流山児★事務所「ユーリンタウン-URINETOWN The Musical」

◎猥雑だけど洗練、「遊び心」も みる人を変える力持つ
小林由利子

「ユーリンタウン」公演チラシ6月13日(土)の夜の部に『ユーリンタウン』を見に行くと、劇場の前は何やら怪しい人たちでごったがえしていた。子どもの頃白黒テレビで見た石器時代の毛皮を着ている人がうろうろしたり、コスプレなのかダンサーなのか不明な女性が一心不乱に踊っていたり、仮面をつけた人が一人芝居をしていたり、何だろうと不思議に感じた。入口がわからず、うろうろしていると、「こっち!」と黒いホットパンツ、谷間胸あけへそ出し、黒い制帽、赤いシンボルの入った、昔にナチスの映画のキャバレー場面で出てきたような娼婦風警官と思しき人に声をかけられた。舞台では、大音響で狂ったように阿波踊りをしている人たちがいて、その間を縫って、もう一人女性警官が待ち受け、その先にもう一人いて、「ここよ!」と席を指し示され、やっと上部にある自分の席に辿りつくことができた。


それでも何のことやらわからず、阿波踊りの人たちは何だろう、まわりの人たちはユーリンタウンの人たちなのだろうか、などと思っていると、突然坊主頭の厳つい人が舞台にかけ上がってきて、協力者に対してお礼を述べていたので、演出家の流山児という方で、これらがユーリンタウン祭というイベントであることがわかった。何やらはじめから、猥雑で不可思議な世界だった。

席が舞台を上から眺める位置だったので、群衆の動きがよくわかった。狭い舞台を右へ左へ前へ後へマスゲームのようにきれいに動く俳優の様子がわかり、演出家の行き届いたブロッキングの力量を見ることができた。群衆の動きは、バランスがとれ美しいと思った。このようなアンサンブルが生まれるまで、リハーサルを繰り返し、演出家が一人ひとりの俳優をある方向に向けていったに違いない。演出家と50人の俳優との葛藤の日々について考えた。それを基盤にしたそれぞれの俳優たちが放つエネルギーに惹かれているのかもしれない。

特に、公衆便所No.9の管理人のペニペニが、革命に立ちあがった群衆に向かって自分の過去について語る場面で、自分が男たちの「公衆便所」だったと告白すると、着物の羽織とモンペをはいている老婆たちが、一瞬言葉にはならないが「うっ!」となって群衆の後ろの方に身を隠すように後ずさりしていった。その動きから、彼女らも「公衆便所」であったことを抱えながら生き抜いてきたことが読み取れた。

群衆の場面は、どれも猥雑であるが、同時にきちんとブロッキングが明確に決められ、美しい動きになっていた。そして、天井近くにスットボケじじいが中央に黄色いしみのある旗を揺らしている横に、ヘルメットにタオルマスクの赤旗を振る人たちが登場したときは、笑いと共に子ども時代に見た学生運動の兄さんたちを思い出した。そして、ハリハラキが細い刃物を振り回し、公衆便所チェーンUCC社のオーナー社長令嬢のホッピーに詰め寄る場面では、連合赤軍の粛清のアイスピックを連想して思わずぞっとした。正義として立ち上がったとしても、何と容易く崩れていくのだろうか、と思った。

しかし、勢いでわあーと3時間を見てしまい細かいところがわかかったが、帰り道の足取りは軽く、頭の中で「ユーリンタウン、ユーリンタウン…」とリフレインしていた。まるで、ディズニーランドのイッツ・ア・スモール・ワールドの「世界は一つ、世界は一つ…」のリフレイン状態と同じだった。

しかし、同時に抑圧された人たちを束ねて革命を起こした若いヒーローが死に、水を独占していた企業の社長が処刑され、社長の娘でヒーローの恋人がNPOを立ち上げたが水を使いすぎ、結局全員が死んでしまう。ということは、企業がそのまま存続しても幸せはなく「自由」を手に入れても不幸、革命も失敗、ではわたしはどうしたらいいのだろうか?自問し続けることになってしまった。

翌日、「ユーリンタウン」の演出家流山児祥と翻訳者吉原豊司の話を聞き、他の参加者たちの意見を聞くことにより、さらにわたしの不可解さは深まると同時に、流山児の中にどこか子どもの「遊び」と底通する要素があると思ったので、もう一度19日(金)に若い友人と見に行くことにした。流山児が、「40年、ばかなことやっていると思う」といっていたことは、いいかえれば、ばかばかしいことを真剣に40年やり続けていることである。つまり、ずっと「遊び」続けている、ともいえる。それでいて、流山児が「大資本と水資源が結合する怖さ」について語り、「(ユーリンタウンは)革命劇だ」という言葉も印象深かった。「演劇は扇動者がやるものだ。(自分は)アジテーターだ!」という言葉の具現は、今回の俳優のエネルギーから感じることができた。ひょっとしたら、わたしもアジテートされてしまった一人かもしれないと思った。

2回目は平日だったので、ユーリンタウン祭はなかった。しかし、今度は舞台向かって左手の地獄席ともいえる舞台を見上げる席だったので、そこにたどり着くまで舞台を突っ切らなければならなかった。また、ナチスの秘密警察のようなセクシーなお姉さま方とお話しすることになり、今回は心の準備ができていたので、「あのー、どこでしょうか?」とごっこ遊びのように尋ね、お姉さまが「いい、こっちよ。ついてきて!」「ハイ!」と応え、命令口調の「ここよ、わかったここ!」、「ハイ、ここですね、ありがとうございます」と応じることができ、その状況をむしろ楽しんでしまった。演出家は、案内人を劇の一部に位置づけ、日常と演劇空間とのあいまいな部分をつくり、これから始まる演劇の管理社会を観客に感じさせようとしていたが、むしろ場末のお姉さんと戯れるになっていた。管理社会の怖さには至っていなかった。

上からの席から見るのと、下からの席から見るのでは、舞台に対する関わり方が全く違うことに気づいた。俳優たちのまなざしが、直接観客に向けられ、同志に引き込まれるエネルギーがあり、下から舞台を見上げることにより、群衆と共にUCC社と戦う気持ちに同調されてしまった。

公衆便所使用の不払いに立ちあがり、UCC社と秘密警察から逃れて、地下水道に隠れた民衆が、革命のリーダーだったビンボーの死を境に人質だったホッピーが新しいリーダーになり、地下水道からUCC社へ移動するときに舞台下をものすごいスピードで這っていく場面には驚かされた。思わず、「がんばれ!」と応援する気持ちにさせられた。ホッピーと民衆と共に悪の象徴であるクラウド社長を処刑し、UCC社を変革し、これから幸せな未来が来ると思ったら、水不足になってしまい。「水、水…」と求める老婆にホッピーが、「体の中に水がある」といって励ますが、まわりでは民衆が次々と死んでいく。ポッピーのこのセリフを聞いたとき、これではだめだ、と直感した。結局、革命は失敗だった。では、UCC社の支配が続けばよかったのか。いや、それは違う。では、どうしたらいいのか。

演出家のねらいは、観客にそういう問いを突き付け、考えさせることであると思った。戦略なきセンチメンタルな革命は失敗する。そして、流山児は、演劇を通して学生運動で達成しようとしたことの続きをしているのだ、と思った。同時に、「ユーリンタウン、ユーリンタウン」とわたしの頭の中でリフレインしてしまうことに流山児の持つネアカの「遊び」心をどうしても感じてしまう。わたしにとっては、よく言われる流山児の強面より、繊細さが際立って感じとれてしまう。

この作品は、猥雑だけど洗練されている、そしてどこかに「遊び」があって、観た人を変える力がある。一緒に行った学生運動を全く知らない若い友人が、「この作品おもしろいよ。今まで、学生運動していた人ダサくてカッコ悪いと思っていただけ、この作品見て、違う視点から考えられるようになった気がする」と語っていた。彼女もわたしと同様、流山児にアジテートされてしまったようである。
(初出:マガジン・ワンダーランド第149号[まぐまぐ! melma!]、2009年7月22日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
小林由利子(こばやし・ゆりこ)
東京下町生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、同大学院修了。イースタン・ミシガン大学大学院演劇学部子どものためのドラマ/演劇MFAプログラム修了。東京都市大学人間科学部児童学科教授。エクセター大学大学院客員教授、国際交流基金知的交流中東プログラム・フェロー、国際児童・青少年協会前副会長・日本センター理事、国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわと大阪プログラム・アドバイザー。工藤直子原作・西田豊子脚色「ねこ はしる」英訳(『The Cat Who Ran』)。子どもころから児童演劇に親しみ、現在もその普及と発展にかかわる。

【上演記録】
流山児★事務所ユーリンタウン―URINETOWN The Musical-」(流山児★事務所創立25周年記念公演スペシャル)
座・高円寺1(小劇場)(2009年5月29日-6月28日)
スタッフ
脚本・詞:グレッグ・コティス
音楽・詞:マーク・ホルマン
翻訳:吉原豊司
台本:坂手洋二
演出:流山児祥

音楽監督・演奏:荻野清子
訳詞・演出補:浅井さやか
美術:水谷雄司
照明:沖野隆一
音響:島猛
映像:濱島将裕
衣裳:胡桃澤真理
舞台監督:廣瀬次郎

キャスト:
千葉哲也
曾我泰久
伊藤弘子
関谷春子
遠山悠介
栗原茂
石橋祐
植野葉子
有希九美
木内尚
上田和弘
坂井香奈美
三ツ矢雄二
大久保鷹
塩野谷正幸 ほか

ポスト・トーク ゲスト:
6/2 松本哉(高円寺 素人の乱5号店店長)
6/3 青井陽治(ミュージカル演出家)×吉原豊司(ユーリンタウン翻訳)
6/9 中村哮夫(ミュージカル演出家)
6/10 佐藤信(座・高円寺芸術監督)×吉原豊司
ホスト:全回 流山児祥

入場料金:全席指定 一般 4,500円(税込)

主催:流山児★事務所
制作協力:ネルケブレインアンドハーツ
後援:杉並区 杉並区文化協会
提携:座・高円寺/NPO法人劇場創造ネットワーク


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