MU「愛の続き/その他短編」

◎気になるセリフが突き刺さる 信じている言葉本来の魔法
木俣冬(文筆自由労働者)

「愛の続き/その他短編」公演チラシ他者と話している時、なにげない瞬間にふと漏らした一言こそが大事だったりする。ハセガワアユム氏が意識的なのかたまたまなのかはわからないが、2本の短編で、気になるセリフが一言ずつあった。
「苦ぇ…」と「喪服みたいですね」。
その瞬間、物語ははじまった。(あくまで私の中でだけど。)

4本の短編を、A面B面の回に分けて、2本ずつ上演している。私は、その中で『愛の続き(の続き)』と『5分だけあげる』を見た。全部を見てないので、中途半端かもしれない。

舞台面は五角形。舞台の奥の壁は、中央は本棚。その両脇は出入りできるドア。『愛の続き(の続き)』では、テーブルが置かれ、喫茶店と主人公のマンションに変化する。『5分だけあげる』では上手に黒板が現れ、教室になる。あと、主人公の保護者が集うファーストフード店にも。装置も照明もアンバー系が基調になっている。

『愛の続き(の続き)』は、元カレ・佐倉のことをまだ忘れられない元カノ・松田が、元カレの悩み相談に乗っているところからはじまる。佐倉は人気漫画家でストーカーのようなファンの執拗なファンレターに困惑している。松田は相談の続きを家でやろうと言われついついついていく。そのマンションは今の彼女・田中と一緒に暮らしている場所だが、その日彼女は留守なのだという。好きな漫画に異常な思い入れを抱くファン兄弟と、揉めている田中と佐倉たち、元カレを忘れられない松田、それをみつめる先輩・土橋。それぞれの思いが、バカバカしく、激しく、交錯する。

「愛の続き(の続き)」
【写真は「愛の続き(の続き)」から。撮影:石澤知絵子 提供:MU 禁無断転載】

冒頭の喫茶店での会話は、パブリックな場で話す意識が演技としてなさすぎるし、高級マンションという設定だろうに、六畳一間のアパートみたいな空間構造としか思えない展開(たとえばストーカーが平気でマンションに入ってくるのはヘンじゃないか? オートロックくらいあるだろうとか。ドアの郵便受けから中をのぞいてすぐに部屋が見えるわけないだろうとか)が残念。

でも、へんなファン兄弟が漫画を書き直せと刃物をもって迫り、絵は田中が描いているから描けない佐倉に代わり、漫画を描こうとする松田。でも絵がヘタ過ぎたために、さらに代わりに漫画を書き出す土橋。メカ専門のアシスタントだから、漫画の主人公をロボットにして描く。クライマックスに登場人物の感情がそれぞれ高まり、グングン温度が上がっていったところに、フッと、できあがったとんでもない展開になった漫画を「おもしろい」と喜ぶファン兄。その緊張の後の弛緩のタイミングが実に気持ちよかった。続きを見たくて包丁を振り回し、土橋に殴られ、気絶(死んでる?)してるファン弟に兄が嬉々として漫画を見せようとしてでも起きないままカットアウトする照明のタイミングも絶妙だった。テクニックって重要だよなと思う。

物語は、松田の元カレへの断ち切れない思いと平行して、土橋の松田への思いが軸になっている。それは、冒頭、喫茶店で、妙に松田と佐倉に関わっていった揚げ句、コーヒーを一口飲んで「苦ぇ…」とつぶやき出ていくという部分ですべてが描かれている。

たくさんの登場人物が個性を振りまき、たくさん自分の思いをはき出しているのだが、「苦ぇ…」だけが突き刺さる。この言葉の配置はまるで果てしなく広がる海岸の宝探しみたいだ。

さて次の『5分間だけあげる』。
小学校の授業参観を目前に、教師・梶浦は、教室に爆弾を仕掛けようと準備している。梶浦は冷えた学校に絶望していたのだ。学校では校内の噂を語り合う裏サイトが存在し、そこでは目を覆うような告発が常に行われていた。副担任の小笠原はそれを嬉々として見ていた。

「5分だけあげる」
【写真は「5分だけあげる」から。撮影:石澤知絵子 提供:MU 禁無断転載】

運命の日。授業参観は梶浦への当てつけにボイコットされようとしていたが、たった2人の生徒だけが参加する。この街に嫌気がさしている彼らは前日校内で結ばれ、街を出ようと考えていた。女子生徒ミサ役の辻沢綾香氏は、明らかに小学生女子には見えないし、首筋のほくろなどが妙に色っぽすぎるくらいだと思って見ていたら、小学生で処女喪失した役だったので、納得してしまった。

この小さな恋人たちの問題を巡って保護者達が大騒ぎして、授業参観というか、梶浦の計画が台無しになってしまう。

この物語も、もっともらしい顔をして日常を生きている大人たちが、実は影で不倫をしているなど、裏がある。クライマックスにはその裏に隠していたものを吐露して教室内と同時に、観客の感情を沸騰させていく。

梶浦は授業でよく「5分間だけ時間をあげます」と言って生徒に内省を促していたが、その意味を理解する人はいなかったというエピソードに、どんなに言葉を尽くしても意味を成さないと思わせる。梶浦は携帯の告発サイトの情報量にも「本当のことはない」と言う。そのあたりは、よくある物語の構造だと思う。ただ、そのサイトを懸命に見ている何もわかってなさそうなお気楽な小笠原が、これまた『愛の続き?』と同様、冒頭に何気なく梶浦に放った「喪服みたいですね」の一言が的を得ている皮肉。

で、こちらの幕切れは、残り少なくなった時限爆弾の爆発までに、小笠原を逃がそうとする梶浦の姿。非常に申し訳ないが私の勝手な印象でここの照明はフェイドアウトだったかなという記憶。違ったら本当にすみませんが、心象としてはフェイドアウトだったのだ。それがまた、放課後の定番のドボルザークの『新世界』とか、映画のちょっといいシーンによく使われる『G線上のアリア』みたいに、梶浦の学校とか人生への決別みたいに見えた。

作家ハセガワアユムは現代ニッポンの言葉を疑っているけれど、言葉の本来の魔法を信じているんじゃないかとこの2本を見て思った。ポエトリー・リーディングみたいな公演だなあ。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド 第79号、2008年1月30日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
木俣冬(きまた・ふゆ)
フリーライター。映画、演劇の二毛作で、パンフレットや関連書籍の企画、編集、取材などを行う。キネマ旬報社「アクチュール」にて、俳優ルポルタージュ「挑戦者たち」連載中。蜷川幸雄と演劇を作るスタッフ、キャストの様子をドキュメンタリーするサイトNinagawa Studio(ニナガワ・スタジオ)を運営中。個人ブログ「紙と波
・wonderland寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/kimata-fuyu/

【上演記録】
MU presents『愛の続き/その他短編』
2008.1.17 – 21 at 下北沢OFF・OFFシアター

All Scenario&Direction
ハセガワアユム (MU)

CAST
寺部智英(拙者ムニエル)
足利彩(経済とH)
長谷川恵一郎(くろいぬパレード)
松下幸史(動物電気)
福原冠(活劇工房)
杉木隆幸(play unit-fullfull)
辻沢綾香(双数姉妹)
斉木まな
奥田史香
浅倉洋介(風琴工房)
根津茂尚(あひるなんちゃら)
橋本恵一郎
平間美貴
西山聡(ブラジル)

[A]『愛の続き』『JUMON』
[B]『5分だけあげる』『愛の続き(の続き)』
1/17(木)14:00[A] 19:30[B]、18(金)14:00[B] 19:30[A]、19(土)14:00[A] 19:30[B]、20(日)14:00[B] 19:30[A]、21(月)14:00[A] 19:30[B]、全10ステージ

■前売・当日 2500円(全席自由・日時指定)
・セットチケット(全席自由・日時指定)[A][B]2枚セット3500円


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