連載「もう一度見たい舞台」第2回 劇団風の子「2+3」

◎「嘘言うなー!」(ぜひ京都弁のイントネーションで)
 都留由子

「風の子50年史」と「遊びの中の演劇」(作・演出の関谷幸雄の著書)
「風の子50年史」と「遊びの中の演劇」(作・演出の関矢幸雄の著書)

 もう一度見たい舞台を挙げるときりがない。孝夫・玉三郎の「桜姫東文章」、スウェーデンの劇団(名前を忘れてしまった)の「小さな紳士の話」、デンマークのボートシアター「フルーエン」、五期会の「そよそよ族の叛乱」、プロメテの「広島に原爆を落とす日」。どの作品も、いくつかの場面が鮮やかに目の前に浮かぶ。

 が、ひとつ、具体的な場面はほとんど覚えていないのに、もう一度見たい作品がある。1980年に京都のどこかの小学校の体育館で見た、劇団風の子の作品「2+3」だ。
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【レクチャー三昧】2014年2月

 先月に引き続き、まことに少なくて申し訳ございません。数じゃなくて質ですよ、ともたびたび言っていただいてはおりますが、ご興味を引くものがあれば幸いでございます。
(高橋楓)

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サンプル「永い遠足」

◎万延元年ではなく、1973年でもなく、2013年の…「遠足」、しかも、「永い」…
 高橋英之

 見知らぬ世界の話を聞くのが病的に好きだった。[注1]
 一時期、十年も昔のことだが、手あたり次第に仕事で出会った人間をつかまえては、自分の知らない世界の話を聞いてまわったことがある。
 カリフォルニアでベンチャー企業を創設した生物学者は、きまって皇居の横のパレスホテルを定宿にしていた。ランチタイムなら時間があると言われて、そのホテルのラウンジのレストランで、ペスカトーレ・ビアンコを食べながら聞いた話は、新型のヌードマウス[注2]の開発についてだった。
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【レクチャー三昧】2014年1月

どうにも少なくて申し訳ございません。年明けの催しはまだ告知されていないのが沢山あると思われます。また面白そうなものが見つかりましたら、【レクチャー三昧】カレンダー版に入力致します。一年間のご愛顧どうもありがとうございました。皆さまどうぞよいお年をお迎え下さい。(高橋楓)
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マルセロ・エヴェリン/デモリッション Inc. 「突然どこもかしこも黒山の人だかりとなる」

◎「群衆」形成の力学の可視化から、「個」の承認へ
 高嶋慈

 ブラジル出身の振付家、マルセロ・エヴェリンの作品との衝撃的な出会いは、2011年にKYOTO EXPERIMENTで上演された『マタドウロ(屠場)』である。『マタドウロ(屠場)』は、仮面や被り物で素顔を隠したほぼ全裸の男女のパフォーマーが、約1時間にわたり輪になって走り続けた後、最後に仮面を取って観客を凝視する、という挑発的な幕切れの作品であった。そこでは、人間らしさを剥奪されて動物的な隷属状態に置かれること、そして肉体に過酷な負荷をかけ続ける行為を通して、政治的・文化的闘争の場としての身体が提示されていた。昨年の同舞台芸術祭でのワーク・イン・プログレス公演を経て、今年上演された新作『突然どこもかしこも黒山の人だかりとなる』もまた、無防備に晒された身体の運動とその強度を通じて、暴力、狂気、力の行使、欲望、眼差し、そして人間としての承認について問いかける作品である。本作の鑑賞—より正確には「経験」は、観客という立ち位置の自明性や安全圏を手放す危うさをはらみつつ、見る者の思考と皮膚感覚を激しく揺さぶるものであった。以下では、前作『マタドウロ(屠場)』との比較も含めてレビューする(『マタドウロ(屠場)』のレビュー記事はこちら)。
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鵺的「この世の楽園」

◎嫌な男たち、抗わない女たち
 チンツィア・コデン × 北嶋孝(対談)

「この世の楽園」公演チラシ デザイン=詩森ろば
「この世の楽園」公演チラシ
デザイン=詩森ろば

「この世の楽園」ではない

北嶋 公演の率直な印象はいかがでしたか。
コデン タイトルが気になりました。「この世の楽園」でしょう。文字通りの「楽園」はどこにもないし、登場人物の会話にも楽園のような雰囲気は出てこない。見終わってどういう関係があるのかと考えました。
北嶋 そうですね。楽園ではないことは間違いありません。あんな緊張関係に満ちた「楽園」には暮らしたくない(笑)。地獄だとは思いませんが、登場する3人の男女はともに薄ら寒い関係だったので、むしろ皮肉っぽいし、反語的な意味が強いのではないでしょうか。高木さんの作品は案外意味のこもった強いタイトルを付けますね。鵺的の1回公演「暗黒地帯」も、文字通り「暗黒」が塗り込められているような世界が露出しました。その後は「不滅」「カップルズ」「荒野1/7」と続きます。小細工なしですね。
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shelf「nora(s)」

◎ノイズが無いということ
 田辺剛

「nora(s)」公演チラシ
「nora(s)」公演チラシ

 shelfの作品のシンプルさは、削られるものはできるだけ削ってだとか、引き算の発想だとか、そういうことで成り立っているのではない。わたしとしては久しぶりのshelf作品だった『nora(s)』において、久しぶりだったからこそと言うべきか、shelfの作品の核を垣間見たように思えた。
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大橋可也&ダンサーズ「グラン・ヴァカンス」

◎歩行の底に潜む根元的なリズムと時間
 竹重伸一

「グラン・ヴァカンス」公演チラシ
「グラン・ヴァカンス」公演チラシ

 私は舞台芸術には社会に対する思想的な批評性と美的強度が必要だと思う。どちらかならば備えている舞台を時折散見するが、両方となると極めて稀である。その両方を兼ね備えている「グラン・ヴァカンス」は私にとって今年日本で上演されたコンテンポラリーダンスで最も大きな収穫の一つであり、日本のコンテンポラリーダンスの真のオリジナリティーを示すものとして海外ツアーなども望みたい所だ。
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