劇団どくんご「ただちに犬 Deluxe」

◎美しく正確な演劇
柳沢望

「ただちに犬 Deluxe」公演チラシ今年の5月から、移動テントで全国各地をツアーしている劇団どくんごによる舞台作品「ただちに犬 Deluxe」。その、埼玉(浦和美園)での公演を見た(9月20日)。私などは、テント芝居なんて聞くと、一昔前のものという風に思ってしまいがちだけれど、移動するという条件において研ぎ澄まされるものもあるのだ、と直に見せつけられた感じだ。

関東での公演は終わったが、9月末の豊橋に続いて、10月1日から三日間は大阪公演、その後11月までかけて四国、九州を巡業する予定だそうだ。ぜひ、この機会を逃さず、見事に完成されたこの舞台作品を見届けて欲しい。

巡業というか、どさまわりというか、各地を移動しながら芝居を見せていくというのは、歴史を振り返れば古くからあるもので、シェイクスピアの作品でも、そうした旅の劇団が出てきたりする。フランス古典喜劇を代表するモリエールなんかも旅回りをしているし、その系譜を遡れば、いわゆるコメディア・デラルテの伝統がある。

どくんごのステージは、木の板を並べて作られただけの、能舞台より狭いくらいの簡素な舞台だった。そこで、道化めいた扮装をした老若男女5人の俳優がところ狭しと飛び跳ね、動きまわる様子を見ていたら、コメディア・デラルテというのはまさに、こんな雰囲気のものだったんじゃないか、と思った。ある意味、ストレーレルがミラノ・ピッコロ座でコメディア・デラルテの精神を蘇らせた仕事に、肩を並べると言っても大げさでないくらいに見事な、喜劇的造形の達成と言って良いと思う。

喜劇が舞台全体の基調をなしていて、冒頭から繰り返される探偵ものドラマのパロディが舞台の展開のひとつの動機をなしている。舞台にずっと出されている、抱き抱えるほどの大きさの犬のぬいぐるみが、殺人事件の犠牲者に見立てられていて、犠牲者の死体を前に犯人を指摘する場面を、役を入れ替え設定を入れ替えて変奏しながら、繰り返していく。

舞台にあらわれるそれぞれの役者があるキャラクターを演じていて、でも、そのキャラクターは、ある種の喜劇的な類型のようなものになっている。特になにかひとつ特定の物語が進行するわけでもなく、断片的に場面が提示されてゆくだけのように見える。

そうした喜劇的な構造は、まさしくコミカルに、軽妙に、ナンセンスに、進んでいくけれど、犬が犠牲にされるという祭儀的な構造もまた、舞台に貫かれている。その二重性が、舞台に見事に貫かれている。その点において、喜劇的な構造が常に上書きし、押し流し、忘却させるようなものとして、ある種悲劇的なものが見え隠れする。喜劇的な運動の中に断片化された悲劇的なものという構造において、この舞台作品は一貫していて、統一した解釈を可能にする。見事にゆるぎなく構成されている。

そう分析することができるとして、しかし、舞台に現れる言葉やイメージに難解なところや晦渋なところはないし、とてもポップに楽しめるものだ。こどもも大人も楽しめる舞台として、全国各地の芝居などあまり見たことの無いような観客からも支持されているそうだが、それもよくわかる話だ。

対話劇的な展開は、おおむね喜劇的な調子で進むのに対して、舞台の展開において、中盤以降、それぞれの役者が独りで語る場面がさしはさまれる。そのそれぞれのエピソードは、どこかノスタルジックな、童話や民話を思わせたりするようなものだったりして、それぞれ全く独立したお話として成立している。喜劇的な展開がテンポ良く運動するのに対して、ゆったりと語られどこか叙情的な味わいを残す。それぞれが、後悔を滲ませていたり、希望につながっていたり、劇的な動機を結晶化するような逸話となっている。

舞台装置の扱いも、祝祭的でありながらある種の狭さを感じさせる冒頭の状態が次第に開放されていくというような、一貫した展開を持っている。そうしたなかで、舞台の周囲の空間が、ある種の夢幻的なスペクタクルの舞台に変容させられることになる。フェリーニの映画が好きな人ならばたまらないだろう、闇の中につかの間浮かび上がる、イメージ。

この進行において、簡素な道具立てをまるで魔術的な仕方で活用することで、20世紀までに獲得された様々な演劇的技法があますところないほどフルレンジで展開されるといっても良い。

役者それぞれのパフォーマンスも、極めて正確というべきだ。声の響き、ポーズ、所作のそれぞれが、練り上げられ磨き上げられたものとしてあって、必要最低限のところで成り立っていると思う。音として心地よいセリフを聴きたいと常々思ってきたが、どくんごの芝居は聴覚的にも理想的だろう。

もちろん、視覚的にも完成されている。衣装は一見小汚いようなものだったりするけど、それも含めてキャラクターが成り立っていた。そして照明がとても美しい。持ち運び可能な範囲で最大限の効果を発揮するように、工夫が重ねられたあとに到達したベストな吊り方なのだろう。

はじめ赤を基調とした花飾りのようなものを吊って飾られていた舞台が、そうした飾りを除いていった最後に、舞台の天井に青いパネルひとつが残される。その青が舞台に対して視覚的な効果を与えるということもあるのだろうし、あるいは、モノローグで語られる空をかたどってもいるのだろう。その青いパネルの下で、喜劇的な場面展開において、いれかわりたちかわり、白い犬のぬいぐるみは、クッションのように愛らしく作られた赤い詰め物のひとつひとつを抜き取られていく。青空の下に晒される臓物。その様子は、すこしだけ現実の大参事を連想させるようなモノローグの内容とも関連しながら、ひそかに、犠牲というテーマを響かせていたのかもしれない。
(初出:マガジン・ワンダーランド第159号[まぐまぐ!, melma!]、2009年9月30日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
柳沢望(やなぎさわ・のぞみ)
1972年生まれ長野県出身。法政大学大学院博士課程(哲学)単位取得退学。個人ブログ「白鳥のめがね」。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ya/yanagisawa-nozomi/

【上演記録】
劇団どくんご「ただちに犬 Deluxe
浦和美園駅前テント公演(2009年9月20日-21日)
全国公演スケジュール
大阪・大阪城公園 太陽の広場(2009年10月1日-3日)
淡路島(兵庫)・洲本市防災公園(10月7日)
徳島・徳島中央公園 鷲の門広場(10月11日-12日)
丸亀(香川)・廃材天国(10月17日)
今治(愛媛)・唐子浜パーク跡(10月23日-24日)、以下年末まで各地を巡演。

出演:暗悪健太 五月うか 時折旬 丹生みほし まほ
構成・演出:どいの
演奏・撮影:プラスマイナスゼロ
エグゼクティブ・アドバイザー:かえちん
制作:黄色い複素平面社


「劇団どくんご「ただちに犬 Deluxe」」への4件のフィードバック

  1. ピンバック: yanoz
  2. ピンバック: 森澤友一朗
  3. ピンバック: 森澤友一朗
  4. ピンバック: ひなつ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください