五反田団「すてるたび」

◎「父」を殺して「大人」になる 「挫折」を乗り越える自己セラピー
水牛健太郎(評論家)

5月9日にアトリエヘリコプターで五反田団の「すてるたび」を見た。昨年11月に初演された作品だが、ベルギーのフェスティバルに持っていくということで、その準備の一環として、1日だけ東京でプレ公演をするということだった。昨年見たときもいい作品だと思ったが、決して見やすい作品ではなかったから、1回見ただけでは消化できなかったところもたくさんあった。再び見ることによって、過去と現在、夢と現実が境もなく入り混じるその作品世界をよく味わうことができた。1時間余りの上演時間中、ずっと心地よく集中して楽しんで見られた。

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手塚夏子「プライベートトレース2009」

◎眼差しが照り返されて生のありように向けられる
武藤大祐(ダンス批評)

東京芸術見本市2009プログラム表紙どれだけ「斬新な」ダンスか、どれだけ「秀逸な」作品か、などということより、それに立ち会うことが自分の日々の生活にどれだけ深刻な影響や衝撃をおよぼすか、ということを基準にして、作品なりダンスなりに立ち会いたい。いいかえれば、日々の瑣末事や社会の中の諸々の出来事とともに生きている自分の身体をきちんと携えたままで作品やダンスに行き当たりたい。そんな気持ちを目覚めさせてくれたという意味では、まるで湯水のように「作品」が大量消費される年度末の東京の不毛な公演ラッシュにも感謝せずにいられない気さえする。

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マレビトの会「声紋都市―父への手紙」

◎棲みついた〈坂〉と言葉 〈ノスタルジック〉な身体をめぐって
森山直人(京都造形芸術大准教授)

「声紋都市―父への手紙」公演チラシ
坂道をよく夢に見る。二十年近く前に引っ越して以来一度も訪れたことのない、生まれ育った場所の坂道が、いまだに時々夢の中に、はっきりそれと分かるように出現する。道添いに立っている家々の風景はでたらめで、ほとんど毎回違うのに(ようするにウロオボエなのだが)、子供の足にはかなりの急勾配と感じられ、途中から二股に分かれる坂がつくる地形だけは、私の身体に、すでに深く棲みついてしまっている。-これはたんなる私の個人的な夢にすぎない。けれども、たとえばこんなふうに、誰もが〈坂〉というものについて、なにがしかの記憶をもってはいないだろうか?

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三条会「ロミオとジュリエット」

◎知的刺激は受けたけど、泣かせてほしかったロミオさま
(鼎談)水牛健太郎+杵渕里果+芦沢みどり

三条会「ロミオとジュリエット」公演チラシジュリエット芝居-どんな上演だったか

芦沢みどり:ワンダーランド鼎談第2弾は、下北沢のザ・スズナリで上演された三条会の『ロミオとジュリエット』。三条会は知的なたくらみと遊び心に満ちた演出と、俳優それぞれに個性があって魅力的であることが定評になっています。さて、今回はどういう『ロミオとジュリエット』だったか。公演チラシには「むかしむかしロミオとジュリエットという人がいました。2人とも恋をしました。2人とも死にました。もしかしたら1人だったのかもしれません」というナゾめいた言葉が置かれています。公演パンフレットの方では、「今回の台本は、ジュリエットが登場している場面だけを抜粋して構成しました」と言っている。原作のうち、ヴェローナの広場や街路での立ち回り(喧嘩)、乳母の長セリフ、マキューシオの長セリフ、修道士ロレンスの長セリフなどがばっさりとカットされています。登場人物は八人。ロミオとジュリエット、あとはキャピュレット、キャピュレット夫人、乳母、パリス、ロレンス修道士、ティボルトですね。キャストは全員ジュリエットを演じるシーンもあります。

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劇団掘出者「誰」

◎覚悟と楽しみをもって、思い悩もう
因幡屋きよ子(因幡屋通信発行人)

「誰」公演チラシ劇団掘出者の舞台をみるのは、昨年春の『チカクニイテトオク』に始まって秋の『ハート』と続き、今回の『誰』で3本めになった。およそ半年ごとに次々と新作を発表しており、作・演出の田川啓介が劇作家として伸び盛りであること、劇団としてのフットワークの強さを感じる。しかし初日に観劇した直後は「困ったな」というのが正直な気持ちであった。それは「これはフィクションなのか、それとも同じようなことが現実の大学生にも起こっているのか」という極めて初歩的な困惑だった。舞台をみるとき、その世界が現実に則したものとして受け止めるのか虚構を楽しむものか、自然に感じ取れれば楽なのだが、『誰』は判断できなかった。千秋楽近くに足を運んだ知人も似たような感想を漏らしており、舞台に描かれている世界を受け止めるのがむずかしかったことがわかる。だんだん心配になってきた。こういう舞台を作る田川啓介さん、あなたの心は大丈夫なのでしょうかと。

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tpt「ウルリーケ メアリー スチュアート」

◎理想を追い求めたが故の破綻 英王権争闘に日独赤軍派を重ねて描く
水牛健太郎(評論家)

「ウルリーケ メアリー スチュアート」公演チラシ間もなく取り壊されるベニサンピット。ここを主な活動の場にしてきたTPTにとっては、ベニサンでの最後の公演である。空間の高さと奥行きを活かした印象的な舞台となった。

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新国立劇場「舞台は夢 イリュージョン・コミック」

◎大輪の花のような「夢」空間 秀逸な美術と演出の効果
門田美和(会社員)

「舞台は夢」公演チラシ大輪の花のようだった。
緋色の蕾が空中に見えた次の瞬間、ふゎら~りと広がり開花した。布地の花びらは、頭上約20メートルの高さから舞い降りてステージを役者ごと包み込み、観客は予想外の高揚と想像外の驚愕に飲み込まれた。このシーンを見るためにチケット代を払ってもよいと思った。沢山の偶然を必要としてできあがったであろうその景色が、私の中でいつまでも消えない。それが私の『舞台は夢 イリュージョン・コミック』だった。

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世田谷パブリックシアター「友達」(作:安部公房、演出:岡田利規)

◎鼎談 不条理劇、岡田演出、個性派俳優のブレンドの味
芦沢みどり、香取英敏、水牛健太郎

「友達」公演チラシ世田谷・シアタートラムで開かれた「友達」公演(2008年11月11日-24日)は、芝居好きの間で事前にかなり話題になりました。安部公房の代表的な戯曲を、チェルフィッチュ主宰の岡田利規が演出するうえ、小林十市、麿赤兒、若松武史、木野花、今井朋彦ら人気、実力、個性の際だった俳優が登場するからです。不条理劇と岡田演出と個性派俳優陣との組み合わせが注目されたのでしょう。その結果はどうだったのか、ワンダーランドの寄稿者3人が舞台をさまざまな角度から検証しました。(編集部)

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東野祥子「VACUUM ZONE」

◎現実への欲望、虚構への欲望  武藤大祐(ダンス批評) 「映画とはすべてドキュメンタリーである」(黒沢清)。なぜならあらゆる映像は、カメラの前で実際に起きた出来事を写し取ったものにすぎないからだ。これにならえば、舞台上の … “東野祥子「VACUUM ZONE」” の続きを読む

◎現実への欲望、虚構への欲望
 武藤大祐(ダンス批評)

「映画とはすべてドキュメンタリーである」(黒沢清)。なぜならあらゆる映像は、カメラの前で実際に起きた出来事を写し取ったものにすぎないからだ。これにならえば、舞台上の出来事はすべて現実である。そしてもし虚構が発生するなら、そこには観客の側の想像力が関与している。

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ミナモザ「八月のバス停の悪魔」

◎わたしにも夢がある  因幡屋きよ子(劇評かわら版「因幡屋通信」主宰)  劇作家・演出家の瀬戸山美咲が主宰するミナモザの舞台を初めてみたのは、二〇〇五年夏上演の『デコレイティッド・カッター』である。瀬戸山は一九七七年生ま … “ミナモザ「八月のバス停の悪魔」” の続きを読む

◎わたしにも夢がある
 因幡屋きよ子(劇評かわら版「因幡屋通信」主宰)

 劇作家・演出家の瀬戸山美咲が主宰するミナモザの舞台を初めてみたのは、二〇〇五年夏上演の『デコレイティッド・カッター』である。瀬戸山は一九七七年生まれ。二〇〇一年にミナモザを結成し、これまでに九回の公演を行っている。

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