二騎の会「F」

◎閉ざされた世界の底にわずかに残る演劇の希望
柳沢望

二騎の会「F」公演チラシ宮森さつきの脚本による『F』は未来社会を舞台にしたSF仕立ての二人芝居で、設定上、ある少女とその世話をするアンドロイドがホテルの一室のような場所にほとんど閉じこもって過ごす一年に満たない日々を、四季をたどる四つのシーンで描いていく。設定の突飛さを除くと、アンドロイドと少女二人の会話によって描かれていくシーンは、ごく日常的な情景と言っていい。今回の初演では、端田新菜が少女を演じ、多田淳之介がアンドロイドを演じた。演出は木崎友紀子。

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東京デスロック「ROMEO & JULIET」KOREA ver.

◎コンテクストを宙吊りにするゲームの可能性
柳沢望

「ROMEO & JULIET」公演チラシ東京デスロックを主宰する多田淳之介が演出し、韓国人俳優たちと作り上げた『ROMEO & JULIET』KOREA ver.を見た。これは、韓国で制作されて評判を呼び、再演もされた舞台作品の「キラリ☆ふじみ」上演版だ。多田淳之介は埼玉県富士見市の公共劇場「キラリ☆ふじみ」の次の芸術監督に決まっている。今回の上演は、いわばそのお披露目的な意味合いもあるのだろう。

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劇団どくんご「ただちに犬 Deluxe」

◎美しく正確な演劇
柳沢望

「ただちに犬 Deluxe」公演チラシ今年の5月から、移動テントで全国各地をツアーしている劇団どくんごによる舞台作品「ただちに犬 Deluxe」。その、埼玉(浦和美園)での公演を見た(9月20日)。私などは、テント芝居なんて聞くと、一昔前のものという風に思ってしまいがちだけれど、移動するという条件において研ぎ澄まされるものもあるのだ、と直に見せつけられた感じだ。

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劇団、江本純子「セクシードライバー」

◎脱線しまくりの超リアル不条理会話劇 歌や踊り封印の新ユニットで
山内哲夫

「セクシードライバー」公演チラシ劇団、江本純子の第1回公演は、前田司郎と安藤玉恵という小劇場界の注目役者の顔合わせが実現した「セクシードライバー」。第0回公演「まじめな話」に続く、渋谷のギャラリールデコでの3日間の公演である。三島賞受賞直後で、しかも役者として珍しい外部出演となる前田司郎。一方の、ポツドールの中心役者だった安藤玉恵 は、2年3ヶ月ぶりの舞台復帰作となった。クレーマーにしてストーカーな女と、ダメっぷり満点の純愛タクシードライバーの脱線しまくりの会話に圧倒される、湾岸の工事現場を舞台にしたコミカルな不条理劇風会話劇である。

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二騎の会「一月三日、木村家の人々」

◎訪れるものの形象、宙吊りの悲喜劇
柳沢望

「一月三日、木村家の人々」公演チラシ『一月三日、木村家の人々』は、介護に疲れた30代独身の娘が認知症の父親を巻き込んで心中をはかる場面から始まる。とはいえ、この戯曲をある種社会派的なリアリズムとして受け取るべきではない。そうすれば、中途半端な出来と評価するほかは無い。

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「キレなかった14才 りたーんず」

「キレなかった14才 りたーんず」、あるいは演劇の再起動
柳沢望

「キレなかった14才 りたーんず」公演チラシ1.「りたーんず」の企画趣旨

2009年4月16日から5月6日まで開催された「キレなかった14才りたーんず」(以下、「りたーんず」と呼ぶ)は、1982年に生まれた演出家5人と1984年生まれ1人が、東京駒場のアゴラ劇場でそれぞれに舞台の新作を発表した企画だ。

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河村美雪+伊東沙保+岸井大輔「play away」

◎複数的な創造プロセスを切り出すパフォーマンス
柳沢望

様々な舞台芸術を見続けてきて、良い舞台を見たときだけに生まれてくる、特有の感覚が私にはある。
それは、舞台の空間がしんと静まり返り、時間の感覚がどこまでも透明になって、意識の集中が空間全体に広がるような、そんな感覚だ。いつだって、その感覚を探して、舞台を追いかけてきた。
『play away』の上演中、まさに、その感覚に包まれた。そのゆえんを探ってみたい。

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横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」

◎リーディングの枠を超えた4本、幅広く多彩に
山田ちよ(演劇ライター)

「三島由紀夫を読む!」公演チラシ1人の作家を取り上げ、3~4人の演出家がその作品の中から選んで、リーディング形式で1時間程度の舞台作品をつくる。これが横濱・リーディング・コレクションの基本的なスタイルだ。5回目となる今回は、三島由紀夫が選ばれ、4人の演出家が挑んだ。

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五反田団といわきからきた女子高生「あらわれる、飛んでみる、いなくなる。」

◎間抜けでぬるい感覚が嬉しい復活 08年の最後にノイズ系最大の成功作
山内哲夫(編集者)

「あらわれる、飛んでみる、いなくなる。」公演チラシ昨年12月に五反田のアトリエで上演された五反田団の新作「あらわれる、飛んでみる、いなくなる。」は、本来の五反田団の持ち味である、よく考えずに勘違いしたままダラダラと無駄な会話を繰り返す、若者たちの一夏をとらえた会心の一作となった。五反田団とはいえ、演じるのはいわき市の女子高校生。それでも、この作品は、五反田団の原点回帰ともいえるものだった。

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Port B「サンシャイン62」

◎ひたすら歩く、ただとにかく、前へ、前へと
米山淳一

「サンシャイン62」公演チラシPort Bのツアー・パフォーマンス『サンシャイン62』を観た。といってもこの公演、東池袋に昨年新たに出来た劇場「あうるすぽっと」を集合受付場所とはするものの、観客は劇場の客席に座って舞台を観ていればいいのではなく、むしろ大部分の時間を劇場の外、池袋の街という舞台をひたすら自らの足で歩かなくてはならない。だから観たというよりは、参加したという方がむしろ実情に即しているだろう。

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