劇団鹿殺し「2008改訂版・百千万」

◎新鮮な風は勢いがあって冷たい 破壊力抜群の再演舞台
小畑明日香

「2008改訂版・百千万」公演チラシ西日本福井県の、原発事故を一応下敷きにしている。一応、だ。だって鹿殺しだから。
前回見た『SALOMEEEEEEE!!!』でも強く感じたことだが鹿殺しの話は神話っぽい。
日本の戦後とギリシャ悲劇がちゃんぽんになった世界観で、登場人物の名前も手伝ってどことなく寓話っぽい。


今回の主役の名前は「エンゲキ」。
原発事故のその日に「キノコ雲と一緒に産声を挙げた」、奇形の子どもである。
頭でっかち、体はへその緒が巻きついてがんじがらめ。「人よりいろいろなことを感じるため」の脳の重さでよろよろしながら、ぴょんぴょんはずむように歩く。
なんとも皮肉な設定じゃないか。初手から劇薬のにおいが鼻をつく。

事故から10年後、エンゲキは10年前に失踪した自分の母親をさがして旅に出、様々な人と会いながら事故の真相に迫っていくことになる。
途中で会う人々は、みんな事故の後遺症を引きずっている。
バランスをとるためか演じ方は極端にばかばかしく、料亭の主人の妻は「ダンサブルなカニになっちまって」つまり奇形になって踊り狂いながら現れ、最後は焼かれて食われてしまう。みんな脱ぐし歌うし踊りまくるし水を頭からかぶって出てきたりするし、また演出が書き割りや幕や花道を多用して、安っぽい芝居小屋風に作ってあるのだ。
笑っているうちに芝居が終わっていた、とにかく面白かった、って言って帰れる。
でも、なんかみんなのほんとの所がちらちら覗くのだ。
だって山の中の原住民たちが裸同然でエンゲキと上演する演劇は、「銀河鉄道の夜」だから。
舞台の上にいるカムパネルラとジョバンニは、そのままエンゲキの父親とエンゲキを演じている役者でもあり、もっと言うと『百千万』の戯曲家と演出家でもある。

なに、くそまじめになってんだよ。さっきまで笑い通しで見ていたほうは思う。
一流のクラウンは皆そうだが、徹底的にバカをやりながら醒めている。でも『百千万』全編を通して「醒めた道化」の気配が滲んでいるのは、役者のせいではない。物語それ自体が醒めている。狂いかけた一人の人間の、頭の中に入りこんだような気分になった。
演出でことに秀逸だと思ったのは、途中で役者の一人が地獄に落ちるシーンだ。
舞台全面に半透明の黒布を使った幕。中から照らすと責め苦に遭ってのたうちまわる役者が見えて、それと重なるように幕自体に映像が映る。
演劇史上初じゃないか? こんなスタイリッシュな地獄。仏教の教えにしたがって最下層まで転落していく様が実に巧みだった。

「2008改訂版・百千万」

「2008改訂版・百千万」
【写真は「2008改訂版・百千万」公演から。撮影=和田咲子 提供=劇団鹿殺し 禁無断転載】

『百千万』の舞台は、日本の戦後である。
そして物語のキーワードは実は「核」でも「演劇」でもない。「ネズミ」だ。
最初から最後まで、この舞台を作っているのはネズミ、ということにされている。舞台どころか、世界はネズミでできている、と言われている。
結末を見て、もう一度この言葉を聞いて、口を覆っていた。もう笑えなかった。
野暮を承知で言う、何度でも見てほしい。地獄の最下層じゃないが、本当の劇薬は一番下に潜んでいる。

ダンスミュージックの「小さな世界」で踊りまくるラストシーンを呆然と見ていた。感動しているのに、ひえびえと哀しく寒かった。
あー、時代はもう次の場所にいっちゃってるよ。自分達が征服されてるってことさえ芝居はとっくに呑みこんでるよ。
エンゲキが旅を通して知ったように、「知るための新しい扉」を『百千万』は開いてしまった。
きっと何かを知り続けるための旅は寒いのだ。新鮮な風とかゆーもんは、いつも勢いがあって冷たいのだから。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド 第79号、2008年1月30日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
小畑明日香(おばた・あすか)
1987年横浜市生。慶大文学部在学中、国文学専攻。売文屋、役者。『中学校創作脚本集 (2)』(晩成書房)に脚本収録。2007年10月Uフィールド+テアトルフォンテ主催『孤独な老婦人に気をつけて-砂漠・愛・国境-』(マテイ・ヴィスニユック作)に出演。wonderland執筆メンバー。
・wonderland寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/a/obata-asuka/

【上演記録】
劇団鹿殺し「2008改訂版・百千万(ももちま)」
下北沢駅前劇場(2008年1月11日-21日)

CAST:
オレノグラフィティ
丸尾丸一郎
菜月チョビ
岸本啓孝
橘 義一
丸山知佳
谷山知宏(花組芝居)
菅野家 獏
坂本けこ美
佐藤輝一
しのだ藍郎
高橋戦車
傳田うに
道園僚一
山岸門人
政岡泰志(動物電気)

STAFF:
舞台監督 佐藤 恵・杣屋昌洋
舞台美術 加藤まゆこ
照明   工藤雅弘
照明操作 吉村愛子
音響   高橋秀雄
衣装   赤穂美咲
映像   ムーチョ村松<トーキョースタイル>
制作   遠山ちあき・内藤玲奈
制作統括 樺澤 良
助成   芸術文化振興基金
企画・製作  劇団鹿殺し
主催   オフィス鹿
料金 全席指定・日時指定 前売3,200円/当日3,500円


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