SPAC「グスコーブドリの伝記」

◎自己犠牲の死は美しいのだろうか?
 今井克佳

「グスコーブドリの伝記」公演チラシ 静岡に向かう間に、念のためどこかで目を通すかもしれないと、バッグにいれた携帯電子書籍端末には無料で「購入」した原作のテキストをダウンロードした。昔何度か読んだはずの作品だ。すでに著作権フリーになっている宮沢賢治のテキストはネットで手軽に手に入れることができる。

 現在、「国民作家」的人物をあえて一人あげるとすればそれは宮沢賢治であり、誰もが各自のイメージを持っている、と演出の宮城總は言う。しかし、演劇でもしばしばとりあげられる「銀河鉄道の夜」に比較して、それに匹敵する長編童話である「グスコーブドリの伝記」はなぜほとんどとりあげられないのか。その疑問が舞台化の発想の一端となっているようである(SPACウェブサイト公開の宮城のインタビュービデオより)。
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劇団印象「グローバル・ベイビー・ファクトリー」

◎ファンタジーから現実へ
 今井克佳

gbf0a 劇団印象(いんぞう)の鈴木アツトの作品と言えば『青鬼』や『匂衣』などが印象に残っている。食用に飼っていたイルカが人間化してしまう話(『青鬼』)やら、盲目の女性の家に「犬」として住み込む居候の話(『匂衣』)など、鈴木の劇作はありえないファンタジックな設定から、笑いと現代社会へのちくりとした批判を汲み出してくるといった作風だった。『青鬼』などは再演でブラッシュアップされ完成された面白さを持っていたし、『匂衣』は新たな劇作世界への可能性を感じさせてくれた。演出においてもフィジカルシアターとしての面白さを持つものが多かった。

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世田谷パブリックシアター+コンプリシテ「春琴 Shun-kin」

◎「春琴」とサイモン・マクバーニーの「旅」
 今井克佳

「春琴 Shun-kin」公演チラシ
「春琴 Shun-kin」公演チラシ

 「春琴」の旅が終わる。「最終ツアー」だそうである。2008年2月の東京初演、翌2009年初頭のロンドン公演、そして2010年暮れの東京公演(この年はツアーでロンドン、パリ、台北公演も行われた。)を見てきて、初演ロンドン再演についてはこの「ワンダーランド」にレポートを掲載した。

 その「春琴」が今夏、ニューヨーク、神戸、東京、シンガポール、そしてミシガン州アナーバーとロサンジェルスを回り、幕を閉じるのだそうだ。最終公演のロサンジェルスは9月末ということでこの文章が掲載される頃、「春琴」は最終地で上演されていることになる。私としては、舞台としての「春琴」は2010年の再々演版でほぼ完成された感があり、今夏の東京上演は確認のため、という程度で足を運んだが、いざ一度見るとついつい引き込まれて、立ち見当日券でもう一度見てしまった。
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コンプリシテ「巨匠とマルガリータ」

◎アヴィニョンでコンプリシテを見る。
 今井克佳

 まずはじめに断っておくが、これから紹介するコンプリシテの「巨匠とマルガリータ」は2012年12月から13年1月まで、ロンドンのバービカンセンターでの再演が決まっている。その後、来日上演があるかはさだかではないが絶対にないとは言い切れない。そのため、今後の公演を見る可能性がある方には、これから書くことはいわゆる「ネタバレ」となる。決定的なことを書くつもりはないが、かなり具体的な内容を紹介することになるだろう。気になる方は注意してほしい。
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世田谷パブリックシアター「現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』」

◎現代能楽集シリーズの転換点か?
 今井克佳
 
「現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』」公演チラシ 到着が開演ギリギリになってしまった。世田谷パブリックシアターの三階に駆け上がり、やっと座席に着くと、舞台は既に明るく、いかにも「能楽集」らしく、シンプルな木製に見える大きな台座がステージ上に広がり、また台座の後方に、舞台奥に向かってかなり深く、尻つぼみに空間が続いている。もちろん、橋懸かりらしきものもなく、実際の能楽堂形式とはずいぶん異なってはいる。また台座や後方の細くなっていく空間(これが橋懸かりの代わりなのかもしれない)のそこここに長方形の穴があくようになっており、上演中はそこから俳優が現れることもしばしばだった。遠い席から見たこともあり、まずはこの舞台美術(堀尾幸男)に目がいった。
 世田谷パブリックシアター「現代能楽集シリーズ」は、従来、小劇場であるシアタートラムで上演されてきた。舞台空間のプランは様々だったが、トラム程度の小空間が、「現代能楽集」にはふさわしいように思えていたので、この大空間に少し戸惑いを覚えた。だが、古典能に現代風の演出を加えた「能楽現在形シリーズ」などもここで上演されていることを考えれば、それほど違和感のある設定ではない、と思い直した。
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劇団印象「匂衣」(におい)

◎人心の機微に迫り、表現の幅広げる
今井 克佳

「匂衣」公演チラシ4月というのにひどく寒く、雪の散らついた晩に、劇団印象「匂衣(におい)」の初日を観にいった。
下北沢のスズナリのすぐ隣に、ミニシアター(映画)用のスペースがあって、それがシアター711である。50席くらいか。とても小さな空間だ。ありがたいのは椅子がふかふかなこと。映画用のスペースならではである。ただ、床の傾斜はゆるいので、後ろの席に座ってしまったらそれほど見やすいわけでもなかったのだが。

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快快「インコは黒猫を探す」

◎「微分化」された日常を映す
今井克佳

「インコは黒猫を探す」公演チラシ1月下旬、三軒茶屋のシアタートラムにて、「シアタートラム ネクストジェネレーションvol.2」として、三つのカンパニーによる公演が行われた。幸いにも、三作をすべて見ることができた。それぞれに興味深かったのだが、今回は最初に見た、快快の「インコは黒猫を探す」について語りたいと思う。他の二作については機会があれば補遺として書き継ぎたい。

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野田秀樹芸術監督就任記念プログラム「ザ・ダイバー」(日本バージョン)

◎想像力喚起する魅力 より「現代的」な日本版
今井克佳

「ザ・ダイバー」(日本バージョン)公演チラシロンドンのSoho Theatreの客席は、上下の段差が大きいせいか、暗い穴蔵のような印象だった。一年少し前、そこでキャサリン・ハンターと野田が出演して、ロンドン版The Diverが約一ヶ月上演された。当時ロンドンに滞在していた私は何度も劇場に通いつめ、野田秀樹がロンドンではいまだに「アウェイ」の風にさらされていることを思い知らされた。

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ロンドン演劇日和-シアターゴアー、芝居の都を行く(全7回)

 第1回 ロンドンで演劇チケット代を考える
 今井克佳(東洋学園大教授)

 四月からロンドンで暮らしています。勤務先の大学から一年間の「在外研究期間」をいただき、ロンドン大学に客員研究員として所属、中心部から地下鉄で30分ほどの郊外のフラットを借り、一人暮らしをしています。研究の課題として「現代演劇における日英文化交流」という題目をたてているので、本来は、過去の記録データなどを掘り起こしながら考察をまとめていくことが仕事なのですが、やはりシアターゴアーとしての血が騒ぎ、こちらの演劇環境を肌で知ることも大切、と東京にいるときに負けず劣らず、いや時間が自由なことをいいことにそれ以上に芝居通いを続けている毎日です。
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「春琴」(サイモン・マクバーニー/演出・構成)

◎最後に付け加わった衝撃シーン 「陰翳礼讃」の世界はどこにもない
今井克佳(東洋学園大学准教授)

「春琴」公演チラシ「春琴」には二度、足を運んだ。一度目はプレビュー2日目。初日は開演時間が一時間遅れたと後に聞いたが、この日は10分程度の遅れで始まった。

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