰。」。ジエン社、バナナ学園純情乙女組、範宙遊泳、マームとジプシー、ロロの五団体が、20分の作品をショーケース形式で見せる公演でした。それに次いで今年9月に上演されたのが、第二弾「God save the Queen」です。今回の五劇団を率いるのは、同じく若手でも女性ばかり。そのことにも着目しながら、この舞台について三人の方に語っていただきました。(編集部)
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『観る身体』身体×カメラワークショップ by 岩渕貞太

◎ダンスを観る、撮す、生まれる
 日夏ユタカ×廣澤梓

●踊らない、ダンスのワークショップ

 それはちょっと珍しいダンスのワークショップだった。参加者がまったく、踊らないのだ。いわゆる、ダンス的な動きを求められることもない。
 それでも舞台はあって、照明も灯り、録音された音楽が流れるなか、ダンサーの岩渕貞太がひとり、踊る。それは以前、おなじくSTスポットで上演された岩渕の作品である『living』のワンシーン。時間にすれば10分程度、それが3回繰り返された。

 ワークショップの約10名ほどの参加者は、1回目は、設えられた観客席にただ座って、岩渕が踊るのをみていた。2回目と3回目のダンスについては、持参したカメラでその様子を撮影する。
 ただし、『living』はその場で繰りだされる音を聞きながら即興的に踊る作品である。また、岩渕の作品は、本人曰く、「触媒によって変わるところがあるダンス」でもある。ワークショップではCDにパッケージ化されている音楽※を再生し、それ自体は変化しないものの、作品の特性上、写真を撮影する参加者が発する音や気配、動きにも影響されるため、3回とも、似てはいるけれども、まるでちがうダンスになる。
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NPO法人向島学会×東京アートポイント計画「墨田区在住アトレウス家」Part 1&2

◎アトレウス家の過ごし方 その1
 中村みなみ/日夏ユタカ

 アトレウス家はギリシャの神話や演劇に登場する家族である。一家が現代の東京に住んでいたら?—このような発想から始まったという「アトレウス家」のプロジェクトは2010年にスタートした。『墨田区在住アトレウス家』『豊島区在住アトレウス家』『三宅島在住アトレウス家』と上演の度に名前を変え、一家は住む場所を変えてきた。

 上演は住む人がいなくなった民家、地域の複合文化施設、島の林道などで、いわゆる劇場では行われない。つまり、ここにいれば全てを見通せるという点は設定されていない。そこでは観客が、何を見聞きし、また何を見聞き逃すかを、意識的にも無意識的にも選択することになる。

 家はそこに住む人と場所の両方を意味する。「家」を標榜するこの作品は時間と空間の枠組みであり、訪れた人たちは各自でその「家」での過ごし方を模索することとなる。ここでは中村みなみ、日夏ユタカ、斉島明、廣澤梓の4名の「アトレウス家」での時間を紹介します。
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アートネットワーク・ジャパン×東京アートポイント計画「豊島区在住アトレウス家」
ミクストメディア・プロダクト×東京アートポイント計画「三宅島在住アトレウス家」

◎アトレウス家の過ごし方 その2
 廣澤梓/斉島明

toshima_dm2『墨田区在住アトレウス家』はPart 1,2ののち、2011年3月にPart 3×4が予定されていたが、折しも起こった震災によって中止となった。それまでの上演場所であった2階建ての木造家屋「旧アトレウス家」を離れ、作品は大きく変化する。住居ではなく公共施設に、さらには本土を離れ三宅島に住むことになった一家の物語は、「家やまちを見つめ、考える」プロジェクトとして、より一層その性格を際立たせていくこととなる。
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ミナモザ「彼らの敵」

◎「敵」は自分のなかにいる
 堀切克洋

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「彼らの敵」公演チラシ

 ミナモザ(瀬戸山美咲主宰)のホームページに、2013年7月に上演された『彼らの敵』の舞台写真が掲載されている。
 ご覧いただけたであろうか。掲載写真は、実に120枚近くにも及んでいる。おそらく、劇団ホームページに掲載されている一公演の写真の点数としては異例の数であろう。これらの写真を撮影した写真家の名前は、服部貴康。本作の主人公のモティーフになった人物である。
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はえぎわ「ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~」

◎男と女の「典型」を描き出す
 堀切克洋

公演チラシ
公演チラシ

 劇団はえぎわを主宰するノゾエ征爾は、今年2月に『○○トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞している。ノゾエを含めた三名に対する同時授賞は、審査員のひとりである野田秀樹の言葉を借りれば、「選考会の混迷ぶり」を示すものでもあった。が、同時に野田は、ノゾエが「去年、受賞するべき作家だった」から「ノゾエ氏の受賞そのものには異論はない」とも述べている。
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