ロンドン演劇日和-シアターゴアー、芝居の都を行く(全7回)

 第2回 26歳以下、観劇無料!計画 英国文化省が2009年から
 今井克佳(東洋学園大教授)

 朝、寝ぼけ眼でBBCテレビのニュースをつけてびっくりした。いや、リーマンショックの話ではない。イギリス文化省が来年から2011年まで、公共劇場での26歳以下の観劇を無料にするという計画を発表しているのだ。全英で95の公立劇場がこの計画に含まれるという。若者の街頭インタビューが流れる。「映画はよく行くけど演劇は行かないなあ」「タダだったら行きますか?」「うーん、まあ考えるね」「シェイクスピアは?」「うん、シェイクスピア、いいね」。予算額は250万ポンドというから約5億円である。

 イギリスは、日本ではちょっと考えられない公共サービスが無料である。高速道路、公立病院(NHS、これは待ち時間の長さで悪名高いが)、そして美術館も多くが入場無料である。最近ではロンドン・オリンピックに合わせて公共プールを無料にするという話も出ている。

 若者は観劇無料、も、そういう感覚のなかから出てきた案だろうけれども、イギリスの文化政策の底力というか、気合いの入れ方というか、驚愕して息を飲む思いだった。もちろん、インターネットのディスカッションボードを見ると、批判も多い。そんな金は経済を立て直すために使え。いい教師を育てることの方が若者の教育には大事、などなど。たしかに演劇に関心のない人々にはとんでもない政策と思えるかもしれない。だが「芸術と文化は人々の人生を変え、高める能力を持っている。政府はすべての人が芸術に触れる機会を増やす義務がある」と文化省が発表できる国をやはりうらやましいと思った。

 さて、前回の続きで、チケット価格に続いて、チケットのとりやすさ、とそれに関連して上演期間などについて考えてみたい。

 ロンドンでは芝居のチケットはとりやすいだろうな、と楽しみにしていた。これもまたそうでもあるし、そうでもない、といえる。とりやすい芝居ととりにくい芝居があるのは日本と同じだ。ただ、日本のように、チケットの公式発売と同時にソールドアウトするという公演にはいまのところまずお目にかかっていない。やはりこれは異常だ。こちらでは上演が始まってから新聞評などの劇評が客足を動かしている傾向が強いようだ。初演であれば、プレビュー期間の後にいわゆるプレスナイト(初日)があり、その後1日2日で、新聞やメディアにそれぞれの評価が☆つきで出る。この評価がよければ、チケットはどんどん売れて行く。悪ければ埋まらない、ということが多いようだ。評判がよい場合では千秋楽の2週間前くらいにはソールドアウトとなる。(2週間前? そう、オフウェストエンドクラスであっても、多くの公演は1ヵ月程度の上演期間があるので、2週間目は中盤である。ウェストエンドクラスになると何年とやっているロングランもあるし、新作でも2-3ヵ月は上演期間があるものが多い。なので、チケット数にも全体として余裕があるということにもなる)。

 これにはよい面もあるが悪い面もある。劇評家の判断が多くを決定してしまうからである。こちらの劇評は悪く書く時は容赦がない。独断と偏見としか思えないような評も散見される。「The Bee」では批評的勝利を勝ち得た野田秀樹も、今年の「The Diver」では苦戦し、客足も中盤戦はきつかったようだ。作品としては前作と勝るとも劣らないと感じたが、劇評家はストーリーの整合性を重視し、それほどよい評価を与えなかった。(「The Diver」もオフウェストエンドであるSoho Theatreで上演されたが上演期間は1ヵ月であった。)

 もちろん、上演前から前評判の高くチケットの売れ行きが早い公演もある。ウェストエンドのど真ん中にある200席程度の小劇場Donmar Warehouseというところは有名俳優、映画俳優などを使って古典的名作を上演するという作戦で、常にチケットは早期ソールドアウトで苦情が出る始末だったらしく、今シーズンは、近くのもう少し大きなWyndham Theatre(800席程度)でも上演を行っている。このシリーズには、シェイクスピア俳優として名高いケネス・ブラナー演じるチェーホフの「イワーノフ」(上演中)や名女優ジュディ・デンチが演じる三島由紀夫の「サド公爵夫人」(2009年3月から)などが含まれている。

 初演の評価が高かった作品の再演も早くから埋まることが多い。こうしてうかうかしているとソールドアウト、ということが何度かこちらにきてもあった。概して、日本ほどではないにせよ、チケット確保には目を光らせている必要があることは変わらない。売り切れの場合は、当日券なりリターンチケットなりを狙い、劇場前で長時間並んで待つこともできる。日本よりもこれがある劇場は多いというのだが、やはり体力勝負なので、日本にいた時もほとんど挑戦しなかったがこちらでも同様である。リターンチケットについてはまだよくシステムがわかっていないので今後の調査の上、わかればここでまたとりあげてみたい。その他上演時間帯のことや、ウェブサイトでのチケット購入など、書きたいことがまだあるが次回にまわしたいと思う。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド 第107号、2008年10月1日発行)

【関連情報】
・BBCのニュースソース
 http://news.bbc.co.uk/2/low/entertainment/7630021.stm

【訂正】
 前回の記事に訂正があります。ハーフプライスチケット売り場のある場所Leicester Squareを「レセスタースクエア」と表記しましたが正しい発音はカタカナにすると「レスタースクエア」です。こちらに来てから自己流に読んでいた発音を私も人に訂正されていたのですが、ついついまた間違えてしまいました。ご指摘をいただいたようで、感謝いたします(訂正済みです)。また映画館のロードショー封切り価格を最高19ポンドとしましたが、これは映画館によって違っており、シネコンプレックスなどでは封切りでも8ポンドから9ポンドなど、日本と変わらない価格が一般的なようです。


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