虚構の劇団「ハッシャ・バイ」

◎始まりの場所へ-「ハッシャ・バイ」の海-
金塚さくら

「ハッシャ・バイ」公演チラシ海だ。あと一歩踏み出せば足元は溶けるように崩れ、そこは茫漠の海だ。
赤いワンピースを着て、女は波打ちぎわすれすれに立っている。ほとんど怒っているかのような厳しい無表情で、睨むほどに強く遠い水平線を見つめる。
「私は母のない国に行くのです」
海底の地下トンネルを抜けて。怒りの声にも嘆きの声にも耳を貸すことなく、絶望にだけ未来を託して。海に臨む最後の地平に、彼女は独り立つ。

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TAGTAS「百年の<大逆>-TAGTAS第一宣言より-」(前・後篇二部作)

◎置いてきぼりにされたメロドラマ・ジャンキー 観客の場所はどこ?
都留由子

TAGTASプロジェクト公演チラシTAGTASプロジェクトの「百年の<大逆>」前編と後編を観た。TAGTASとはトランス・アヴァンギャルド・シアター・アソシエーションの略で、今回筆者が観た「百年の<大逆>」は、円卓会議、リーディング、映画の上映などとともに、その設立公演のひとつ。一週間の間隔を置いて前編と後編が上演された。

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TAGTAS「百年の<大逆>-TAGTAS第一宣言より-」(前・後篇二部作)

◎それが露わにされるとき
大泉尚子

TAGTASプロジェクト公演チラシ前衛=アバンギャルドという言葉をとんと聞かなくなって久しい。こないだ若い人に暗黒舞踏の説明をしようとして、「前衛的な踊り…」と言いかけて思わず赤面してしまい、あわてて「当時は前衛的と言われた踊り…」と言い直した。何か、口にするだけでもちょっと気恥ずかしい感じがするんだけど、それって私だけでしょうか?

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TAGTAS「百年の<大逆>-TAGTAS第一宣言より-」(前・後篇二部作)

◎「観る」とはどういう行為なのか
金塚さくら

TAGTASプロジェクト公演チラシ舞台は薄暗く、奥までほとんど剥き出しだ。装置と呼べるものは上手に立てられたパネルと、下手に据えられたダンスレッスン用のバーしかない。もうひとつ、簡素な演台が奥に置かれている。
演台の向こうに男が立つ。ヘッドホンを着けカセットテープらしきものをセットし、手元のノートに目を落として論説文のようなものをゆっくりと朗読し始める。「本当のことを話す者にとっては-」

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流山児★事務所「ユーリンタウン-URINETOWN The Musical」

◎もっと匂いを!
大泉尚子

「ユーリンタウン」公演チラシ座・高円寺の入口あたりから会場内にかけて、警官の扮装をした男女が10人以上。彼らは、客入れや会場案内をやっている。手には警棒、全身黒ずくめ。女は、ショートパンツ・網タイツにピンヒール、ジャケットの胸元のボタンを最大限にあけて、豊かな谷間を強調しつつ。これはきっと、異色のブロードウェイミュージカル「ユーリンタウン」の世界へのエロこわい誘導なのね、と思う。

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流山児★事務所「ユーリンタウン-URINETOWN The Musical」

◎鏡に映る苦い自画像 「水洗」の枠を超えて
都留由子

「ユーリンタウン」公演チラシオフ・ブロードウェイよりもっと小さな劇場(フリンジと言うらしい)で大好評を得て、ブロードウェイでの上演に至り、2002年のトニー賞まで取ってしまったというミュージカル「ユーリンタウン」を観た。流山児祥の演出である。

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流山児★事務所「ユーリンタウン-URINETOWN The Musical」

◎猥雑だけど洗練、「遊び心」も みる人を変える力持つ
小林由利子

「ユーリンタウン」公演チラシ6月13日(土)の夜の部に『ユーリンタウン』を見に行くと、劇場の前は何やら怪しい人たちでごったがえしていた。子どもの頃白黒テレビで見た石器時代の毛皮を着ている人がうろうろしたり、コスプレなのかダンサーなのか不明な女性が一心不乱に踊っていたり、仮面をつけた人が一人芝居をしていたり、何だろうと不思議に感じた。入口がわからず、うろうろしていると、「こっち!」と黒いホットパンツ、谷間胸あけへそ出し、黒い制帽、赤いシンボルの入った、昔にナチスの映画のキャバレー場面で出てきたような娼婦風警官と思しき人に声をかけられた。舞台では、大音響で狂ったように阿波踊りをしている人たちがいて、その間を縫って、もう一人女性警官が待ち受け、その先にもう一人いて、「ここよ!」と席を指し示され、やっと上部にある自分の席に辿りつくことができた。

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「化粧 二幕」と「楽屋」

◎家族の解体から新しい人間関係へ 女優と楽屋をモチーフに
鈴木厚人(劇団印象-indian elephant-主宰、脚本家、演出家)

「楽屋」公演チラシ 座・高円寺のこけら落とし公演「化粧」と、シアタートラムのシスカンパニー公演「楽屋」が、ほぼ同じ時期に上演されていたのは、僕にとっては嬉しい偶然だった。どちらも“楽屋”が舞台で、“女優”をモチーフにした芝居であり、チラシも“化粧”をしている女優の写真。しかも、名作と呼ばれている戯曲の何度目かの再演(「化粧」の初演は1982年、「楽屋」の初演は1977年)と、共通点の枚挙に暇がない。もちろん、「化粧」は一人芝居であり、「楽屋」は女優四人の芝居だから、そこのところは大きく違う。ストーリーだって全然違う。観劇後の僕の満足度(つまり、僕が感じた芝居の出来)だって、180度違った。しかし、その違いをつぶさに見比べると、太いつながりを感じずにはいられなかった。

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「化粧 二幕」

◎舞台こそが化粧
金塚さくら

「化粧 二幕」公演チラシ埃だらけで薄汚れた楽屋の、そこだけが聖域か何かのように白い布で覆われている。ちゃぶ台より少し大きいくらいの、平机。起き上がった女座長は威勢よく座員に檄を飛ばし、かと思うとぶつぶつ何やらひとりごちる。夏の夕暮れ、あと一時間もしないうちに舞台の幕が開く。

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「化粧 二幕」

◎二人の女優と一人の女 または彼女たちは如何にして心配するのをやめ劇場を愛するようになったか
島田健司

「化粧 二幕」公演チラシ座・高円寺のオープニングで600回の上演を迎える渡辺美佐子の一人芝居『化粧』。再演という上演形式の定着に恵まれず、大量に作られては消費され、また作られては消費される奔流のような日本の演劇状況において、1982年の初演から27年の歳月をかけて打ち立てられたこの記録は継続することが可能にする演劇的醸成とはいかなるものかを僕たちに示している。

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