「春琴」(サイモン・マクバーニー/演出・構成)

◎観る前には戻れない 上質なドキュメンタリー映像の感覚
清末浩平(劇作家、劇団サーカス劇場主宰)

「春琴」公演チラシ先日、私の先輩で休業中(?)の演出家である西悟志氏と会ったとき、彼が「戯曲でなくても、どんなテキストであっても舞台作品として上演することは可能だ」と言ったのを聞いて驚いた。
西氏は実際、プーシキンの小説など非戯曲作品の演出をこれまで行っており、特に阿部和重の小説『ニッポニアニッポン』の舞台化作品は大傑作の名に値する舞台として私の記憶にも刻みつけられているのだが、しかし、喫茶店で私と話しているときに「舞台作品として上演」できるテキストの例として彼が挙げたのは、東浩紀の『動物化するポストモダン』だったのである。言うまでもなくこの高名なテキストは評論文であり、ストーリーを備え会話もある程度書かれている小説ならともかく、そんなテキストが演劇として上演されるような事態など、そのときの私には想像もできなかった。

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新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號「IZO」

◎平らな目線でふつうの人間を描く  木俣冬(文筆自由労働者)  結論から言ってしまおう。  いのうえひでのりが平らな目線を獲得した。  これまでの新感線は、異界の人間と人間の対立や共存を描く作品が多かった。ハデなアクショ … “新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號「IZO」” の続きを読む

◎平らな目線でふつうの人間を描く
 木俣冬(文筆自由労働者)

 結論から言ってしまおう。
 いのうえひでのりが平らな目線を獲得した。
 これまでの新感線は、異界の人間と人間の対立や共存を描く作品が多かった。ハデなアクションも多くなるので、斜めになった八百屋舞台が必須だったし、縦横無尽に舞台空間を使っていた。リアルではないが、俳優を前後に立たせ、対話するというドラマチックな見せ方も多く用いていた。

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小指値「霊感少女ヒドミ」

◎舞台が遊び場(play-ground)となる条件
木村覚(美学/ダンス批評)

▽リミックス、あるいはデスクトップ画面としての演劇

「霊感少女ヒドミ」公演チラシよりハイバイ(岩井秀人)が2005年に上演した同名作品のリミックスである本作は、単なる翻案とは言い難いし、ましてや岩井戯曲の単なる再演ではない。ハイバイ版の骨組み、どうしようもない男ヨシヒロとヨシヒロを愛するヒドミとヒドミを愛する幽霊(三郎)という3人の登場人物の力関係を、ほぼそれだけを活用して、それ以外のほとんどすべてを北川陽子が仕上げた、それ故に、限りなくオリジナルと言ってよい戯曲の舞台である。

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仏団観音びらき「蓮池極楽ランド」

◎テーマパークの実態を仏団色で描き出す
葛西李奈(フリーライター)

「蓮池極楽ランド」公演チラシなんまいだ~♪なんまいだ~♪両手を合わせ、天高く突き上げるキャスト総勢に胸打たれた。くり返し祈りをささげる彼らの表情に、希望の色は見えない。すべてを投げ捨て、懸命に許しを乞うている感じもしない。あきらめの極地にたどり着き、開き直ってしまった様子なのだ。夢を与えるテーマパークの裏側で、現実を受け止められず歪んでしまった彼ら。生きていることのどうしようもなさが伝わってきて、心身ともに力を吸い取られた。

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MU「愛の続き/その他短編」

◎気になるセリフが突き刺さる 信じている言葉本来の魔法
木俣冬(文筆自由労働者)

「愛の続き/その他短編」公演チラシ他者と話している時、なにげない瞬間にふと漏らした一言こそが大事だったりする。ハセガワアユム氏が意識的なのかたまたまなのかはわからないが、2本の短編で、気になるセリフが一言ずつあった。
「苦ぇ…」と「喪服みたいですね」。
その瞬間、物語ははじまった。(あくまで私の中でだけど。)

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「関係者全員参加!ダンスクリティーク」

◎「関係者全員参加!ダンスクリティーク」で交わされたこと(1)
-司会の立場からのまとめ
木村覚(美学/ダンス批評)

はじめに
大橋可也&ダンサーズを主宰する振付家・大橋可也さんのお誘いで「ダンス蛇の穴」という企画に参加することになった。そこでぼくは、昨年の11月から今年の1月にかけて、計5回、全員で11人の振付家・ダンサーをプレゼンターに招き、森下スタジオを会場に「関係者全員参加!ダンスクリティーク」と称する会をひらいた。これは、司会を務めた木村覚の立場からまとめたこのイベントをめぐるレポートである(この場をお借りして、3回に分けて掲載する予定)。

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スロウライダー「手オノをもってあつまれ!」

◎未知なる関係性への呼びかけ 「家」意識の希薄な世代
木俣冬(文筆自由労働者)

「手オノをもってあつまれ!」公演チラシああ、矛盾。
舞台には人間の生々しい鮮度を求めているはずだったのが、現実がデジタル化されていく中で、現実を鮮度高くつかもうとすると、言葉を使ったコミュニケーションも、身体を使った表現もどんどん生とは違っていく矛盾を感じる今日この頃だ。

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スロウライダー「手オノをもってあつまれ!」

◎さまよいつつ知る演劇世界の再構築 リアルでない、リアルな世界で
小林重幸(放送エンジニア)

冒頭、舞台はどうやら近未来らしいことがわかる程度。情景は、団地らしき建物の外。どこか僅かに違和感が漂う会話から、この場所は、現在われわれがいる実世界とは何か違う常識が存在する別世界であることが窺える。

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三条会「いやむしろわすれて草」「若草物語」(四姉妹)

◎異質なコンテクストから浮かび上がる ギミックに満ちた独創的公演
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

アトリエ公演「四姉妹」チラシ千葉を活動拠点とする三条会は、今、首都圏の小演劇ジャンキーの間で最も注目されている団体の一つではないだろうか。三条会の極めて個性的で癖のある表現スタイルには、中毒になるという言い方がぴったりはまるような強烈な吸引力がある。

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イプセン原作「野鴨」(タニノクロウ演出)

◎消長する森が作品世界を映し出す 明晰なテクストから背後の深い闇へ
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

「野鴨」公演チラシ細部まできっちりと作り込まれた美術と、日常生活を精密にトレースしたかのような動きとことばによって超写実的な舞台空間を創造し、その中でマメ山田という小人俳優を媒介にグロテスクで不気味な人間のありようを描き出す「暗黒」演出家、というのが私の抱いていた演出家タニノクロウのイメージである。
メジャーリーグの主催公演でタニノクロウが外部演出家としてイプセンの戯曲を上演すると知ったときの私の期待は、精巧な細密工芸品をも連想させるイプセンの世界をタニノクロウがどのように消化し、庭劇団ペニノ風に悪趣味なものへと変形させるかにあった。

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