多摩川アートラインプロジエクト実行委員会「多摩川劇場」

◎図らずも裏切る強度と悪意を 「町づくり」参加アーチストに望む
水牛健太郎(評論家)

多摩川アートラインプロジエクトチラシ電車の通路に、5人の人物がほぼ等間隔で立っている。電車が東急蒲田駅を出るや、5人は、揺れるような緩い動きをはじめる。体をねじったり、手を振ったりする。やがて、ある一人の動きが、隣の人に連動しているのが分かってくる。しかしそれは、連動しているかのような、していないかのような伝わり方だ。時には一人間を置いて連動したり、まったく連動しなかったりもする。緩やかな関係性。遊び続ける体。電車は矢口渡、武蔵新田、下丸子、と進んでいく。駅に停車すると、窓から見えるホームでは、親子連れやカップルが不思議そうな顔で見ている。しかし、扉は開かないので、彼らの世界とこちらの世界は通じ合うことがない。

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パラドックス定数「三億円事件」

◎背広を着て制度の中で戦う男たち 萌え、愛情、知性の対象
水牛健太郎(評論家)

「三億円事件」公演チラシ一九六八年十二月、東京都府中市で白バイ警官を装った男に約三億円を運んでいた現金輸送車が奪取された三億円事件。七年後の公訴時効を経て今に至るまで事件の真相は明らかになっておらず、現在の数十億円に相当する被害金額の大きさ、手口の鮮やかさもあって、多くの人の想像力を刺激してきた。

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急な坂スタジオ「ラ・マレア横浜」(上)

横浜・吉田町のを舞台に10月3日-5日の3日間、「ラ・マレア横浜」と呼ばれる街頭パフォーマンスが繰り広げられました。アルゼンチンの劇作家・演出家の作品を、日本人の俳優をオーディションで選んで上演する国際企画です。母国のほか、ブリュッセル、ベルリン、リガ、ダブリンなどで、その都市のコンテクストに合わせたバージョンを発表してきたそうです。では横浜版はどういう相貌をみせたのか。本誌「ワンダーランド」の執筆者に読み解いてもらいたいと主催の急な坂スタジオの協力を得て、本公演はもちろん、「プレトーク」への参加、稽古見学などをお願いしました。以下、レビューを2回に分けて掲載します。(編集部)

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劇団チャリT企画「ネズミ狩り」

◎「大人」の気概
水牛健太郎(評論家)

「ネズミ狩り」公演チラシ「ふざけた社会派」を標榜するチャリT企画。「社会派」を大真面目に掲げる方が怪しい、どこか信用できないという時代が八〇年代この方、続いてきた。主宰の楢原拓はまさにその時代の子であり、開演前に八〇年代アイドル歌謡を大音響でかけるスタイル同様、「ふざけた社会派」の「ふざけた」という部分に、楢原が完全に真剣であることが逆説的に表現されていた。

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toi presents 「あゆみ」

◎演劇の「交換可能性」と「単独性」
松井周(サンプル主宰、劇作家・演出家・俳優)

「あゆみ」公演チラシ「私はどこにでもいる他の誰かと変わらないありふれた存在だ」という感覚は、誰でも感じられることのように思える。これを仮に「交換可能性」と呼ぶ。また、「私はただ一人であり、他人もそれぞれ唯一の存在だ」という感覚も誰でも感じるであろう。これを「単独性」と呼ぶ。この二つは相反する概念のようでありながら、演劇においては実はあまり矛盾しないかもしれない。

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演劇集団円「田中さんの青空」

◎青空よ、広がれ 一人芝居の功罪
因幡屋きよ子(因幡屋通信発行人)

「田中さんの青空」公演チラシ「この人、痴漢です!」
暗闇を引き裂くように女の声が響く。明かりがつくと、なぜかテーブルの上に若い女性(一人目の女/乙倉遥)がからだをねじ曲げて立っている。混雑した通勤電車の中で、誰かに触られたらしい。その犯人を逃がすまいと必死になっているのである。彼女以外は誰も登場しない。一人芝居である。土屋理敬の新作『田中さんの青空』は、冒頭から予想がつかなくなった。

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壱組印プリゼンツ「小林秀雄先生来る」

◎小林秀雄先生、来る!?
村井華代(西洋演劇理論研究)

「小林秀雄先生来る」公演チラシ「『玉勝間』という本の中にあるんですがね。「考える」の「か」は発語です。何も意味がない添えた言葉です。とすれば「考える」は「むかえる」だ、と言うんです。「むかえる」の「む」は「身」です。身はこの身体です、自分の体です。そして「かえる」の古語は「かう」です。「かう」って言葉は交わるって意味でしょ。だから「考える」とは、自分の身が何かと交わるってことなんです。」
これは、壱組印プリゼンツ「小林秀雄先生来る」の劇中おこなわれた小林秀雄の講演のなかにある言葉で、聞いたとき、いい言葉だと心に残ったのであるが、終演後、新宿東口の辺りのアルタやらルミネやらを眺めて、ぼんやりとうろついていると、突然このセリフが、舞台芸術そのものの核心である様なふうに心に浮かび、言葉の節々が、まるで待ちかねた出会いであったかの様に心に滲みわたった。そんな経験は、はじめてなので、ひどく心が動き、マックでメガたまごを喰っている間も、あやしい思いがしつづけた。

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Port B「サンシャイン62」

◎陽光と昔日 ~豊島区サンシャイン百景の旅
村井華代(西洋演劇研究)

「サンシャイン62」公演チラシPort Bの「ツアー・パフォーマンス」第3弾、『サンシャイン62』である。一昨年の『一方通行路 ~サルタヒコへの旅』では巣鴨地蔵通り商店街を、昨年の『東京/オリンピック』では「はとバス」で新旧東京の様々な “戦場”を旅した。今回は、メトロ東池袋駅の上にある劇場「あうるすぽっと」から5人一組で出発し、地図とタイムスケジュールに従って池袋サンシャイン60ビル周辺に散在するポイントを移動、再び出発点に戻ってくるという手筈である。

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劇団掘出者「チカクニイテトオク」

◎心の奥底から掘り出される言葉 劇作家の思いを越えて
因幡屋きよ子(因幡屋通信発行人)

「チカクニイテトオク」公演チラシ開幕前、舞台は白い布で覆われている。女性とスーツを着た男性がいて、どちらも客席案内のスタッフだと思っていたら、男性の様子が少し変である。不自然にからだを傾け、ゆらゆらと動く。これは登場人物の一人で、既にお芝居が始まっているらしい。

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チェルフィッチュ「フリータイム」

◎「希望の根拠」に連帯の契機はあるか?
松澤裕作(東京大学助教)

「フリータイム」公演チラシ岡田利規は政治的な劇作家である。彼は、前作「エンジョイ」を「プロレタリアート演劇」と称して憚らなかったし(注1)、「三月の五日間」が岸田賞を受賞した際も、「世界が平和なら、この作品はアクチュアリティを持ちません。」(注2)と述べていた。そのことと、チェルフィッチュに特有の方法とを、切り離して考えるべきではない。

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